第16話 真紅の花束
今回は桃里、紅玉それぞれの視点パートで分かれています。
この物語はフィクションのため、作中の団体、人物、学校(大学受験制度)などは現実とは一切関係ありません。
<桃里語り>
毎年誕生日になると紅玉からバースデーカードが届いた。
最初に神楽家を訪れた大学2年生の時の元旦の夜に、
「あの桃里さん。もしよろしければ誕生日を教えて頂いてもよろしいですか?」
と当時まだ中学生だった紅玉が聞いてきた。
「11月10日だよ」
そう教えると、
「11月10日……」
と呟きながら熱心にメモ帳に記入していた。
「差し支えなければ血液型も聞いてもよろしいでしょうか?」
そう遠慮がちに、だがしっかりと聞いてきた。
教えると、
「私の好きな漫画の推しのキャラクターと同じです」
と嬉々としながら、やはり熱心にメモを取っていた。
そして、
「私は12月3日が誕生日です」
ふふっと微笑んで言った。
「あぁ覚えた」
自分も思わず笑みがこぼれてそう答えた。
翌日、後ろ髪を引かれる思いで帰り支度をしていると、客間の扉からコンコンと音がした。
返事をして開けると紅玉がいた。
彼女は少し躊躇しながら、頬を染めて遠慮がちに、
「あの、お誕生日にメッセージカードをお送りしたらご迷惑でしょうか」
そう聞いてきた。
「いや、迷惑じゃない。嬉しいよ」
そう答えると、彼女の表情はぱあっと明るくなった。
彼女が手に持っていたメモ帳を受け取り、下宿先の住所と郵便番号を書いた。
その年の11月10日、メッセージカードが届いた。
可愛らしいカードには俺の誕生日を祝う言葉と共に、「一刀入魂」的なメッセージが書き添えてあったのには思わず吹き出して笑った。すごく嬉しくて部屋のデスクに飾っていた。
それから毎年11月10日になるとメッセージカードが届いた。
やはり可愛いカードの愛らしいメッセージの後には魂を込めた熱血なメッセージが書き連ねてあり、
「ふはっ」
と思わず笑顔がこぼれた。
大学卒業と就職の時にもお祝いのカードが届いた。その時は封筒の中に紅玉が家族と行った旅先で買った栞が同封されていた。その栞も大事に持っている。
カードは全部で4枚、壁に飾って眺めていた。
今年の2月に紅玉が下宿先に来た時には驚いていたが、嬉しそうだった。
そして今年の11月10日、神楽家では家族水入らずの自分の誕生パーティーが開かれた。
自分にとって初めて家族揃って過ごす誕生日だった。
何故か妙な三角帽子とたすきを紅玉に掛けられたが、それすらも愛おしかった。
家族揃って食べるケーキはこれまでで一番美味く感じた。
「お誕生日おめでとうございます、桃里さん」
彼女の子守歌みたいな優しい声に、嬉しさと愛おしさが胸に込み上げた。
<紅玉語り>
毎年誕生日になると桃里さんから薔薇の花束が届いた。
桃里さんが最初に神楽家に訪れた大学2年生の時の元旦の夜に、私は勇気を出して誕生日を聞いた。
ついでに血液型もちゃっかり聞いた。やっぱり気になる人のプロフィールは知りたい。
彼の誕生日は11月10日、血液型はAB型だった。
翌日、帰る準備をしている彼にバースデーカードを送って良いか聞いた。
押しつけがましいとイヤがられるかなと不安だったけど、「嬉しい」と言ってくれた彼の表情が社交辞令ではないことは当時中学生の私でもわかった。胸がいっぱいになった。
その年の11月10日、大学3年生になっていた彼の誕生日にバースデーカードを送った。
すると翌月の12月3日、私の誕生日に薔薇の花束が届いて、私は文字通りびっくり仰天した。
母は「まぁ素敵!これってそういうことよね?」と言いながら非常にときめいていた。
祖母は「おや、良かったじゃないか」と楽しそうに言い、父は「ほお、なるほど」と興味深そうにしていた。
私はすごく嬉しくて飛び跳ねたい様な気持ちになった。
大事に抱えて部屋で真紅の花束を眺めていた。
(どんな気持ちで贈ってくれたんだろう)
眺めながら甘い溜息が出た。
私のことをちょっと気に入ってくれたのかな、とか、バースデーカードのお礼にしては豪勢すぎるから、もしかして年末年始に泊まりに来たことへのお礼も兼ねているのかな、とか色々考えてしまった。
薔薇たちは部屋に飾ったあとブリザーブドフラワーとドライフラワーにした。
年末、再び彼が我が家にやって来た時に花束のお礼を伝えた。
どうして薔薇の花束だったのか尋ねると、
「ふふ、なんでだろうね」
と彼は微笑んで、なんだかちょっとはぐらかされた様な気分になったけど、
「君のことを大事だと思って贈った」
そう言って、彼はふわりと私の頭を撫でた。それだけで私の心は上機嫌になってしまった。
それから毎年12月3日になると真紅の薔薇の花束が届いた。
部屋に飾って眺めたあと、やはりブリザーブドフラワーとドライフラワーにして再び部屋に飾った。
そして今年の誕生日は……。
今日の昼間、家族揃って私の誕生日を祝ってくれた。私は18歳になった。
来年の誕生日には私はもう結婚している。そう思うと感慨深いものがあった。
とは言っても彼が婿に来るかたちなのだが。
彼は先月の逆襲とばかりに私にキラキラしたバースデーハットとたすきを掛けて嬉しそうに写真を撮っていた。
(桃里さんが楽しそうで良かった)
私は、彼が神楽の家族の中に在って幸せそうでいてくれるのが何より嬉しかった。
その後、父と母はライトアップが素敵な都内のホテルにディナーも兼ねて宿泊すると言って出かけて行った。祖母も友人宅に泊まりに行き、神楽邸には私と彼の2人きりになった。
11月の終わりに試験を受けて、現在は合格発表まで結果待ちだったが、もちろん勉強は続けていた。
「受験も佳境だから」と言う彼に、「今日は誕生日だからお願い」と私がワガママを言って2人でゆったりと過ごしていた。
ふと彼が何かに気づいた様に言った。
「あの棚に置いてあるのはブリザーブドフラワーか?」
「はい。去年あなたがくれたものです」
そう答えた私の顔は彼からは見えないけど、胸が温かくなって微笑んでいた。
「そうか。嬉しいな」
後ろから聞こえる彼の声も本当に嬉しそうだった。
「あなたがくれたものだから。毎年すごく嬉しかった」
私がそう言うと、
「俺もカード、すごく嬉しかったよ」
彼はそう言って私の髪を優しく撫でた。
そして今年も。
私の机には今日彼がくれた新たな真紅の薔薇が飾られていた。




