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第13話 群青の双子

この物語はフィクションであり、作中の団体、企業、旅館、サービス、人物などは現実とは一切関係ありません。

<桃里(とうり)語り>



鳳条(ほうじょう)ホールディングスと神楽(しがらき)コーポレーションの合併契約の締結はもう少し先なのだが、自分はこの合併が本当に神楽家のためになるのか、しばし考えている。

たしかにお互いにメリットはある。昔から独自のユニークさで発展してきた神楽家は部門によっては鳳条家をしのぐ勢いがあり、鳳条家にとってはそういった企業が傘下に入るのは経営的にも面白く、新たな結果を生み出すことになるだろう。神楽家にとっても鳳条家という後ろ盾が増えることで独自の試みの際にもさらなる安定した基盤が支えになるはずだ。

だが逆にその個性を押さえつけられないだろうか。神楽家は今後も独自で歩んでいく方が良いのではないか、などと考えていた。


そういう風に考える社員は自分だけではなく、社内に割と存在していた。

自分は立場上そのような考えを表に出すことは出来なかったので、同じ考えをもつ者からすれば鳳条家の人間であり、かつ弊社の社長令嬢と婚約した俺は面白くない存在であった。

意見をぶつけてくる者もいたが、直接言ってくるだけ良い。多くは影で物言う者たちであった。だが直接は言いづらいだろうし、今後の仕事・生活などがかかっている。思うところがあるのは当然だ。


そして自分とそういう者たちの間に入って、上手いこと調停してくれるのが、友人であり同期であり、現在では神楽邸の敷地に住んでいる藤崎桐弥(ふじさききりや)であった。


桐弥は周囲からは自分以上にクールな人間だと思われていて、常にアルカイックスマイルを浮かべた謎多き眼鏡であり、趣味はお菓子作りと献血である。昨年、新入社員として神楽コーポレーションに入社し、先に本社に入り自分に情報を伝えてくれていた。


「桃里は仕事においては色々な考えを理解することが出来る人間です。私利私欲はない、と懇切丁寧にわかりやすく、優しく説き伏せましたよ。相手方にも大いにご理解を頂けたようです」

そう言って桐弥は微笑を浮かべた。そして、

「本日は経理部の女子社員とのランチ会に参加してきます。明後日は旅行事業部の営業社員たちとです。それぞれから次期社長も参加して欲しいと要望がありまして、次回は必ず連れて行くと約束をしてまいります。そのつもりで宜しくお願いしますね」

と言い残し颯爽と去っていった。

そうやってアイツはさりげなく情報収集を行い、また俺の評判アップに繋がる様な話題をこちらもさりげなく提供している。実際、先方からは歓迎されているようだ。


先日、桐弥に「なぜそこまで自分に尽くしてくれるのか?」と聞いたことがある。

アイツは、

「それは勿論、自分の出世のためですよ。次期社長の評判を今から上げておいて、有利に事を運べるための土台作りが大事ですから」

といつもの微笑を浮かべてそう言った。

実際のところ合併後の人事がどうなるのかはまだ自分にも伝えられていないが、

「だが次期社長は俺ではなく、紅玉(こうぎょく)かもしれないぞ」

自分はそう伝えた。神楽のトップにはその方が良いと思っていたからだ。

だが、

「それならそれで構いません。どうせ一緒にやるのでしょう?私にとっては同じことですよ」

そして、

「まあ友情のため、と言うのも多少はあるかもしれませんね」

とやはり変わらぬ胡散臭い笑顔でそう言った。


大学で知り合い、友人になったが、

「最初は御曹司?チッと思いましたが、話してみたら意外と面白い人物だったので興味を持ちました。折角の機会ですので乗って差し上げますよ。このビッグウェーブに」

と、しばらくしてからアイツは俺と友人になったことをこう評した。


そして桐弥には双子の弟がいた。

双子の弟・蓮也(れんや)は元気で明るいサッカー少年がそのまま大人になった様なヤツだが、人当たりが良くあけっぴろげに見える割に口が固く大事なことは一体洩らさない性格であった。

双子に共通するのは、人の感情や周囲の状況をよく把握しているということだ。そういう所が自分とよく気が合った。


そして意外なことに、クールな双子兄の桐弥であっても自分よりかはずっと感情が素直に出るタイプであった。だがその分かりやすさが自分にとっては一緒にいて気が許せる存在であった。



そして(さかのぼ)ること約3カ月前。

息吹(いぶき)さんが言った。

「双子の弟殿をお嬢様の送迎ドライバーのルーティンに組み込むのは構いませんが、本当に宜しいのですか?」

自分には息吹さんの言わんとしていることが分かっている。

有能なメイド殿は続けた。

「いえ、あれ程お嬢様にご執着されて身辺の安全を気にかけておられますのに、ご友人とは言えお嬢様に懸想(けそう)する可能性のある殿方をドライバーにご推挙されるのは正直申しますと意外でございました」

そしてライバルの同業者に俺がこっそり秘術でもかけられているのでは?と言った。

俺はメイド殿に伝えた。

「もちろん、年齢に関係なく万が一でも彼女に手を出しそうな人間は断固として雇用しません。ですがアイツは信頼できる友人なのもありますが、すでに相手がいるので安心なのです」

と。



紅玉と初めて顔合わせをした双子はこう言った。

「しかし、想像以上のお姫様でしたね。桃里の想い人は」

桐弥は微笑を浮かべながらこちらを見た。

「だね。すごいお姫様オーラだった。思わず(かしず)きたくなっちゃったよ」

蓮也は驚いたような様子で言った。

 

自分は双子弟に対してこう伝えた。

「蓮也、俺はお前を信頼している。だが彼女に懸想し、万が一でも彼女に……」

「わーっ、そんな事は絶対にないから安心してよ。僕には好きな子がいるし、お姫様のことはしっかり守るから」

蓮也は「顔が怖すぎるよ、桃里……」と怯えながらそう言った。



双子弟・蓮也には九州の老舗旅館の跡取り娘である彼女がいる。

出会ったきっかけはアイツが失恋の傷心旅行でその旅館を訪れたことからだった。


蓮也は大学1年生の時には別の子と付き合っていた。だがその子がある日「桐弥のことも気になる」と言い出した。桐弥の名誉のために伝えておくがヤツはちょっかいなど出していない。

その上、その子は「どちらか選べない」などと言い出した。

蓮也は「それなら仕方ない。どちらも選ばなくていいよ」ときっぱり別れを告げた。

桐弥は「別に3人でお付き合いしても構いませんよ」と告げ、その子をドン引きさせた。


不思議なことに、双子は数日の間は少しギスギスしていたもののまた元の良好な関係に戻った。

蓮也はある日、

「自分を見直したいから傷心旅行に行ってくる」

と言ってきた。

俺は偶然にも買い物をしたデパートでたまたま引いた福引で当てた、2等の宿泊招待券を持っていた。

それを蓮也に譲ったら非常に驚かれ大変恐縮されたが、自分はアルバイトが忙しかったので無駄にしなくて済んで丁度良かったと言った。


傷心旅行のくせになぜか双子で行った九州の老舗旅館で、蓮也はそこの跡取り娘と恋に落ちた。

この娘はブレなかった。

そしてアイツは大学を卒業してから1年間、その旅館で住み込みで働いていた。

だが彼女の両親は娘が幼馴染と結婚して跡を継ぐことを望んでいたのだ。

幼馴染は隣に住んでいる純朴な眼鏡の青年で、高校・大学時代と旅館でアルバイトをしており、両親からの信頼は絶大だった。

「修行して出直してこい!」

と追い出された蓮也は神楽家で執事見習いとして、今日も元忍び一家の教育を受けながら仕事に勤しんでいる。



そして現在、8月初旬。

会社員は仕事だが、学生たちは夏休みである。


紅玉は今日、英語サークルの後輩たちの手伝いで学校へ行った。

12月に行う発表会の打ち合わせがあると言う。

紅玉たち3年生はもう引退で発表会自体には出ないのだが、夏休みに行われる事前打ち合わせには3年生も参加し、アドバイスを行うそうだ。


学校への行きは蓮也の運転する送迎車に乗って行った。

紅玉(いわ)く、アイツは色々話しやすいらしい。自分としてはやや複雑な心境であり、何かの折に双子弟をドライバーのルーティンから外そうかとも思案したが、彼女が気軽に話しかけられる存在も必要だと考え現在に至る。

彼女の場合は桐弥にも物怖じせずに話しかけているし、お菓子のお礼や感想なんかも嬉しそうに伝えている。双子も彼女のそういう気取らない、明るく可憐なお姫様ぶりに好感を持っているようだった。



今日は仕事が代休だったので、離れで久しぶりにボーッと過ごしていた。

すると、離れの玄関の扉をドンドンと叩く音が聞こえた。

(誰だ?)

この家の場合、直接の来客自体がない。通常は通用門で受け付け、その後執事やメイドが対応する。

となると屋敷内の家族か、スタッフたちとなるのだが。

「インターホンも鳴らさずにどうしたんだ」

インターホンの画面で確認すると、そこには双子弟・蓮也が映っていた。


「どどど、どうしよう桃里。新幹線の切符、今日だったよ」

蓮也は顔を真っ青にしてそう言った。

そう、コイツは追い出されたにも関わらず、いじらしくも繁忙期の8月いっぱいを九州の老舗旅館の手伝いに行くのだ。旅館の跡取り娘である彼女が両親に「それすらダメだと言うならもう跡は継がない!」と宣言したのである。

そして出発は明日の予定だったが、どうやら新幹線のチケットの日付を1日間違えて購入したようだ。

「まだ、間に合うのか?」

自分がそう聞くと、

「今、ここを出れば間に合うかも」

そう緊迫した様子で答えた。

「わかった。駅まで送ってやる。あと夕方の紅玉の送迎も俺が行くから大丈夫だ」


車の中でも謝りっぱなしだった蓮也を駅まで送ったのち神楽邸に戻った俺は、息吹さんに蓮也の件と紅玉の帰りの送迎は自分が行くことを伝えた。

そして今度こそ離れで夕方までのんびりしていた。


ボーッとしながらも思うのは紅玉のことばかり。

たとえ会社の合併がどちらの方向に行こうとも、彼女と必ず結婚する。

自分たちの場合は政略結婚はただのキッカケに過ぎない。

中身は恋愛結婚と同じ。それが少し早くなっただけだ。

それに夢の中のお姫様との繋がりを考えると、早くに婚約して一緒に暮らすことが出来て本当に良かったと思っている。


そして合併の件は、神楽家にとって本当に良い方向に行けるように自分が出来ることをしていくつもりだ。


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