第12話 想紅の神社へ
この物語はフィクションであり、作中に登場する神社、土地、場所、団体、人物、伝説等は現実とは一切関係ありません。
<桃里語り>
西日本の某県にある神楽の地、そこに神楽神社は在る。
今は都内に本家ごと移っているが、神楽家は昔からそこで繁栄した一族だと言われている。
先日、紅玉が持っていていたお守りを見て驚いた。
あの夢の中でお姫様にあげた髪飾りを模したような形をしていたからだ。
と言うことは、夢に出てきたあの不思議な国は日本に実在したと言うのだろうかと考えた。
しかし古代ならともかく、文化や文明の発展度合から見ても江戸時代並みの発展をしていたので、それならば歴史の資料に取り上げられていないのはおかしい。
自分が考えていたのは異世界。
または古代アトランティス伝説のように、古代に高度な文明が発展し、そして失われたとされる古代都市のようなものだった。
転生する魂は自由なのではないかと俺は考えていた。
神楽神社へは毎年、祖母である桔梗さんが初詣に行っていた。紅玉が持っているお守りはそのお土産だった。
そして数年前までは自分も一緒に行っていたと彼女は言った。
彼女の父・青一郎さんも婿入りが決まった時にお参りに行ったそうだ。
それならば自分も同じようにお参りに行きますと申し出た。ご先祖様へ神楽一族の一員になったという報告の挨拶をするという目的もあるが、とにかく神楽神社、神楽の地とあの夢の繋がりに興味があった。
美しい街並みの城下町からは海岸が望める。この街には神楽家の持つ酒造もあった。
新幹線からこの街まで車で約1時間、さらにそこから車で内陸に向かうこと1時間、そこに神楽神社は在った。
かなり古い建造物だが管理状態が良く、荘厳だが華麗という言葉の方が似合う雰囲気だった。
神楽神社は古代を感じさせる様な神秘的な空気に包まれていた。
周辺は林に囲まれて、薄く霧に覆われており、古代の衣装をまとった人間がひょいと現れても不思議ではない様な空気を感じた。
一礼してから鳥居をくぐり境内に入った。手水をとり、参道の端を通ってご神前に出て拝礼をした。
(紅玉が私と共に幸せに穏やかに暮せますように。願わくば2人、天寿を全うし同時に穏やかな旅立ちを迎えられますように)
そう祈った。この後、大事な神楽家の家族の息災も願い、拝礼を終え、会釈の後、拝殿を後にした。
神社へは事前に桔梗さんから連絡してもらっていた。
神楽家の家族は基本的に常識人だが、少しぶっ飛んでいるところもあり、だがその発想力や大胆さが代々一族の繁栄の継続に貢献してきたのだろう。
中でも紅玉の祖母である桔梗さんは、「この人は未来からやって来たのか?」と思う程、考え方が新しくて進歩的だった。脳みそがパソコンみたいに日々アップデートされている。
桔梗さんには夢の話や紅玉の能力のことには一切触れず、「自分が神楽家の歴史にものすごく興味があります」と話したら興味深そうに神社へ紹介してくれた。
神社の事務所である社務所に行き受付をした。所謂、厄払いなどの御祈願の申し込みを行う場所だ。
そうして自分も厄払いの御祈願を受けた。
神主の方の説明によると、やはり相当古い時代に建立されていた。言い伝えによると、もとは違う姿の神社であったものを古い時代に現在の姿に立て直したということだ。そして建立した者が神楽の一族のはじまりだと言われている。
建立した人物の名前は神楽某と境内の由緒書きに記述があった。以前、許可を頂いて読んだ書斎にあった神楽一族の歴史に関する書物にもその人物の名前が記載されていた。
祀られている神様についても教えてもらった。
恐れ多くも神様のお名前なので記載は控えさせていただく。
たしかに通称にするとあの夢で呼ばれていた「ひめがみさま」になると考えられる。
おそらく「日女神様」だろう。日女神様は「愛」を司る神様だと言う。
神楽神社の神紋はよぉく見るとハートマークの様なかたちをしている。はっきりとしたハートマークではなく、よぉく見るとのレベルだ。
そして自分も初めて知ったのだが、一般的に神社には「猪目」と呼ばれるハートマークの模様の装飾が多くあるようだ。神楽神社でも「猪目」のハートマークの装飾を発見したが、神紋の由来はまた別の意味らしい。
事前にお願いしていた通り、神主さんに特別に書庫に案内して頂いた。
小さな書庫だが、神社にまつわる色々な書物や資料が保管されている。
一般開示はされていないが、神楽家の婿だと言うことで特別に閲覧を許可された。
小さな書庫の中は、まさに時代を感じさせる空気が流れていた。
古典の原本のような書物、巻物なども保管されていた。
そして自分は資料を指紋などで汚さない様、白手袋とマスクを装備して資料探索にあたっている。
神楽家の書斎には「日女神様」について書かれたものは置いていなかった。
「日女神様」については詳細な記述が書かれた文献を読みたいのはさることながら、絵本とか観光パンフレットの様にわかりやすく伝説が書かれたものも読みたかった。
ある1冊の古い絵本を発見した。神楽の地ではなく、ここに来るまでに通った海岸が望める城下町の名称で「~~の伝説」といったタイトルだった。
その中に「しがらきのおひめさまのでんせつ」があった。
「しがらきのおひめさま」はおそらく「日女神様」のことだと思われたが。
内容としては、ある1人の人物が遠い昔を語ったとされる伝説だ。
神楽のお姫様は優しく深い愛情で、獰猛な獣でも手懐けられたと。
(これはまさに紅玉の能力のことではないのか⁉)
そう思った。
挿絵にはイメージ的にはタロットカードの大アルカナ「力」のカードを彷彿とさせるお姫様の姿が描かれていた。
そしてそのお姫様の絵は、着物や髪型から夢の中のお姫様によく似ていた。
永劫の時間の果てに再び出会えた様な懐かしい感覚になった。
だが同時に点と線が結びつかなくなった。
自分の考察では、あの夢の世界はやはり古代に消失した文明であると考えていた。
その中で「日女神様」の存在のみがこの神楽の地に残り神楽神社となった、と推測していた。
では一体、「しがらきのおひめさま」の伝説を語ったのは誰なのか。
もちろん夢の中の自分ではない。夢の中の自分はあの世界で命を閉じていた。
初代の神楽某なのだろうか。某は消失した文明の生き残りで、この神楽の地で生き延びたというのだろうか。
おそらく元になった文献が、運が良ければこの中にあるはずだ。……すべて漢字で書かれているものか、新しくても歴史的仮名遣いの文献が……。
今日は日帰りのため、ここですべてを吟味して、じっくり読んでいる時間がないのが惜しい。
これは少々ここに通う必要があるなと考えた。桔梗さんには神主さんに「婿は歴オタで神楽オタ」だとでも伝えてもらおう。
また、もう1冊興味深い資料を見つけた。「神楽の産業の歴史」。
その中にある「装飾加工技術の歴史」だ。
神楽一族のはじまりの人物がこの地の天然石をこよなく愛し装飾に用いたとのことだ。
そして優秀な装飾加工技術者がこの地に集ったという記述があった。
現在の神楽では装飾加工は取り扱っていない。と言うことはそこから独立したということだろうか。
しかしふと周りを見回してみると、書庫と言うのは独特な雰囲気があるなと感じた。
棚に敷き詰められた古い書物たちが余計にその雰囲気を醸し出していた。
夕暮れの図書館に気づけば自分1人しか残っていなかった時のもの寂しさを感じた。
(これで電灯がパチパチ点滅したらまさに、な雰囲気だよな)
などと思った。
自分はもともと怪談話が好きなのだが、現実に自分が心霊体験をするのは御免被る。
まあ紅玉のボディーガードのおかげで多少の耐性は付いただろう。
実際は超人の域を遥かに超えた人間の所業であったが。
電灯は点滅しなかった。
俺は資料を読むのに集中していた。
……おわかりいだけるだろうか?
「肩を人差し指でポンとつつかれる感覚」を……。
細い指の感触だった。
はっと振り向いたが、もちろん誰の姿も見えなかった。
書庫の隅に誰かが立っているということもなかった。
その瞬間、視界の隅で、細くて白い指がある方向を指し示すのがちらりと映った。
しかし一瞬だけで消えた。
その方向を見ると、小さなガラスケースがあった。
それの存在に入った時からまったく気づいていなかった。
見ると、木片?いや木の書簡だ。割れて大きな破片になっている。
そこには文字が書かれていた。古語や漢詩の漢文に似ているが、より難解な感じの文章だった。
こちらは撮影禁止なので勿論撮影はしない。それとこう言った古い文献には見えない強力なエネルギーがありそうで写真に撮るのは心情的にも控えたい感覚があった。
そこでその文章を何とかメモを取った。
書庫を出て、神主さんにお礼を伝えつつ、先程の木簡の文章をメモさせて頂いたが宜しいかと尋ねたところ、許可を頂けた。
だが、木簡の文章の内容については未だ解読出来ていないという。
また俺以外にもあの木簡の文字に興味を持った人物がいるというのだ。
この県にある大学の助教授だと言う。大学の助教授だから閲覧を特別に許可したという事だった。
もし気になるなら、その人物を訪ねてみるといいですよと言った。
帰りにお守りを授与してもらった。
桃色のお守りだ。紅玉が持っていたのは紅色だった。
紅玉への祈りを込めたこちらを彼女へ渡し、彼女が今持っているものを自分に貰う。つまり交換するのはお守り授与的にはアリだろうか。どうか今回はお許し願いたい。
帰りの新幹線で紅玉を想った。
彼女は今日、夏期講習のオンライン授業を1日受講している。
彼女の能力と夢の中のお姫様、その国、日女神様、神楽一族、そして神楽神社。
その繋がりを調べたくて、今回は急ぎ1人で詣でに来てしまったが、来年は2人で初詣に行こうと思った。
そして、それまでにあの木簡に書かれた文章が何なのか、ヒントになるものなのか、それを調べるべく、神主さんの言っていた大学助教授に連絡を取ってみよう。そう考えていた。




