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第11話 深紅の秘密

今回も紅玉、桃里それぞれの視点パートで分かれています。

この物語はフィクションのため、作中の病院、医療、医療行為、身体状況、学校(オンライン授業など)、団体、人物などは現実とは一切関係がありません。

<紅玉(こうぎょく)語り>



「あれは君の力だったんだろう?」

桃里(とうり)さんは私にそう尋ねた。



先日、原因不明の昏睡(こんすい)状態で丸一日眠り続け、目が覚めた時には病院のベッドの上だった。

そして意識を失う前、私は「胸が痛い」と言ったという。だがどちらにも特に異常は見られなかった。


目が覚めた後はもうすっかり体調は戻っていてすぐに退院したが、今週は念のため学校を週の前半は休んで、後半はオンラインで授業を受けていた。

私は神楽(しがらき)家の自室で過ごしていた。桃里さんは私の容体を心配して、仕事から帰宅すると一旦離れで入浴と着替えを済ませた後は、私の自室に布団を敷いてそこで眠っていた。翌日の仕事の準備も私の部屋のソファのテーブルでしていた。


週の前半、私は体調に異変はなかったが、桃里さんからも両親からも休んでいるよう申し伝えられていたためベッドに横になっていた。

夜になって桃里さんがやって来た。お風呂上りに急いで来てくれたようで髪が濡れていた。

私は起き上がって彼を出迎えた。

彼は私に身体の具合について聞いたあと、ベッドサイドに腰をかけて優しく私の頭を撫でた。

「寂しい思いをさせた。本当にすまなかった」

彼は切実な声でそう言った。


「こうして来てくれて嬉しいですよ」

私がそう微笑むと、

「いや、先週、一週間も君を避けていた」

「あ……」

招待状への出欠席を巡って口論になり、私は愚かにも「桃里さん以外の人との時間も大事なのではないか」などと建前の意見を彼に述べてしまったのだ。本心では私の時間はすべて彼と共に過ごしたいと思っていたのに。

彼はまるで自分が私に拒絶でもされたかの様にショックを受けていたのが分かった。

彼は1人になって悩み考え、とても辛そうだったのに私の意見を尊重しようとしてくれた。

けれど私が本心を打ち明け、2人で過ごせる時間がどれほど大切か実感し、私は本心に従って生きていくことを決めた。


ただ、その離れていた1週間、彼に会えない寂しさに、彼のあの切ない表情を思い出すたびに胸がチクリと痛んだ。感情が抑えきれない程の切なさを感じた時に一瞬だけチクリと刺すような痛みがあったが、まさか病院で検査までされるとは思いもしなかった。

いつも冷静な彼がものすごく焦っていたと後で母から聞いた。


「胸が痛んだのは俺のせいだろう。もう二度と寂しい思いをさせないから」

彼は切なく、真剣な眼差しで私を見つめてそう言った。



そして、彼は小さな声で(ささや)くように、

「あれは君の力だったんだろう?」

と私に尋ねた。

私は、

「あれって、何ですか?」

とわからないフリをしたが、

「俺にはわかっているよ。あの会場で友人の兄を真人間に変えたのは君なんだろう」

と彼は言った。

そして私の肩を優しいけれどしっかりと(つか)み、

「俺にはすべてを話してほしい」

そう真剣な目で私を見つめてそう言った。


彼の漆黒に輝き射るような真剣な眼差しに(とら)えられた私は、すべてを彼に話した。


昔から我が一族の守り神を(まつ)る神社のお守りを持って優しく祈ると、嫌な人や出来事が遠ざかってくれたこと。

でもその祈りは本当にごく(まれ)に、過去にに2、3度だけ、決して頻繁には行ってはいないこと。

今回ほどの効果があったことは初めてで、私自身も驚いていること。

また、昔から怪我の治りが早くて傷跡が一切残らないほどキレイに完治すること。

そして、それらのことは誰にも言っていないこと。



彼はそれを何故かすんなりと受け入れるかの様に納得して聞いていた。

私は彼にどう思われているのか心配になり、

「気持ち悪いとか、おかしいとか、思いませんか?」

そうおずおずと聞いてみると、彼は微笑みながら、

「思わないよ」

そう言った。

私が驚いていると、

「古くからの由緒正しい神楽家だ。それに君の(かも)し出すお姫様の様なオーラ。仮に神子(みこ)の様な力があろうとも俺は驚かない」

彼はそうきっぱりと言った。


「だが約束して欲しい。これらは俺たち2人だけの秘密だ。他の者には決して言わないように。何か不安なことがあればすぐに俺に相談して欲しい」

彼はまっすぐ私を見てそう言った。

私も、

「はい。必ずそうします」

真っ直ぐ彼を見つめてそう誓った。

彼が私のことをおかしいとか思わずに受け入れてくれて、そして理解しようとしてくれているのが心の底から嬉しくて、私の目からは涙が零れた。

彼は私の頬に流れる涙を(ぬぐ)い、さらにこう言った。

「その力は、今後本当に自分を守る必要がある場面以外では決して使わないようにしてくれ」

そう言って切実な目で私を見つめる彼に、私はとても切ない気持ちになった。

「はい」

そう答えると、彼はまだ切ない表情のまま私に微笑んだ。





<桃里語り>



夢の中のお姫様は不思議な力が使えた。


あの会場で彼女の友人の兄が真人間に戻る瞬間を目の当たりにした時には、きっと彼女の力によるものだろうと、すぐに思った。

同時にあのお姫様の不思議な力が現代になって紅玉に受け継がれていたのだと驚いた。

そして、俺はあることに(おび)えもしていた。

だから彼女が意識を失った時には息が止まりそうだったのが、「胸が痛い」と聞こえてさらに俺は動悸が収まらなかった。


まさか心臓の病まで受け継がれてはいないだろうかと。


夢の中のお姫様は24歳で亡くなった。だが病気が見つかったのは19歳の頃だ。

見つかった時にはもう手遅れで、夢の中の自分が「ひめがみさま」に祈り、命を分け与えて生き長らえた。


あれからずっと考えていた。


夢の中のお姫様が心臓の病を得たのは19歳よりもっと以前で、たとえば夢の中の自分への想いに苦しんでいた時、実は密かに心臓が苦しいことも我慢していたのではないだろうか。もしそこまでの自覚症状が無かったとしても積み重なったものが19歳で一気に悪化したのではないかと。

そしてそれに気づいてあげられなかった夢の中の自分の、完全なる取り返しのつかない落ち度であったと。


そうだとしたら今17歳の紅玉も19歳で心臓の病を発病してしまうのだろうか。

現代医療なら早期発見、早期治療で完治出来ないものだろうか。完治が出来なくても病気と付き合って生活していくとなったとしても、もう少し長く生きられないものだろうか。


俺は紅玉には穏やかに幸せな人生を長く送って欲しかった。

願わくば2人、天寿を全うして、彼女を残していくのは心残りなので、自分が彼女より1日だけ長く生きて命を終えることを望んでいた。


今回の病院の検査では、心臓に何も異常は見られなかった。

まずは安心した。

だが今回、彼女が胸の痛みを訴えた状況を、夢のお姫様の状況と照らし合わせると、

「心の痛みが心臓に直結するのではないか」

非科学的だが、そういった仮設を立てていた。


だからもう二度と彼女を突き放す様な真似はしない。

彼女を悲しませることがない様に。寂しい思いをさせない様に。

そう誓った。



そして車に戻ったあと昏睡状態に陥ったのは、力を使い過ぎたせいかもしれないと考えた。

意識を失う前、少し疲労感とか力が入らない感じがした、と本人も言っていた。

命を削る可能性があるかもしれないと考え、その力は本当にいざ自分を守る必要がある時以外は使わない様、彼女に伝えた。



また、夢の中のお姫様は17歳の容姿からほぼ変わることもなかった。

24歳も十分に若すぎるくらいだが、17歳頃のさらに瑞々しい若さを保っていた。

本人も容姿が変わらないことを分かっていた様で、もともと落ち着いた性格だったので少し大人びて見えたのと、あえて装いや髪型などで落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


身体のリカバリーの力が通常の人より強く働いていたのだと思う。心臓以外では。


紅玉もそうなるのだろうか。

お姫様の能力が紅玉にどこまで受け継がれているのか、それを日々の中で注意深く確認していく必要があると自分は考えていた。


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