ミッドランド鉄道とLMS鉄道/ノート031
時計台がついた尖塔・赤煉瓦を積み上げた宮殿のような建物に入る。教会のような、列柱が梁と一体になって涙形に尖がったアーチ天井をなした回廊をどこまでもゆく。すると、つきあたったところは、さらに、奥へと続いて、天井ガラスを支える鉄筋アーチの空間となる。蒸気機関車を数十両収めたホーム。そこがセント・パンラス駅だ。――1948年、国営化されるまで、イングランド最大、いや欧州最大のLMS (ロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道)だった。
LMSは1922年から1948年に存在しているわけだが、アガサ・クリスティー「ハンター荘の謎」(『ポワロの事件簿1』厚木淳 訳 創元社1980年 94頁10行)では、ミッドランド鉄道として書かれている。
そのミッドランド鉄道とは1844年から1922年にかけて存在した、LMSの前身となる鉄道会社のことで、第一次世界大戦の難民としてベルギーから渡英してきたポワロはもちろん、名探偵シャーロック・ホームズも北にむかうときは利用していたことになる。スコットランド、ヨーク、湖水地方にでかけるときは同鉄道会社の列車を利用したわけだ。
「ハンター荘の謎」でポワロの相棒ヘイスティング大尉が殺人の行われた現地にむかうとき、この鉄道をつかった。――すると物語の時期は、第一次世界大戦期からミドランド鉄道が他の鉄道と合併再編された時期、1914年から1922年の間となる。
この物語のなかで、ロンドンを発った大尉が一等車をつかっている。
LWT 『名探偵ポワロ』で描かれるアールデコ調で統一された物語のなかでは、一等車が、車両の片側窓際に通路を通し、もう片側に仕切られた小部屋を配した席になっていて、なかには、各小部屋に扉がついていて直接ホームに降り立つことができるようになっているものまであった。――他方で、二等車の車両は、われわれもなじみ深い、ローカル線・ボックス席(四人掛けシート)だ。
引用参考文献/
本文中記載
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