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「昔から噂で──トリスタン島には洞穴があるということをきいていました。洞穴は普段は水没しているか、入り口天井部のところだけわずかに海面上に開いているのですけれども満潮になると入り口は水面下に隠れてしまう。ただし洞窟内部は広くて小舟であれば、満潮干潮に限らず数艘隠しておくことができる大きな空間になっている──というものです」

「ばかばかしい妄想だ。なにを根拠に……」

 チャールズは明らかに狼狽している。レザー警部がまた口を挟んだ。

「劇場でレディー・シナモンにいわれて、なるほどと思った私は、部下に命じてトリスタン島を調べさせてみたところ、レディー・シナモンのいわれるように、海面すれすれで開口している洞窟は確かにありました。縁が傷ついて粘板岩細片が食い込んでいる舟は、三艘ありました」

 警部が、にやり、と笑った。

「一艘は自宅裏の波止場に停泊しているジョージ・セシルのもの、二艘めはシケで偶然打ち上げられた灯台守のもの、そして三艘めはチャールズさん、あなたのものだ」

「……」

 チャールズは押し黙った。シナモンが話しを続けた。

「洞窟に隠れて、ジョージ小父様を待ち伏せし殺害したあなたは、再びボートに乗り込みおじさまのボートをロープで結わえて曳航し洞窟に隠れ、夜になるのを待った。偶然殺人を目撃したジョンと話しを訊いた巡査たちが島に上陸したときは夕方で、あなたは洞窟に潜んでいた──」


 入り口の低い洞窟への出入り口にこすれた傷でボート二艘は船縁に引っ掻いたような傷をつくり粘板岩の砕塵が傷口に入り込んだのだ。――用心深いチャールズは人目につかないように、夜を待って、洞窟をでた。チャールズは、捜査を攪乱する目的でジョージ・セシル邸裏の船着き場まで、被害者のモーターボートを曳航して行こうとしたのだ。そこでカンテラを照らしたボートが近寄ってきた。乗っているのは灯台守だ。

「チャールズの旦那、さあ、約束だ。アドバイス料と口止め料をあわせた金をくれよ。それからジョージのファイルもな」

「判った。金は準備してある。ただファイルは何冊もあってけっこう重い。舟を寄せてそっちへ移すのを手伝ってくれ」

 チャールズはそういうと、灯台守がいわれるまま船を寄せてきて乗り移ってきた。問題のファイルはジュラルミンの箱に収められていて、ずっしりと重く、蓋を開けて何冊かずつに分けて持ち出さねばならなかった。箱からファイル数冊を取り出し抱え込んだ灯台守が自分のボートに乗り移ったとき、チャールズは隠し持っていたナイフを灯台守の背に突き刺し殺害した。灯台守はしばらくもだえて、ボートに横になる格好で息絶えた。それが波で揺られているうちに仰向けになった。もちろんナイフは仰向けになった拍子に外れている。

【登場人物】


●レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

●伯爵夫妻(シナモンの両親)及び使用人たち

●ウルフレザー家宰、老庭師夫妻、ジョン(庭師の孫)、調理師夫妻。

●サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。歴史上の人物。

●T.E.ロレンス大佐/アラビアのロレンス。第一次世界大戦の英雄。歴史上の人物。

●オットー・スコルツェニー/後にナチスドイツ大佐となる。歴史上の人物。

●ミューラー/スコルツェニーの友人。

●ジョージ・セシル及び関係者/レオノイスの町の大地主(第1の被害者)。エリー(妻)、モーガン(友人)、チャールズ(従弟)、エディック(従弟)

●その他/灯台守(第2の被害者)、商工会会長(劇団座長)、駐在の巡査、レザー警部(コンウォール警察)

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