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第三章 ウバティー


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 レオノイス祭りが終わった翌日は、穏やかな夏の午後四時のこと、海に臨んだ断崖にたたずむレオノイス城の庭において伯爵夫妻主催である恒例のティーパーテーが催される。日頃から庭師の老人が丹念に手入れをしている庭には、色とりどりの花々が咲き乱れており訪れた来賓を楽しませ、庭の中央にはその人たちをもてなすため大きなテーブルがいくつも並べられていた。

 来賓には町の名士のほかに、今回の事件に関わった人々も招かれていた。主賓であるサトウ卿、T・E・ロレンス、捜査に携わったレザー警部、若い巡査、祭りの実行委員であるレオノイス商工会の青年、そして殺害されたジョージ・セシルの親族・友人であるエリー夫人、チャールズ、エディック、モーガンの姿もあった。会場の人々は盛装している。裏方には、庭師と調理師の夫妻と庭師の少年ジョンが大忙しで、サンドイッチやらスコーンを載せたケーキケースを運んでいる。

 伯爵の祝辞が述べられ催しは和やかに進み、来客たちは自慢の隠し芸を披露しだした。でっぷりと肥った町長のシルクハットから鳩をだす手品、警察署長夫妻のマンデリンとフラメンコ、商工会の青年の玉乗り……会場は拍手と歓声に包まれた。

 隠し芸のとりとなったのはシナモンであった。サトウ卿とロレンスは、十三歳の少女に順番が回ってきたとき、少女がさりげなくレザー警部に目配せをしたのを察した。若い巡査は、そんな少女の目配せには気がつかず、隣にいたレザー警部に話しかけた。

「町中の人たちがみんないうんですよ、『レディー・シナモンの紅茶占いはよく当たる』って……」

「ほう、それは楽しみだ」

 司会役のサトウ卿がシナモンを紹介した。

「ご来賓の皆様、次に演じますのは皆様ご存じ伯爵のご息女でありますレディー・シナモン──演じますのは紅茶占いです……」

膝まづくような仕草をするカーテシー。スカートの両端をつまんでその人は会釈した。

 ――レディー・シナモン……ついこないだまで愛らしいお子様だったのに、かくも美しく成長なされた。この方は成長すればするほど、風の妖精シルフィーのように優雅になられていく。


 会場がどよめき、また静かになった。

「本日の紅茶はウバです。ご承知のようにセイロン産ウバティーは、銀ポットから湯煙をあげティーカップに注がれたとき、薔薇のように鮮やかな紅色の液体に、黄金の輪『ゴールデンリング』を浮かばせるのです。『ゴールデンリング』で連想されるものは──そう、結婚指輪ですね──」

 シナモンの瞳が一瞬、モーガンの横にいたエリー夫人に向けられた。女性客たちの視線が一斉に左手薬指にむけられ、儚げな未亡人の視線も同じように左手薬指にむけられた。  ロレンスが隣にいたアーネスト・サトウにいった。

「ウバですか──僕は中近東での生活が長く、茶といえばトルコの「チャイ」ばかり飲んでいましたよ」

 現在スリランカと名を変えた旧セイロンに産するウバ茶は、花のような甘み、芳醇でスパイシーな渋み、口にしたときにかすかに漂うメントール香のような味わいが特徴で、インドのダージリンや中国の祁門キーマンに並ぶ世界三大銘茶と賞賛される。

【登場人物】


●レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

●伯爵夫妻(シナモンの両親)及び使用人たち

●ウルフレザー家宰、老庭師夫妻、ジョン(庭師の孫)、調理師夫妻。

●サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。歴史上の人物。

●T.E.ロレンス大佐/アラビアのロレンス。第一次世界大戦の英雄。歴史上の人物。

●オットー・スコルツェニー/後にナチスドイツ大佐となる。歴史上の人物。

●ミューラー/スコルツェニーの友人。

●ジョージ・セシル及び関係者/レオノイスの町の大地主(第1の被害者)。エリー(妻)、モーガン(友人)、チャールズ(従弟)、エディック(従弟)

●その他/灯台守(第2の被害者)、商工会会長(劇団座長)、駐在の巡査、レザー警部(コンウォール警察)

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