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008

スコルツェニーとミューラー

挿絵(By みてみん)


008


 観客席に男女二人がやってきたのだが、少し遅れてきたため立ち見になってしまった。不倫が噂されるモーガンとエリーである。もっともエリーは昨今、パートナーを失い独身となったので問題はなくなったわけであるが……。

 モーガンが、ハンドバックからオペラグラスを取り出したエリーの耳元にささやいた。

(──シナモンか……もうこんなに大きくなったんだね。昔、ジョージに、『シナモンをだっこしていいかい?』 ときいたら、ジョージの奴、なんていったと思う? 『シナモンはいつか私の娘にする。君のような女ったらしにはだっこなんてせない。指一本でも触れてみろ。射殺するぞ』ってにらまれたんだ)

 それを訊いたエリーは、くすり、と笑った。

 観客席へ通じる入り口のところには警官が立っていて、不審者が入場していないかチェックしているのだが、いまのところそれらしき人物は見あたらないようだ。

 入り口付近の席に座っていたロレンスがエリーに、

「小用を思い出しましたので席をたちます、よろしければお掛けください」

 といって席を譲ると、一度劇場を出て裏口へと回り込んだ。

 警官はロレンスを一瞥したが、べつに怪しい様子もないので、また観客席のほうを見回しはじめた。

 やや離れた席には、スコルツェニーとミューラーの二人の姿もあり、出ていくロレンスの姿をみつけるなり、スコルツェニーがほくそ笑んだ。横にいたミュラーは不思議そうに耳打ちしてたずねた。

(あれはロレンスだね、スコルツェニー。何がおかしいの?)

(いや、さすがだなあって、感心したんだよ。確かにあの位置からだと刺客をみつけにくい。そう舞台の側に回り込むとみつけやすい)

(ねえ、スコルツェニー。ひとつきいていい? ロレンスに情報をくれてやった真意は何?)

(真意? 少々ハプニングはあったけれど、僕たちはミッションを完了した。これ以上無駄な血を流す必要がないんだよ)

 優しげな瞳の少年が、ふう、と一息いれてから、(じゃあ、もし、狙われているのがシナモンでなかったら?)と訊き返す。

 頬傷の少年が悪戯な笑みを浮かべた。

(ミューラー、君はいい奴だけれど、ときどきとても意地悪になるのだね。僕にそれをいわせる気かい?)

(スコルツェニー、君は優しいがときどき<黒き竜>となり、あらゆる人間の運命を指先でもてあそぶ。あのロレンスやシナモンでさえも……)

(いったはずだよ、ミューラー。僕はダーウインの『進化論』の信奉者なんだ。人類の頂点に君臨する人──シナモン──を僕は愛する。だから存在価値をもたない害虫どもから僕が守るのさ、どんな手を使ってでもね)

 観客席のもっとも後ろでそのような動きがあったのとは関係なく、第五幕が開かれた。

【登場人物】


●レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

●伯爵夫妻(シナモンの両親)及び使用人たち

●ウルフレザー家宰、老庭師夫妻、ジョン(庭師の孫)、調理師夫妻。

●サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。歴史上の人物。

●T.E.ロレンス大佐/アラビアのロレンス。第一次世界大戦の英雄。歴史上の人物。

●オットー・スコルツェニー/後にナチスドイツ大佐となる。歴史上の人物。

●ミューラー/スコルツェニーの友人。

●ジョージ・セシル及び関係者/レオノイスの町の大地主(第1の被害者)。エリー(妻)、モーガン(友人)、チャールズ(従弟)、エディック(従弟)

●その他/灯台守(第2の被害者)、商工会会長(劇団座長)、駐在の巡査、レザー警部(コンウォール警察)

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