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     005


朝方、コンウォールの王城城門前に騎士トリスタンとその従者ゴルヴナルの二人がたどりついた。

「とうとう帰り着きましたね、トリスタン様」

 従者が感慨深げにいうとトリスタンは深くうなづいた。門番が二人の姿をみつけ開門すると、マルク王が駆け寄ってきてトリスタンを抱きしめた。

「愛するわが甥よ、死んだかと思っていたぞ」

「叔父上、ご心配をおかけしました」

 その様子を苦々しくみていた臣下たちがおり、メロートという諸侯は最先鋒であった。

(マルク王が、王妃を亡くされて久しい。このままでは王位はトリスタンにいってしまう。トリスタンはもともと外国人だ。外国人にコンウォールの王統を継がせるわけにはいかぬ。ここは新しい王妃をお迎えして御世継ぎをもうけて戴かねば……)

 メロートは諸侯たちを誘って王に進言した。

「偉大なるマルク王よ。そろそろ臣民はお世継ぎを待ち望んでおります。そろそろ新しき王妃をお迎え戴いてはいかがかと……」 

 このとき一話の燕が舞い降りてマルク王の指先にとまった。燕は黄金の髪をくわえていた。

「ほう、髪の毛をくわえておるな。黄金の髪だ」

 そうつぶやくと朗らかに笑った。

「この髪の娘を王妃とする」

 重臣一門衆が顔を見合わせた。


 ──煙に巻くのかマルク王よ、あなたはあくまで、王位をトリスタンに渡すというのか? なれば親族であるわれらが、正統なるコンウォールの血筋を守るまでのことだ。


(危うい。このままでは内乱になる。内乱が起こればアイルランドが攻めてくる。そうすればコンウォールは終わりだ)

 危惧したトリスタンが、マルク王の指先にとまっている燕をふとみると、見事な黄金の髪の色艶からアイルランド王女が思い浮かんだ。

(あの娘こそ、内乱を防いでくれるに違いない。王女に嫁いでもらえば、コンウォールの臣下は一つにまとまり、アイルランドは仇敵転じて心強い盟友となろう……一石二鳥だ)

 トリスタンはマルク王に進言した。

「黄金の髪の娘に心当たりがございます。その髪はアイルランド王女イゾルテのもの。マルク王よ、私はいま一度、アイルランドに参りとうございます」

 王はとめたが、トリスタンはきかず、従者ゴルヴナルを伴って再び船上の人となった。


 そのころアイルランドでは黒き竜が地割れから姿を現し人々を襲って、国民を恐怖に陥れていた。アイルランドの国王は触れをだした。


 ──黒き竜を倒した者に王女イゾルテを与える。


 観客席にいた老紳士と庭師の老夫婦、調理師の若夫婦に庭師の孫の五人が、トリスタンに扮したシナモンの演技に魅了されていた。ジョンは興奮していった。

「かっこいいよなあ、トリスタンをやらせたら、姫様が一番だ!」

 レオノイス城の人々は皆うなづいた。そんなレオノイス城の人々の席のはるか後方の席には、いつの間に現れたのだろう細身で小柄な男がいた。居酒屋にいた男だ。

(あれが伯爵令嬢だな)

 男は懐に拳銃を隠し持っており拳銃に手を触れようとしたとき、少し離れた席にまた青灰色の瞳をした人が座ったので、男はとりやめ席を去った。青灰色の瞳の人は<アラビアのロレンス>である。

 観客席の外縁には、警察署の巡査を始めとする警察官たち五名が陣どって警備していていたが男が刺客だとは気づかないようだ。観客席の刺客が立ち去るとロレンスは後を追った。刺客もロレンスの気配に気づいたようで、演じてゆっくりした歩調から速歩きとなり、最後には駆けだした。ロレンスも駆けた。

 劇場からレオノイス駅前通りを抜け市街地に抜けロレンスが近づいたとき、刺客との間に軍用トラック数両がわって入って行く手を阻んだその隙に、刺客は市街地の小路地に逃げ込んでロレンスを振り切った。

 翌日、レオノイス夏祭りとなった。朝方、花火が打ち上げられ、パレードは城から始まって、大聖堂、町役場、駅、劇場へとむかう。メインストリートに臨んだ宿屋の野外席で朝食をとっていたオットー・スコルッエニーとミューラーの二人は、デザートの莓シャーベットをほおばりながらパレードを見物していた。

「ねえ、スコルッエニー。シナモンは、ほんとに撃たれちゃうよ」  

「可愛いことをいうんだね、ミューラー。ありえないさ。姫君には、最強騎士<アラビアのロレンス>がついているのだよ」

「そりゃあ、そうだけどさあ……」

 少年たちの話していることは物騒ではあるが、内容をきかずにおれば天使のようで、スコルッエニーの頬にある傷も野性的なしなやかさを感じさせ、遠巻きにみていたご婦人方の視線を釘付けにした。

 パレードは、色とりどりの中世風装束で着飾った町の子供たちが楽器を演奏し、赤と青の旗を交互に投げ合う旗手、路面で宙返りをしながら沿道の群衆を楽しませている軽業師を気取った若者たちが続いていく。そして黄金で飾った白い馬車が現れた。人々は喜々として馬車をのぞき込んで、がっかりした様子になった。

(馬車に姫様が乗っていない)

  順調にコースを巡ったパレードは劇場にたどり着いた。

【登場人物】


●レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

●伯爵夫妻(シナモンの両親)及び使用人たち

●ウルフレザー家宰、老庭師夫妻、ジョン(庭師の孫)、調理師夫妻。

●サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。歴史上の人物。

●T.E.ロレンス大佐/アラビアのロレンス。第一次世界大戦の英雄。歴史上の人物。

●オットー・スコルツェニー/後にナチスドイツ大佐となる。歴史上の人物。

●ミューラー/スコルツェニーの友人。

●ジョージ・セシル及び関係者/レオノイスの町の大地主(第1の被害者)。エリー(妻)、モーガン(友人)、チャールズ(従弟)、エディック(従弟)

●その他/灯台守(第2の被害者)、商工会会長(劇団座長)、駐在の巡査、レザー警部(コンウォール警察)

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