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八 辛い出来事


 私は村の長の子供としてこの村で生まれ育った。


兄弟は兄が2人いたが子供の頃に亡くなっていた。


親は理由を話さなかったが時代が悪かったことは確かだった。


この村は前時代までは隠密の下部組織だった。


村の表向きは百姓だったが、村人はだれも武術の心得があり隠密活動をしていた。


私は幼い頃から剣術と格闘術を教え込まれて15歳で隠密活動に参加していた。


特に格闘術は戦国時代から受け継がれてきた。


20年前までは幕府の力はまだ衰えておらず幕府の隠密として各藩の

情報収集を行っていた。


時には暗殺も行い相手方と死闘を繰り広げた事もあったが、時代が進むにつれて

隠密の仕事は少なくなっていった。


今から十三年前、私の生涯で一番辛い出来事が起きた。


それは私が妻を貰って二年目の時だった。


ここ数年は隠密の仕事も無く襲われる理由はなかったが、夜遅くに西の山に

仕掛けてある鳴子の音が鳴り渡り、外では村人の「襲撃だ!」と言う叫び声

がして、激しく争う声が聞こえた。


私は妻と共に両親の部屋に向かった。


2人は起きていて父親が私に「襲撃される理由が無いが、恐らく宝刀を狙った

盗賊だと思う。今すぐ神社にある宝刀を持って山の中に隠れろ」

と私に神社の鍵を渡した。


「どうして宝刀を盗みに来たと分かる?」


「神からお告げがあった。早く行け!」


私は自分の刀を取りに部屋に戻った。


妻も刀を持とうとしたので「刀は置いて行け!」との私の言葉に

「私も賊と戦う」と応じなかった。


急いでいたのでそのまま神社に行き宝刀を背負い妻と一緒に西の山の中へ隠れた。


東の方から三人の黒装束の男が廻りを警戒しながら近づいて来た。


私の家はこの東にあり、その方向から賊が来た事は両親が無事でない事

は想像できた。


月明かりの下で白い寝着の私達は直ぐに見つかってしまった。


そして、黒装束の一人が私と妻の間に斬り込んで来た。


2人は咄嗟に避けたが、そのため2人は離れてしまった。


私は2人の賊と妻は1人の賊と対峙する状況になってしまった。


妻に刀を捨てて逃げろと叫んだが、妻もこの村の娘で武術を教えられていたので

刀を構えて動かなかった。


「何者だ! 何が目的だ!」


「その宝刀を渡して貰えばこのまま帰る」妻と対峙している賊が答えた。


「渡すわけにはいかない!」


「では力ずくで貰って行く」


妻の前にいるのが盗賊の頭だと分かった。


密集した低木の中にある山道で幅が狭く、私と対峙していた2人は横に並べず

縦に並んでいた。


先頭は斜め上段に刀を構えていた。


月明かりで刀が光っていた。


もう1人は私の姿が良く見えないようで左右に身を乗り出していて

前の男のすぐ後にいた。


私は2人の賊は経験が少ないと感じた。


私は素早く体を低くして近づき前の男の左に廻り込み腹部を払った。


相手は上段から振り下ろしたが、私が一瞬早かった。


後ろの男は慌てて左より水平に刀を振ってきたが私は刀の峰で受け、

近づき体で押してよろけさせ腹部を刺した。男はそのまま倒れた。


前の男は腹を押えて蹲っていたので背中を刺し絶命させた。


そして、妻の方に目をやると、妻の刀が払われて胸を刺されていた。


妻は小さい声で呻いていた。


賊の頭は片手で刀を操っていた。


私はかなりの手練れと見てすぐに斬りかかった。


賊は気が付き振りかえり避けたが、私の刀の先が黒覆面を斬り裂いた。


覆面が落ち男の顔がはっきり見えた。


左頬に縦に傷が出来て血が滴り落ちていた。


賊は顔を斬られて戦意を消失したのか後に数歩下がり、体を返して逃げ出した。


私は追おうとしたが諦め妻の側に駆け寄った。しかし妻は絶命していた。


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