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五 襲われた鈴


 祝言から10日程経った頃、私の不安は的中した。


1人の村人が慌てて私の家に駆込んで来た。


鎌を持った男が信一郎の家に来て、嫁が捕えられていると私に伝えた。


私は急いで信一郎の家に向かった。


数人の村人が廻りを囲んでいた。棒などを持っている者もいる。


私は相手を興奮させないように棒を捨てさせ村人を少し後ろに下がらせた。


村人が後に下がり状況が見えて来た。


家の入口の右側に膝を落としてうな垂れる鈴の姿があった。


その後に壁を背にして男が立っていた。


左手で鈴の肩を掴み右手で持った鎌が鈴の首の近くにあった。


男は若くかなり思い込んでいるようだった。


鈴が叫びも抵抗もしないでただ俯いている様子に、鎌を振り下ろす事を

躊躇しているようだった。


信一郎は離れた処で困惑した様子で立っていた。


男は私を見て警戒心が増したのか? 鎌を振り降ろす気配を感じた。


「待て! 家族の事を考えろ!」と叫びながら私は右側に廻った。


(家族の事を考えろ)との言葉に少し戸惑ったようだった。


相手に警戒されないように刀は持って来なかった。


稽古用の刃の無い手裏剣を手の平に隠していた。


鎌を持つ手を狙うつもりだったが、鈴の頭の後に男の手があり狙えない

状態だった。


本物の手裏剣で急所を狙えば一撃で終わる。


それでは男は死ぬか又は傷を負えば男の家族は働き手を失い路頭に迷う事になる。

最悪は一家離散か餓死することだった。


それだけは避けようと私は考えた。


我慢の限界だったのか男が鎌を揚げて、鈴が頭を少し下げた瞬間に

手裏剣を投げた。


手裏剣が男の手に当たり鎌が飛んだ。


それでも男は鎌を取ろうと走ったが、私は男が鎌を取る寸前に男の後ろに

廻り込み後ろ手に押えた。


男は観念したようで抵抗はしなかった。そして私の問いに話し始めた。


「俺は鈴の幼馴染だった。今年は鈴の家は不作で食べる物も無い状態になり、

鈴が奉公に行くことに決まった。俺の家も小作人で鈴の家を助けたくても

自分達が食べるだけで精一杯だった。鈴が奉公に行っても盆・正月には帰って

来られる。長いけど年季が明ければ戻って来る。そうなったら鈴を嫁に貰いたい

と考えていた。でも隣村の長の嫁に成りたいと急に言い出して嫁に行っ

しまった。鈴がいないと余計に恋しくなった。長の嫁になりたいと思った鈴の

気持ちを確かめようと覚悟して来てしまった」


「鈴の命を奪って自害するつもりだったのか? 母親の看病ために嫁になったと

知らなかったのか? 残った家族と鈴の家族がどうなるのか考えたのか?」


「最初はそう思っていたが鈴の悲愴な顔と態度で躊躇した。おばさんの体が

悪いのも知っていた。後がどうなるか十分分かっていた。でも鈴への思いが

強くて押え切れなかった」申し訳なさそうに男は答えた。


「今日の事は誰も傷ついていない。もう二度とこの様な事をしないと約束すれば

役所には報告しない」私は肩を落としている男に伝えた。


「分かりました二度と鈴に会いに来ません。見逃してくれた恩は忘れません」


男は信一郎の隣で俯いて立っている鈴を一目見て鎌を持って隣村へ帰って行った。

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