四十八 妾の話
「私が奉公に出た場所は県の中心地で県の偉い役人も大勢いました。私を
見掛けた役人より妾に欲しいと文が店に送られて来ました。店の主人は丁寧
に断りの返事を送りました。次は県の仕事を紹介するなどの条件も付けて
来ましたが、主人は又丁寧に断りの返事を送りました。最後には客が来ないよ
うにするとか店を潰すとか脅迫に近い文が送られて来ました。
「私が妾になると話しますと、それは鈴が決めれば良いが、権力を嵩にして
脅したり、自分の欲を押しつける。幕府と何も変わらないと
主人は怒っていました]
「暫くして、店に役人の二人の部下が妾の件で来ました。腰に剣を吊るして
見るからに素行の悪そうな人達でした。主人は奥に入れないで店の入口で
対応していました。私も呼ばれて役人の妾になるように言われました」
「主人には申し出を聞くように迫りました。主人は頑固な性格で多少気の短い
ところもあり、(鈴は私が責任を持って預かっている鈴が希望する以外は妾
にはさせない)と返答しました。部下は私に向かってお前はどうだ?
と聞かれました。私は主人に従います。と答えると急に私の手を掴みました」
「取合えず連れて行く! 荷物は後で届けろと主人に言いました。主人は怒りで
顔を赤くして(いい加減にしろ!鈴は腐れ役人の妾にはさせない! 断っている
のに何故連れて行くのだ! 何が平等だ! 何が新政府だ! 幕府と同じでは
ないか!)と詰め寄り部下の襟を掴み阻止しようとしました」
部下は妨害罪、国家反逆罪と言って主人を突き飛ばしました。それでも起き上がり
抵抗しようとする主人に刀を抜き斬り付けました。腕を斬られた主人はその
に腰を落としました。又も斬り付けようとしたので、私は咄嗟に後のもう1人部下
の剣を抜き斬り付けようとしている部下の腕を軽く斬り付けました。部下は痛さに
剣を落としました。その剣を足で後ろに蹴り、剣を構えている私を見て戦えないと
感じたのか(引け! 覚えておけ!)と言って2人は去って行きました」
「幸い主人の傷は浅く止血をしていると、主人は役人が捕まえに来るから私に
逃げるようにとお金を渡してくれました。私は祖父の形見の木刀1本だけ持って
村を目指して逃げました」
「山の中を逃げている時に、私だけ何故色々と辛い目に会うのかと思いました。
知らないうちに崖の上にいました。此処で命を断とうと考えました」
「その時に祖父の言葉を思い出しました。(どんなに辛くても諦めてはいけない、
自分で命を断ってはいけない)祖父は侍から小作人になった時にどれだけ
惨めだったのか? でもそんな事もおくびに出さず小作人として誇り高く
生きていた。私は命を断つ事を止めて崖の上で佇んでいると頭の中から声が
聞こえました。(死んではいけない貴方は新しい世界へ行く、貴方の村の近くの
滝壷に飛び込みなさい。そして白い処を目指しなさい)前にも聞こえた声で私は
少し希望が湧き声に従うことにしました」




