三十八 峡谷の戦闘跡
私とアイラは源太に託されたお金を彼の妻に渡すために旅に出た。
源太に頼まれた時から半年程経っていた。
アイラはアリーナの消息も確認したかった。
ここから南に100キロほど行った処にある保留地に源太の妻は暮していると
袋の中の紙には書かれてあった。
馬でゆっくり旅しても3日~4日かかる距離だった。
途中にアリーナの最後の戦闘場所となった渓谷があった。
1日目の夕方にその渓谷に着いた。
戦闘の跡らしき処があったが、数本の矢が落ちているだけだった。
先にアイラその後に私と馬に乗り進んでいた。
陽が西に傾きアイラと私の影は長く東側の崖近くまで伸びていた。
崖は西日を受け赤く光っていた。
突然に銃声がして私の足から激痛が走り馬から落ちてしまった。
体が動かない、襲われたのだ! 心配でアイラに目をやった。
銃声にアイラが振りかえった。
2人の白人が馬に乗り私の馬を追い越しアイラの目の前にいた。
先頭の男はアイラの馬に飛び付き、アイラを抱きかかえ一緒に馬から落ちた。
立ち上り逃げようとするが後から押え付けられている。
後ろの男も馬から降りて近くまで来ていた。
男はアイラの体を返し馬乗りになった。
「小次郎! 助けて!」と叫んでいたが、私は倒れたまま動けなかった。
男達の目的は明らかだった。
アイラの服に男の手が掛った時、私は起き上がろうとしたけれど手を付くだけ
で精一杯だった。
アイラの両手が一時自由になった。アイラは頭を少し上げ男の首を挟む様に両手
で手刀をいれるのが見えた。
男が苦しくて顔をあげた時、アイラに喉仏を拳で突かれ後に倒れた。
アイラは同時に立ち上がり、その光景を唖然と見ていた後ろの男の股間に蹴り
をいれ、両手の平で胸を打撃して失神させた。
喉を押え苦しみもがいている男も打撃で失神させた。
私の教えた格闘術がアイラを救った。
アイラは倒れている私の処へ駆け寄って来た。
「足を撃たれたが軽傷だ。いつものように痛さで体が動かなくなった。助けて
上げられなくて済まない。体の中に子供がいるのに」
「分かっている。私も傷つくと動けなくなるし、先程のように絶体絶命の時で
ないと闘争心が湧かないの・・・・ごめんなさい。子供が出来たのは嘘、小次郎
が異国に帰ってしまうのが怖くて」アイラは悲しそうな顔で話した。
「心配しないで良い。国へは帰らない。死ぬまで一緒にいる」
アイラは嬉しそうに頷いた。それよりもアイラを守れなかった事が情けなかった。
2人の男は縄で縛り繋げて藪の中に隠した。
武器は長い銃が1丁と腰の銃2丁そして短刀が2本あったが穴を掘って埋めた。
馬は追い払ったがその場から離れなかったので放置した。
運が良ければ助かるだろうと命は取らなかった。




