三 宝刀
今日は月に一度だけ村の神社に行く日だった。村には西側に高い山があり、
神社はその山の登り口付近にあった。
私の家も近く神社の南側にあった。
神社は12帖程の小さな建物であった。
木材で作られた階段を上がり、東側正面の引き戸の錠を開け中に入った。
一番奥に神棚があり、その手前の台の上の刀掛けに刃身が2尺7寸の大刀
が掛けてあった。
大刀の鞘は黒くて艶があり、端部と刀身の受口に銀色の装飾がしてあり、
柄の中央には透明の石が両面に埋め込まれていた。
鍔は黒で鞘と同じ銀色の装飾がしてあった。柄の長さは1尺以上もあった。
それは村で受け継がれてきた宝刀だったが、華やかさはなかった。
私は頭を下げて両手で宝刀を持った。
それは毎回感じることだが驚くほど宝刀は軽かった。
そして、鞘から刀身を抜いた。すると、柄の透明な石と刀身が光った。
かなりの輝きだったが、暫くすると消えた。私は刀身から手を離した。
不思議な事に刀身は宙に浮き、鞘に収まった。
それを両手で持ち頭を下げて刀掛けに収めた。
宝刀と一緒に古文書があった。
その内容は村の長だけが引き継いで知ることになっていた。
古文書の宛先はこの村の代々の長だった。
差出人は300年前の有名な戦国大名だった。
古文書の内容は
1、(取扱・手入) 宝刀に衝撃を与えてはいけない、
効力が無くなる。宝刀で人を斬ってはいけない、効力が一時無くなる。
一月に一度、宝刀の刀身を鞘から抜いて柄の光が消えたら鞘に戻す事。
2、(効力) 刀身を抜き、柄と刀身の光りが消えて、刀身を鞘に戻すと
宝刀を持っている者は不死身となる。その間隔は一時とする。
3、(使用) 宝刀を持つ者同士の戦いはお互い効力が無くなる。
4、(伝承) 将来、異国で災いが起きる。村の長は宝刀を災いの起こる
異国に行き、無垢な娘に渡すこと。また災いが収まるまでその場所に留まること。
5、(付随) 宝刀を渡しに異国へ行く方法は、神隠しの滝壺に入り。
白い球体を目指し、神の導きに従うこと。以上の項目が書かれてあった。
5の項目の最後に災いの起きる年号が書かれてあり、私が長を継いだ時はまだ
幕末で寛永22年と書かれていたが、新政府になって確認すると明治9年と
書かれてあった。後で書かれたようには見えなかった。
私は不思議に思えたが神の仕業と信じた。しかし今年が明治9年だった。