キスより簡単
タイトル落ちシリーズ第2弾!
※シリーズと言っときながら、第1段『最後のキス』https://ncode.syosetu.com/n7532hr/ とは話が繋がってませんw
※同名マンガとは何の関係もありません。
きっかけは何だったか知らない。
誰かがネット動画を見て「キャンプやってみたい」って言ったのか、それとも「肉食いたい!」って話が「バーベキューしようぜ!」になったのか。
猫荷錦が知った時は、友達や知人、友達の友達が集まってキャンプをすることになっていた。
海辺のキャンプ場で、一泊二日。
昼にバーベキューして、そのまま肉を食いながらダラダラとビールを飲み続け、なし崩し的に宴会に突入。延々と飲み続けることとなった。
曰く「割り勘でビールを買ったんだから飲まなきゃ損!」とか、「ビールが余ったら誰が持って帰るの? アイツに持って帰らせるぐらいなら俺が全部飲み尽くす!」とか、「文化系の奴らに飲み負けたら、おまえら説教だぞ!」「「「押忍! 飲み比べは俺たちが勝ちます!」」」とか、そーいったそれぞれの思惑の結果、「飲むのを止めたら負け」みたいな雰囲気になっていた。
みんなしてヘベレケになるまで泥酔したが、何事にも例外がある。
錦と吊場夏太郎がそうである。
錦は「みんなして飲み潰れたら、誰がクルマ運転するの? 俺バイトあるから帰れないと困るんだけど」と建前を述べたが、実際にはキャンプの前日まで二日酔いだっただけだ。
二日酔いで頭が働かず適当に返事してたらキャンプの参加者になっていた。
半ば強制的に参加させられたわけで、さすがに二日酔いから二日酔いの連続を避けたかっただけだ。
一方の夏太郎は、「海辺でキャンプやるって誘われたから、釣り目的で参加した」という理由である。
釣り竿を片手に、青イソメと缶ビールだけを持って砂浜で投げ釣りをしていた。
みんな泥酔して話し相手がいない状況では、錦も時間を持て余した。
なので、泥酔してないもう一人の所へ足を運んだ。
「それ、投げ釣りってやつ? さっきから何回も投げてるだけじゃん。何が面白いの?」と錦が言うと、夏太郎は「面白いよ。俺は釣り目的に参加したからね。一応、鱚が8匹釣れてるよ」と缶ビールを飲みながら答えた。
錦は、夏太郎がビールを飲んでるのを見て『俺ももっとビール飲もうかな? いや、一昨日まで二日酔いだったし、今日は自粛しとこう。もう3本も飲んだし、今日はお終い!』と考えていた。
が、夏太郎が「面白い」と言ったのに対して黙り込んだ錦を見て「ん〜、やってみる? ヒマなんでしょ。やってみて自分で面白いかどうか判断してみればいいじゃん」と見当違いの気遣いを見せた。
しかし釣り未経験の錦は投げることもまともに出来ず、散々な結果だった。
「あー、初めてだと投げ釣りはキツイか。じゃあ、今度もっと簡単な釣りでも行ってみる?」と、またもや夏太郎が気遣いを見せた。
夏太郎としては社交辞令として言っただけだが、よっぽど悔しかったのか錦は再チャレンジを希望した。
こうして、錦は釣りリベンジすることになったのであった。
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一週間後、2人は堤防に来ていた。
「これ着けて」
「何それ?」
夏太郎が差し出した物を見て、錦が疑問の声を上げた。
「膨張式の救命胴衣。水に落ちると、ボンベからガスが出て浮くやつ。早い話が、自動の浮き輪みたいな感じかな」
「ふーん、釣りするのに浮き輪を着けるんだ?」
「堤防は、水の中が深くなってるからね。ここで水深2.5メートルぐらいかな。波があるし、海面から堤防まで距離があるから、落ちたらなかなか上がれないよ。
服が水を吸ってまとわりつくし、パニクったら100%溺れる。
だから念のために着けといた方がいい。
って言うか、平成30年に法律で船釣りする時は救命胴衣が義務付けられて、それから海釣りするときは救命胴衣を着けるのが半ば常識化してるって感じかな? 陸釣りなら着けなくてもいいんだけど、もし何かあった時に面倒だしね。
だから、常識だから着けてね」と、夏太郎は「常識」を強調したが、実際は缶ビールを手にしてる錦を見て言った言い訳である。
本当は「ビール止めろ」と言えば済むことだが、夏太郎としてはせっかくだから釣りを楽しんでもらいたい。
堤防で酒を飲むのは危険だけど、楽しんでもらいたいから野暮は言わない。
その分、自分が気をつけてればいい。
……と判断した結果だ。
「はい、これ」
「ん!? 何だっけ、あれ? あぁ、リールだ、リール。リール付いてないの?」
手渡された釣り竿を見て錦が疑問の声を上げた。
「これは延べ竿ね。防波堤は水深があるから、投げる必要がないんだ。
振りかぶらずに、そのまま水に入れて、上下するだけだよ」
海中で上下させると、撒き餌が散って小魚が寄ってきた。
「おっ!? なんかブルブル言ってる」
初めての感触に錦が戸惑いの声を上げた。
「それ釣れてるから。
そのまま上げてみて」
夏太郎に言われて竿を上げると、10cmぐらいの小魚が付いていた。
「え!? なに? こんなんで釣れたの?」
「サビキ釣りだと簡単でしょ。
群れが寄ってこないと釣れないけど、群れが来たら100匹ぐらい釣れるよ」
釣りの楽しさを実感してもらうために夏太郎が接待に回った結果、錦はサッパ32匹、カタクチイワシ103匹、小サバ8匹、小アジ1匹の釣果を上げた。
「アジは1匹しか釣れなかったけど、めっちゃ釣れたじゃん! これって鱚よりカンタンじゃん!」
こうして、錦も釣りにハマったとかハマらなかったとか。
【あとがき】
酔ってると、深さ10cmでも溺れると言います。
酔った状態での釣りは非常に危険なのでマネしないでください。