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絶世の美女から平凡な少女に生まれ変わって幸せですが、元護衛騎士が幸せではなさそうなのでどうにかしたい  作者: 大森 樹


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番外編 そのままの君が好き

 結婚してしばらくしたある日、私の家にパトリシア様から手紙が届いた。内容は空いている日にカフェでお茶をしませんか?というものだった。


 カールに確認すると「行っておいで」と言ってくれたので、すぐにオッケーの返事を出した。


 パトリシア様がお住まいの町はこの辺では都会だ。ここからだと隣、実家からだと二つ先の町だ。


「パトリシア様の町で会ってくるわね」

「じゃあ馬車か」

「うん」

「心配だし、夕方帰り迎えに行くよ」

「面倒じゃない?ちゃんと帰って来れるわ」

「ミーナのことで面倒なことなんてない」


 そう言ってくれるので、私は素直に店の名前を伝えた。彼は私の額にちゅっ、とキスをして「気をつけて」と送り出してくれた。


♢♢♢


「ミーナ様、お久しぶりです!すみません、ここまで来ていただいて」


 お店に着くと、パトリシア様がニコニコと微笑みながら手を振ってくれていた。薄いピンクのワンピースに小花が描いてある上品なお洋服が、よく似合っている。


「こんにちは。誘っていただいてありがとうございます」

「いえ、来ていただけて嬉しいです!ここは私のお気に入りのカフェなのです。ケーキが美味しいですよ。奥に個室をとってますから、行きましょう」


 おお……個室なんて。さすが大きな商家のお嬢様だわ。


「パトリシア様、お嫌でなければ私のことをミーナと呼び捨てで呼んでください。パトリシア様の方が年上ですよね?」

「いいんですか!?」

「もちろんです」

「では、私のことはパティとお呼びくださいませ」

「では、パティ様と」

「様はいりませんわ!お願いします」


 うるうるとした大きな瞳でお願いをされると、どうしても弱い。


「では……パティと呼びます」

「はい!」


 にっこりと照れたように笑う彼女が可愛らしい。フレデリック様ったら、羨ましい!いい婚約者を持ったものだ。


 パティおすすめのケーキと紅茶を頼み、女子会が始まった。最初はうちのレストランの話やパティがどんなウェディングドレスを選んだかなど、他愛のない話で盛り上がった。


 そしてしばらくした後、彼女は真っ赤になって「あの!」と切り出した。


「はい」

「あの……ミーナにこんなことをお聞きするのは、はしたないとわかっておりますが……先にご結婚されているので質問してもいいでしょうか?」

「も、もちろん。私が答えられることなら」

「ありがとうございます」


 彼女はほっとした顔をして、小さく息をはいた。


「その……あの」


 パティは真っ赤になって、もじもじと下を向いたり私をチラチラ見たりしている。


「パティ、違ったらすみません。夜のことですか?」

「そ、そ、そうです。すみません……こんなこと聞かせて欲しいだなんて失礼なこと」


 彼女は可哀想なくらい真っ赤になって、震えた声でそう言った。お嬢様の彼女は友人達とこのような話はしないのだろう。


「大丈夫です。私も不安でしたから」

「ありがとうございます。家で閨の教育はきちんと受けたのです。妻としてのすることなども教わりました。でもわからないことだらけで。あと数ヶ月で結婚するのに私はちゃんとできるのか怖くなって」


 ――わかる。わかります!閨の教育なんて抽象的でよくわからない。それに教わったことなど、いざという時には何も役に立たない。


「口付けは?」

「……しています」

「濃厚なのは」

「……つい最近一度だけしていただきました。息ができなくて困りました」

「わかります。鼻で呼吸難しいですよね」

「はい。そ、それに気持ちよくて……恥ずかしくて……頭がぼーっとしました」


 彼女の白い肌がポッと色付いた。ゔっ、可愛い。まるでお人形さんのようだ。


「結婚の日までにその……キスに慣れた方がいいかもしれません。夜はキスを沢山しますから」

「そうなのですね。で、でもフレッド様に自分からなんて……無理です」

「雰囲気を作ればいいのです。なるべく二人っきりになるとか、ムードのあるところにデートに行くとか!」

「なるほど。しやすいようにするのですね」

「ええ!」


 彼女はフレッドとのキスのことを思い出しているのか両手で頬を包みながら、ポーッとしている。


「そして……その……夜の服は」

「あーそれは私は失敗してしまって」


 私の恥ずかしい初夜のブラックセクシー夜着事件の話をした。彼の色に合わせたが、恥ずかしすぎて失敗だったので可愛い方がいいと思うと伝えた。


「やはりそうですか!その……やっぱり白かなとか思っているんですが」

「いいと思います。リボンとかフリルとかついた可愛いのきっとお似合いです」

「フレッド様は……お好きでしょうか?」


 そんなことを聞かれても……もちろんフレデリック様の好みなんて知らない。むしろ知っていたら問題だ。とゆーか、実はカールの好みも知らない。


 でもフレデリック様は基本的に真面目だし、お坊っちゃんだし……好みも王道ではないだろうか?いや、でも飲み屋のお姉様方は「真面目そうな男ほど変な趣味なのよ」とか言っていたような。うーん、難しいわ。


「それはわからないわ」

「そうですわよね」

「どんな物でも喜んでいただけると思います!その……お好みについては二回目以降に考えましょう」

「は、はい。そうですね」


 パティは少しキリッとした表情で、最高に可愛いのを用意します!と言っていた。


「最後にもう一つだけいいですか?」

「ええ」


 彼女は真剣な顔で、私を真っ直ぐ見つめた。


「……痛かったですか?」

「……痛かったデス」

「ですよね」

「でも!きっと優しくしてくださると思います。びっくりするし恥ずかしいし痛いけど、私はとても幸せでした」

「ミーナ……」


 私はパティをそっと抱きしめた。


「大丈夫。あなたの愛する人を信じて」

「ミーナ、ありがとうございます。不安が和らぎました。こんな話を笑わず聞いてくれて嬉しかったです」

「ふふ、私で良ければいくらでも」


 私達はニッコリと微笑みあった。それからはまた他愛無い話に戻ってお茶会を楽しんだ。


「そういえばミーナは以前よりさらに綺麗になりましたね。やはりカール様に毎日愛されていらっしゃるからかしら?」


 紅茶を飲んでいる時に急にそんなことを言われて、ゲホゲホとむせてしまった。


「ミーナ!大丈夫ですか!?」

「す、すみません。動揺してしまって」


 私はハンカチで口の周りを拭きながら、心を落ち着けようとした。


「はは、パトリシア様の言う通りかもしれませんね」


 落ち着こうとしたのに、後ろから急にカールの声がしてビクンと体が跳ねた。振り向くと、笑顔のカールが立っていた。


「女性は愛されると綺麗になると言いますから。まあ、ミーナは元々綺麗でしたけどね?」


 カールがそんなことを口走るので、私はフリーズし彼女は「まぁ」と頬を染めた。


「カ、カール!?」

「迎えに来たよ」

「まあ、こんな時間になっていたのですね。カール様、ミーナを長時間独り占めしてしまい申し訳ありませんでした」

「いや、かまわないよ。ミーナに友人ができるのはいい事だから」


 彼は私の頭をサラリと撫でて、髪をひとすくいしてちゅっとキスをした。


「ひゃぁ!素敵です。お二人は本当に仲がよろしくて羨ましいです」


 彼女は頬を染め、キラキラした瞳で私達を見ていた。しかし、その後に急にしゅんと項垂れた。


「私も早くフレッド様ともっともっと仲良くなりたいです。彼はあまり……積極的には触れてくださらないから。単純に私に魅力がないだけかもしれませんが」


 パティは涙目になって、俯いた。

 

「……大事にしたいのさ」

「え?」

「あいつはあなたを大事にしたい。だから結婚前に触れないだけだ。心配することはない」

「カール様」

「男というのは、欲望の前では我慢の効かないどうしようもない生物でね。好きであればあるほど、一度触れると止まらない。だから、君を傷つけないために距離をはかってる……それだけのことだ」

「ありがとうございます。元気が出ました」


 彼女はハンカチで涙を綺麗に拭い、嬉しそうに笑った。


「そうよ、フレデリック様はパティが好きだとおっしゃっていたのだから自信を持って!」

「はい」


 パティにも使用人が迎えに来たので、私たちはそこでさよならをした。


「迎えに来てくれてありがとう」

「なに、当たり前のことだ」


 二人で馬車に乗り込み、自宅に帰った。そして美味しい夕飯を食べて今はベッドでくつろいでいる。


 そして私は今日パティと話していて、気になったことを彼に聞くことにした。結婚当初の初心な私にはこんなこと聞けなかっただろうが、今の私は人妻だ。旦那様の好みを知っておくことも大事だろう。


「ねえ、カール?」

「ん?なんだ」


 彼は私の背中にまとわりつきながら、ちゅっちゅと首筋にキスをしている。これは彼の『愛し合いたい』という意思表示だ。


「カールの好みの下着はどんなの?」


 甘い雰囲気をぶち壊すかもしれないが、仕方がない。さすがに食事しながらは聞けないのだから。


 カールは驚いたのか、ゴホゴホと咳き込んだ。私は「大丈夫?」と彼の背中をさすった。なんか今日のお茶会でもこんなシーンがあったなと思う。それは私がむせる側だったけれど。


「急に……突拍子もないことを言い出すから」

「ごめんなさい」

「なぜそんな事を聞く?」

「いや……単純にカールの好みを知らないなと思って。本当は可愛いのかセクシーなのどっちが好きなの?それとも別の感じがいい?」


 私は結婚してから色んな物を身につけてみた。初夜はセクシーだったがその後は清純なもの、可愛いものシンプルなもの……色々試したが反応はあまり変わらないのだ。


『ミーナ、可愛い。似合っている』


 彼は常に嬉しそうに笑ってそう言うのだ。最初は嬉しく思っていたが、最近は少し不安になっていた。どれも似合うというのは、実はどれも似合っていないのではないかと。


 今までなるべく考えないようにしていたが、今日パティと話して……やはりそのことが気になってしまった。


「どれも似合うから選べない」

「嘘よ!それでも好みはあるでしょ?」

「……」

「夫婦で隠し事はなしよ」


 私がずいっと彼に詰め寄った。カールはゔっ……と困った顔をした後に、ごくりと唾を飲み込んで緊張した顔をした。


「聞いても絶対に引かないか?」

「うん。もちろんよ」


 私はカールを受け止めるわ。彼が言いにくいってことは少し変わった趣味なのかしら?でも大丈夫。多少セクシーでも、今の私なら対応できるわ。飲み屋のお姉様達が結婚祝いにくれたような……紐のようなやつが良かったのかしら?あれは結局まだ使われたことがないけれど、カールがどうしてもというのであれば恥ずかしいけれど着る覚悟はある。


「言ったらしてくれる?」

「わ、わかった」


 ――さあ、なんでもこい。


「……いらない」

「は?」

「そのままの君が一番好きだ」

 

 そのままの君が好き?なんかとっても素敵な言葉だけど、今回の意味はなにか違う気がする。


「そのまま……」

「素肌の君が一番綺麗だし、一番そそる」

「ええっ!!」


 私はぶわーっと顔が真っ赤になった。つまり下着なんていらないってこと!?


「心配しないでくれ!もちろん下着や夜着をつけたミーナもとても魅力的だ。セクシーなのも可愛いのも……どれも似合ってるのは本音だから」


 カールは真面目に答えているが、私はそんなことを心配しているのではない。まさかの答えに戸惑っているだけだ。


 でも彼は『してくれる?』って言っていたが、何をしたらいいのか。だって……愛し合う時にはいつも最後は脱いでいる。それがいいってことよね??


「……じゃあ、いつも通りでいいってことよね?いつも最後は脱ぐもの」

「あー……ううーん、ちょっと違うというか」


 カールは少し目線を逸らしながら、ポリポリと頭をかいている。


「どういうこと?」

「でもミーナ、俺が正直に言ったらしてくれるって言ったよな?」

「……言ったけど」


 カールはその瞬間に意地悪な顔をして、とても楽しそうに微笑んだ。


「や、やだ。そんなの嫌」

「お願い。約束しただろ?」

「こんなの変だよ。おかしいわ」

「ミーナ絶対に引かないって言っただろ。酷いな」

「くっ……わかったわよ」


 私は仕方なく彼の指示通りに着替えた。恥ずかしすぎてもじもじしてしまう。カールはそんな私を見た瞬間、欲を持った獣の目に変わったのがわかった。


「もっと近くに来て」

「う……恥ずかしい」

「どうして?ちゃんと服を着てるのに恥ずかしいの?なにも見えてないよ」

「だって……」


 だって、私は今下着をつけていない。そして素肌の上にカールのシャツを着ている。もちろんボタンは全てしめているので素肌はほとんど出ていない。彼とは体格差があるので、ワンピースになるくらいダボダボに大きい。


「おいで」


 彼に手を引かれて、胸の中に抱きしめられる。そしてシャツの裾から手を入れられた。


「ひゃぁ!」

「うん、堪らないな。俺の服をそのまま着てくれるなんて。可愛いのに……とってもいやらしい」

「や、やめて」

「やめられるわけないだろ?早く愛させて」


 そのまま私を組み敷き、彼のシャツを着たまま愛された。


「綺麗だ」


 興奮した彼を受け止めぐったりした私を見つめながら嬉しそうにそう言う彼を見て、私は心の中でため息をついた。パティ……私達どの下着が好みかなんて真剣に考えたけど意味がなかったわ。だって『着ない』の選択肢もあるとわかったから。


 そしてセクシーな下着を着るよりも、素肌に彼の服を着る方が何十倍も恥ずかしいことを初めて知った。


「あー……でもやっぱりどんなミーナも可愛い。服着てても着てなくても可愛い」


 そんな恥ずかしいことを言いながら、すりすりと頬擦りして私を愛でている。夫婦生活は毎日驚きの連続で、いつまでたっても正解はわからないなと思った。

昨日で完結しましたが、夫婦になってからの様子をもう一話書きたくなってしまいました。読んでいたただきありがとうございました。

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