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絶世の美女から平凡な少女に生まれ変わって幸せですが、元護衛騎士が幸せではなさそうなのでどうにかしたい  作者: 大森 樹


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43 幸せのレストラン

 新婚生活はとても甘く、カールに心身共に愛される日々が続いている。二人でご飯を作って食べ、家事や買い物をして同じベッドで眠る。穏やかだがとても幸せだ。


 彼は慣れない私の体を気遣って、ただ抱きしめて眠るだけの日もあった。


「君が俺の腕の中にいるだけで幸せだ。なんかこの一週間本当に夢みたいなんだ」

「私は全てあなたに捧げたのに夢だったら困るわ」


 私は意地悪くふふっ、と笑った。


「……そんなの俺も困る。ミーナ、お願い。ずっと俺の傍にいてくれ。俺の前から消えないで」

「ずっと傍にいるよ」

「幸せすぎると……少し怖くなるんだ」


 カールは私の顔中に沢山のキスをして、私が眠るまで優しく頭を撫でてくれる。彼は過去に自分だけ生き残ってしまったというトラウマがあるのか、何度も何度も私が隣にいることを確認していた。



♢♢♢


 そして結婚生活も少し落ち着いた頃、ついに私達のレストランのオープンの日だ。色んな人からお祝いのお花が届いて、店は華やかになっている。


「さあ、ついに今日からだわ」

「そうだな」

「私の夢が叶うのね。嬉しい!カールよろしくね」

「ああ、俺も嬉しい」


 昨日は二人で食事の下拵えをいっぱいした。お客さんが徐々に増えて、いつかこの町の評判の店になればいいな。


「開店させるわね」

「ああ」


 店を開けてしばらくすると、すぐに何人かのお客さんが来てくれた。料理を食べた人はみんな「美味しい」と言ってくれてとても嬉しかった。


 その後は両親や地元の人も何人もお祝いを兼ねて食べに来てくれて、店はすぐに大忙しになった。そしてバタバタしながらも……夜になり、そろそろ店を閉めようとした。


「ミーナ、来るの遅くなって悪い!仕事立て込んじまって。開店おめでと」

「ダニー!ありがとう」

「もう終わり?」

「あなたで最後にするわ」


 そう言うと、ダニーは嬉しそうに笑った。私は店をクローズにして他の人が入らないようにする。


「よお、ちゃんと料理してんのかよ」

「なんだ?ダニーか。してるに決まってんだろ」

「へー……まあ、黙ってキッチン立ってりゃ料理人に見えなくもねぇか」

「もー!喧嘩しないで。ダニーお腹空いてるでしょ?あなたの好きなハンバーグあるわよ」

「お、やった!」


 私達は二人でキッチンに立ち、ハンバーグを焼いたりスープを温めたり役割分担をして準備をする。


 ダニーは無言のまま私達をジーッと真剣に見つめているので「なに?」と聞くと、彼は少しだけ切なそうな顔をした。


「お前ら本当に夫婦になったんだなと思ってさ」

「ん?当たり前でしょ?結婚式来たじゃない」

「そうだけど……そういう意味じゃねぇんだよ」

「ふふ、何それ?」

「なんか空気感が変わったなって。ちゃんと夫婦なんだな」

「……?」


 私はよくわからなかったけれど、カールは言いたいことがわかるらしく……「そりゃどーも」と微笑んだ。


 ダニーはハンバーグ定食を食べ「やっぱり美味い」と絶賛してくれた。そして、真面目な顔で私達の前にリボンのかかった箱を置いた。


「改めて結婚とお店おめでとう。これは俺からの気持ちだから、受け取って欲しい」

「ありがとう」


 箱を開けると、それはそれは見事な包丁が二本入っていた。柄の部分には名前が刻印されており、私のよりカールの方が一回り大きくなっている。


 二人とも自分の名前入りの物を手に取ってみると、驚くほどピッタリと大きさが合う。


「すごく持ちやすい。切れ味もいいわ」

「ああ、力を入れなくても切れるな」


 見た目も大きさも切れ味も……全てに感動し、ダニーにお礼を告げる。


「ありがとう。とても嬉しい」

「……俺も大事にするよ。ありがとう」

「喜んでもらえてよかった。俺の魂込めて作ったからさ」


 ダニーは少し照れたように笑った。


「じゃあ、ご馳走様!そろそろ俺帰るから。お代は?」

「今日はいらないわ」

「商売なんだから、ちゃんと払うって」

「大丈夫。次来た時倍もらうから」

「……おい!」


 私達は軽口を言ってくすくすと笑い合う。


「やっぱ、俺はミーナとはずっとこんな感じがいいわ。友達なら別れることねぇし」

「……は?なんの話?」

「なんでもない。カール、ミーナに捨てられないようにせいぜい頑張れよ」

「ああ!?誰が捨てられるって?」

「お前に決まってんだろ」

「てめぇは二度と来るな!」


 ダニーはカールにベーっと舌を出したあと、私に「またな」と笑い手をあげて帰って行った。


「よし、お店片付けよう。結構お客さん来てくれたね」

「そうだな。良かった」

「疲れたでしょ?ご飯食べて早く休もう」

「早く休む……それもしかして俺のこと誘ってくれてる?」

「なっ……!さ、誘ってない!」


 私が真っ赤になって怒ると彼は「残念」と冗談っぽく口を尖らせた。


 レストランをオープンするにあたって、二人で話し合って愛し合うのは翌日がお休みの日だけと決めた。


『無理。だって週に二日しかできない……』


 私がその提案をした時、最初カールは顔面蒼白だった。


『む、無理じゃないでしょ?だって私の体がもたないもの。仕事しなきゃだし』

『無理だ。毎日でもミーナを愛したいのに!絶対優しくするから!あと一回だけにする』

『だめ。お願い』

『はぁ。わかった……できるだけ努力する。でもしない日もミーナと一緒のベッドで寝たい』

『わかった』


 とりあえずそういう約束になったのだ。レストランを片付けて晩ご飯を食べて、お風呂に入ると彼にベッドで抱き締められる。


「疲れたね」

「ああ、でも心地よい疲れだ」

「そうだね……眠くなってきた」

「寝てもいいよ。ミーナ、愛してる」


 チュッとキスをしてもらい、温かくて頼もしい腕に抱かれて安らかな眠りにつく。彼も最近は何度も起きて、私がちゃんと隣にいるかを確認することが少なくなった。それが……とても嬉しい。


 幸せすぎて怖いと言ってきたが、きっと私がいることに良い意味で『慣れて』きたのだと思う。幸せをそのまま受け取れるように変わったのだ。そんな忙しくも充実した毎日を繰り返し……明日はやっと定休日だ。


「キャー、本当に男前!」

「噂通りだね。格好良いのに料理人とか素敵」

「でしょ?味も美味しいの」


 開店して数日で……このレストランは話題になっていた。そう広くないこの町で、すぐにカールが男前だと噂が広まり若い女性達が見学ついでに沢山食べに来てくれたのだ。


 お客さんが増えるのは嬉しい。お陰で儲かっている。でも、やっぱり妻としては少しだけ面白くない。


「お待たせしました」


 カールは、よそ行きの笑顔で接客をしている。その度に、キャッキャと笑い声が聞こえる。キッチンを見たいので、可愛らしいお嬢さん方はカウンターに座りたいらしい。


「格好良いお兄さん、恋人いるの?いないなら私なんてどう?」


 自分に自信がある女の子は、直接そんなことを彼に聞く人もいた。


「はは、若いお嬢さんにそんなこと言っていただいて光栄ですね。でも俺には一緒に働く、この世で一番愛する妻がいますから」


 カールはニコッと微笑んで毎回こう答えていた。その度に私は恥ずかしくて真っ赤に顔が染まる。女性達からの「奥さんってこの人?普通じゃない?」的な感じの視線が辛いが、なるべく気にしないように心がけた。


 そして、今日は思いがけない嬉しいお客さんが来てくれた。


「お姉ちゃん!」


 私の顔を見て、彼女は嬉しそうに抱きついてくれた。そう……あの時町中で迷子になっていたララだ。私がプレゼントしたヘアゴムが髪についている。


「ララ!?大きくなったわね」

「食べに来るのが遅くなりすみません。なかなか来る機会がなくて。教えていただいたお店に行ったらミーナさんのお母様が、ここに新しいお店を持たれたと教えてくださったので来たのです」

「本当に食べに来てくれたんですね。嬉しいです!どうぞ」


 席に案内すると、彼女は小さな花束を「これはお祝いよ」と渡してくれた。私は「ありがとう」と笑って受け取った。


 カールもララに気が付き、キッチンから顔を出した。すると、ララは頬をポッと赤らめた。あらら……やはり女の子はみんなカールの顔に弱いらしい。


「ララ、久しぶりだな。俺のこと覚えてる?」

「王子様!!」


 大きな声でそう言ったので、店内の至る所でくすくすと笑い声がきこえた。ララは何故笑われたのかわからず、キョトンとしている。お母さんは「すみません……」と小声で呟き頭を下げた。


「ララに王子様だなんて言ってもらえて光栄だな。元気だったか?」


 カールは長い脚を折りたたみ、彼女の目線に合わせた。


「ん……元気だよ」


 彼女はもじもじとしてると「よかった」とポンポンと頭を撫でた。


「あのね、王子様!大きくなったらララをお嫁さんにして!ララはお姫様になりたいの」


 彼女はカールに子どもらしいそんな可愛いらしいお願いをした。お母さんは私達が夫婦だと知っているらしく「やめなさい」と言ったが、ララは「?」と首を傾げた。私は苦笑いをしている。


「ララ、それは無理だ」


 ――え。カールってば、それハッキリ言うの!?


「なんでなの」


 ララはうるうると涙を溜めて今にも泣き出しそうだ。


「ララ、俺は大好きなミーナと結婚してるんだ。だから俺のお姫様はミーナだけ。将来、きっと君だけを愛してくれる本物の王子様が現れる。だからララはお姫様になれるが、その相手は俺じゃない」


 彼は真剣にそう告げた。するとララはこくんと縦に頷いた後、私をじっと見つめた。


「お姉ちゃん、お姫様なの?すごい!」

「えっ……あの……」

「ララもお姫様になれるように頑張る!」


 純粋無垢な笑顔でそう言ってくれたので、私の頬は真っ赤に染まった。


 お客さん達から大注目を浴びたが、カールは素知らぬ顔でキッチンに戻って行った。その後、ララは特製のお子様ランチを食べて「おいしーい」とご機嫌になっていた。


 お母さんは帰り際に「とても美味しかったです。でも、お騒がせしてすみません」と謝っていたが、会えて嬉しかったことを伝え良ければまた食べに来てくださいと話した。


「バイバーイ」


 ララは楽しそうに手を振ってくれたので、私も姿が見えなくなるまで振り返しさよならをした。


 それからもなかなか忙しく時間が過ぎ、やっと閉店の時間になった。


「はぁ、疲れた。カールもお疲れ様」

「やっと明日は休日だな」

「うーん!嬉しい」

「二人で部屋でゆっくりしよう?」


 彼にそう言われて、チュッとキスをされた。そのキスでレストランの料理人としての彼から自分だけの彼に戻ったようで、少し嬉しくなる。


 簡単にご飯を終え、お風呂に入り……今夜は寝る前に二人で少しだけお酒を飲んだ。


「カールは……女の子達からモテモテね」


 私は少し酔ってしまったのか、普段なら言わないようなことを口走り……ハッと口を手で隠した。


「まさか妬いてるの?」

「べ、別に妬いてないけど」


 私はなんとなく甘えたくなって、彼の腕にギュッとしがみついた。


「可愛いことしてくれるね。安心して?俺はミーナしか女として見えてない。だって……君に触れたいのずっとずっと我慢してた」


 カールに熱っぽく見つめられて、私は頬が染まる。店をする前は毎日のように愛し合っていたが、仕事を始めたので今週はまだ一度もしていない。……といっても一週間も経っていないのだが、久しぶりなように感じるのが不思議だ。


「ミーナのこと……愛したい」

「うん」

「今夜は加減できないかも」


 優しいキスからはじまり、だんだんと濃厚なキスに変わっていく。クラクラするがお酒に酔ったのか、彼に酔っているのかわからない。


「ミーナ、愛してる」


 彼は今日までかなり我慢していたらしい。この夜の彼は熱が冷めることなく、明るくなるまで何度も何度も私達は愛し合った。


 ――翌日仕事の日はしない分、定休日前の夜は毎回とても濃密で甘くて激しくなってしまうのがお決まりになってしまった。この日ばかりは、私も少しだけ素直で大胆になる。


「この日を楽しみに毎日仕事してるから」

「……もう」

「本当だよ。俺の一週間のとっておきのご褒美」


 カールはいつもそんなことを言って、とても休みを楽しみにしている。


♢♢♢


 そしてレストランを開いて半年、お客さんは順調に増えている。そしてカールを口説く女の子はすっかりいなくなった。その代わり『仲良し夫婦の店』として有名になっている……らしい。


 それもこれもカールが口説かれるたびに『俺の妻が可愛いすぎて困る』とか『妻がいれば何もいらない』とか惚気まくったせいだ。


「俺は本当のことしか言ってない」


 私があからさまに言われるのはさすがに恥ずかしいと伝えるとカールは悪びれずに、何食わぬ顔でそう言って微笑んだ。


「ミーナちゃーん、こっちも日替わり頂戴」

「はーい」

「今日も可愛いね?」

「はは、ありがとうございます」


 私が良く来る男性のお客さんとこんな会話をしようものなら、カールはわざわざ出てきて作った笑顔で接客しに行く。


「日替わりです。どうぞ」

「げっ……カールさん」

「俺が持ってきたら不都合でも?可愛い()()ミーナが持ってこないと何か困りますかね?」

「いえ。トンデモナイデス」


 はぁ……カールには本当に困ったものだ。


「ごめんなさい、うちの旦那様やきもち妬きで」


 私が眉を下げてそう言うと、常連のお客さん達は「ハハハ」とみんなが笑う。


「もう、この店の名物だな」

「仲良し夫婦で羨ましいことだ」


 知らぬ間に、そんなことで有名になってしまった。でも私達はとても幸せだ。


 仕事を終え、部屋に戻って月二回届けられる新聞を読んでいると……そこにはパステノ王国のジークフリート殿下が未開の遺跡を発見されたという記事がのっており、これは過去を読み解く歴史的大発見だと記されていた。彼は王家の人間でありながら立派な考古学者だったらしい。


 すごい……そうなんだ。とてもご立派だわ。そして読み進めていくと『ご学友でもあったエレナ様とご結婚を予定されており、近く王家を抜け考古学者として生きていかれる予定』らしい。


 ――ご結婚!?


「カール!これカール見て!!」


 私は新聞を持って、興奮気味に彼に記事を見せた。カールはあからさまに嫌そうな顔をした。


「ミーナ、そんな嬉しそうに別の男のことを報告しないで欲しいんだけど?」


 私をチラリと見て……はぁ、とため息をついた。彼はもう会うことはないジークフリート様にもまだやきもちを妬くらしい。


「違うの!これもすごいんだけど、見てほしいのは別のところ」

「別の?」

「ジークフリート様、ご結婚されるって書いてあるの!」

「そうか。それは……めでたいな」

「ええ。彼がしたいお仕事と新しい幸せを見つけられたことが嬉しいわ」


 私はカールの胸に飛び込んで、ギュッと抱きついた。彼も私を抱きしめ返してくれる。


「私ね、あなたと出逢って驚くほど幸せなの」


 ――本当にそう思う。


「生まれ変わったこと自体嬉しかったわ。でも……カールに逢ってからもっともっと人生が輝いて楽しくなったの。自分にも自信が持てるようになったし、意地をはらずにあなたへの愛も伝えられるようになった」

「うん」

「平凡でありきたりで、きっと今の私は世の中に名前なんて残らないくらいちっぽけな存在だけどとっっても幸せ。カールと一緒にいる自分は生き生きしていて……素直で大好きなの」


 私は彼にすりすりと顔を寄せて、頬にちゅっとキスをした。カールはくすぐったそうにしながら、喜んでいる。


「カールは……今幸せ?」

「ああ、君がいれば毎日が幸せだ」

「そう思ってくれて嬉しい」

「結婚してから本当にミーナは言葉で愛を伝えるのが上手になったね。昔は恋愛のことは『わからない』とか『恥ずかしい』ばかり言っていたのに」


 彼が愛おしそうに私の頬をするりと撫でた。


「日々、成長してるのよ?」

「さすが俺の奥さん。じゃあ、俺は身体でこの狂おしいくらいの愛を伝えようかな」

「えっ!?」

「愛は言葉だけじゃ伝え切れないの……知ってるだろ?」

「知って……る」


 そのまま彼にベッドに連れて行かれ、これ以上無いくらいの愛を言葉でも身体でも伝えられ全身に愛を受けた。


「愛してる」


 彼の幸せそうな顔を見て、ああ……ミーナに生まれ変わったのは自分だけのためじゃなく彼のためでもあったのだと思った。


「私も愛してるわ」



♢♢♢


 何年経ってもお互いの愛は消えることなく『仲良し夫婦の美味しいレストラン』として、いつしかこの町の有名店となった。


 町のみんなから二人のあまりの仲の良さに『ここでご飯を食べると幸せになれる』なんて噂をたてられるくらいに。


 

 そして……田舎町に住んでいるミーナとカールというただの料理人は、小さなレストランをしながらずっとずっと幸せに暮らしたのでした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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