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絶世の美女から平凡な少女に生まれ変わって幸せですが、元護衛騎士が幸せではなさそうなのでどうにかしたい  作者: 大森 樹


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36 騎士としての姿

 体を磨きあげるために、長時間お風呂に入ってしまい少しのぼせてしまった。夜着に着替えて、ふらふらとリビングに戻る。


「ミーナ、遅いから心配した。大丈夫か?」


 お風呂からあがった私を見て、彼は近付いて来てくれた。なんだか頭がボーッとする。


「大丈夫、ちょっとのぼせただけ」


 あなたに触れられるかも、と思ってお風呂でゴシゴシ体を洗っていましたとは恥ずかしすぎて言えない。


「ちょっと待って。すぐ水を持ってくる」


 彼はグラスに冷たい水を入れて渡してくれた。あーあ、結局迷惑かけちゃって子どもみたいだ。


「ほら、ゆっくり飲んで」

「うん、ありがと」


 こくこくと水を飲み干した後、彼に抱き上げられベッドにそっと寝かされた。


 ドクンドクン……胸が苦しくなる。


 しかし、彼は私の横に座りパタパタとゆっくり風がくるように扇いでくれる。頭がぽーっとする中で、とても気持ちが良い。


「ごめんね」

「何が?」

「……迷惑かけて」

「なにも迷惑じゃないさ。ミーナが眠るまで傍にいるから」


 その言葉におや?と思う。


「寝るまで?」

「ああ。だからゆっくりおやすみ」


 彼はそういう欲など全くなさそうな穏やかな顔で、私の頭をそっと撫でた。


「……今夜は別の部屋なの?」

「え?そうだけど」

「なんだ。緊張して損したわ」


 自分の多大なる勘違いに恥ずかしくなって、ちょっと拗ねたようにそう言った。


「……っ!」

「あなたが早く寝ろとか言うから」

「そういうことか。だから、ホテルに来てから様子が変だったんだな」


 彼は口元を手でおさえて、項垂れた。


「ご期待に添えなくて申し訳ないが、今夜は別の部屋だ。俺が眠れなくなるから」

「期待なんかしてないもん」

「そう?でも……君が意識してくれたのは男としては嬉しいよ」


 悪戯っぽく笑う彼が憎らしい。


「今夜は何もしないから、安心しておやすみ」

「……おやすみのキスはないの?」


 私が甘えた声を出すと、カールは「可愛い」と呟いて私の頬を撫でた後におでこにキスをしようとした。


 私はその瞬間に彼の首をグイッと引き寄せ、唇をちゅーっと強めに吸った。なんか色っぽいキスにはならなかったけど仕方がない。


 彼は目を見開いたまま驚いてフリーズしていた。私からキスをするとは思っていなかったんだろう。


「おやすみなさい」


 カールを無視して、ガバリとシーツをかぶり背を向けた。ああ、どっと疲れて……なんだかよく眠れそうだ。


「ミ、ミーナ!?おい、なぁ……!!」

「ミーナ!煽っておいて無視は酷い」

「ミーナ!ミーナ?」


 何度も私を呼ぶ声が聴こえるが、知らないふりをする。私はそのまま深い眠りについた。


 そして翌朝、私はすりすりと何かに頬擦りされながら目が覚めた。何かって……心当たりは一人しかいないけれど。


「???」


 私は軽くパニックだ。彼から逃れようと驚いてバタバタと動くと、さらにぎゅっと抱きしめられた。


「ミーナ起きた?おはよう」


 カールは片手で私を抱いたまま、肩肘をついて私の顔を眺めている。


「おはよう……って!カールどうしてここに!?」

「んー?昨日のお返ししないとダメだと思って」

「もしかして昨晩からここにいたの!?」


 私は真っ赤になるが、彼はムッと不機嫌になった。


「昨夜はちゃんと隣の部屋に戻ったよ。君からあんな熱烈なキスをしてくれたのに、その後俺を無視してすやすや寝るから……俺はもやもやしてなかなか寝られなかったけどね?」


 口元は笑っているが、目は笑っていないのが怖い。


「は……はは。疲れてたからかな?」

「そうだな。でもそれだけ寝たら、もう疲れてないよね」

「え……いやぁ、その……」


 私がどう切り抜けようか考えている間に、彼にベッドに押さえつけられて唇を奪われた。


「ミーナ、好きだよ」

「わたし……も」

「愛してる。可愛い」


 それからしばらく彼からキスの嵐と熱烈なハグを受けて、私はくたくたになった。朝のイチャイチャのせいで、モーニングを食べ損ねた私達は今少し早めのランチを取っている。


「ミーナ?ミーナちゃーん、怒ってる?」

「……怒っていません」

「本当にごめん」


 カールは申し訳なさそうに、頭を下げた。怒っているわけではない。恥ずかしいのだ。だって!あの後……彼にベッドから離してもらえずホテルのスタッフの人にノックをされ「すみません、チェックアウトのお時間です」と声をかけられた。


 扉越しなので姿を見られたわけではないが、その声に私はビクリと驚き死ぬほど恥ずかしかった。そうなってやっと彼は私を解放してくれたのだ。


 カールは恥ずかしがる様子もなく手慣れた様子で、扉まで行き「すみません、もう一泊お願いします。だからこのままで」とニコリと笑ってホテルスタッフにチップを渡していた。


 呼んでも出てこないなんて、どう思われただろう。予約していたモーニングにも来ず、変だと思われたに決まってる!思い出しただけで赤面ものだ。


「恥ずかしくてスタッフさんの顔見れない」

「……大丈夫だよ。優秀なホテルスタッフは色々と見て見ぬふりをしてくれるから」


 ハハッと笑う彼が憎たらしくて、ギロリと睨みつける。


「ん……、コホン。ごめん」

「大丈夫、恥ずかしかっただけ」

「君を前にすると俺は冷静でいられなくなるらしい。気をつけるよ。で、でも気を取り直して、ネックレス取りに行こう?」


 彼は私の表情を伺っている。私も恥ずかかっただけだし、いつまでも怒っているわけにもいかないので「……デザート食べてからね」と言うと彼は嬉しそうに微笑んだ。


「何個でも頼んで」

「そんなに食べれないわよ」

「じゃあ違うの半分ずつしよう」


 カールは私を甘やかせるのが上手いらしい。結局私が好きな物を二つ頼んだ。


「ミーナ、はい。あーん」

「じ、自分で食べられるわ」

「いいから。口開けて」


 彼はこういう行為が恥ずかしくないらしい。彼がフォークを置く様子がないので、仕方なくパクッと食べる。


「んーっ、美味しい」

「じゃあ、ミーナもして?」

「えっ!?」

「俺はしたのに、ミーナはあーんしてくれないの?」


 私は自分のスイーツを、チラリと眺めた後……カールの目の前でそれをパクリと全て頬張った。


「あっ!」


 もぐもぐもぐ……うーん、美味しい。


「もうぜーんぶ食べちゃった」


 カールに揶揄われてばかりでは、癪に触るというものだ。私はふふふ、と微笑んだ。


「残念」


 そう言いながら、さっき私が食べたフォークをわざとらしくペロリと舐めた。こ、この男は。結局、私の方がドギマギさせられて昼食は終わった。


「さあ、宝石屋に行こう」

「……うん」


 手を引かれながら、昨日のお店に向かう。もうお昼を過ぎているから出来あがっているはずだ。店に入るとすぐに店主が気が付いてくれた。


「お二人とも、お待ちしておりました。完成していますよ」

「ああ、見せてくれ」

「はい」


 店主はビロードの布に置いた、二つ並んだネックレスを見せてくれた。


 どちらもブラックとブルーパープルの石が仲良く並んでいる。まるで彼と私のようだ。私のはブラックがメイン、彼のはブルーパープルがメインだ。


「……綺麗」

「ああ、良いな」

「奥様のはチェーンを細く華奢に、旦那様のは太めの物にしましたがもしご希望があれば変更致します」


 奥様……と言われて照れてしまう。もうすぐ本当に奥さんになるんだから、こんなことで焦っちゃだめなのに。カールは私の動揺に気が付いているようだった。


「まだ婚約者なんだ。来月結婚する」

「ああ、左様でしたか。失礼致しました。あまりに良い雰囲気なので、すでにご結婚されているのかと思っておりました」

「い、いえ」


 私は赤い頬を手で包んで、俯いた。


「ミーナはどう?俺はこのままで気に入ったけど」

「うん、私もとても気に入ったわ」

「ありがとうございます」

「素敵な物を作ってくれて感謝するよ」


 その場でお互いネックレスを付け合った。


「ミーナ、よく似合ってるよ」

「カールも、よく似合ってる」


 その様子を店主は穏やかな表情で、微笑んでくれていた。他の店員さんが出てきて、保存方法の説明をしたいと部屋の奥に連れて行かれた。ん?私だけ?と疑問に思ったが……店に戻った頃にはすでに支払いは済まされていた。


 なるほど。男性が支払うところを女性に見せないようにするのね。宝石屋さんの気遣いなのだと感心した。さすがだわ。


 ネックレスの値段は……おそらくすごい金額だと思う。ブラックダイアモンドは希少なものだから。でも彼が贈りたいと思ってくれるものは、拒否せずにありがたく受け取ることに決めた。そうした方がカールが嬉しそうだから。


 私達はお礼を言って、店を後にした。


「王都へ戻ろうか」

「はい」


 私達が馬車で王都に戻ると、明日帰るために早めに宿に戻った。寝るのは別の部屋だが、今は私の部屋にカールが来てくれている。


「君との旅行が明日で終わるのは寂しいな」

「そうね。あっという間だったけど、来れて良かったわ」

「そうだな。俺も過去に区切りがついた」

「私も」

「ミーナ、これからは本当に新しい人生だ」

「そうね」

「君と生きていけるなんて幸せだ」

「私も……そう思ってる」


 二人で見つめ合い、抱きしめ合った。前世の私は……幸せになれなかったけど、今の私はとても幸せだ。


「明日は陛下に挨拶だけして帰ろう」

「はい」

「きっと君の希望した品を用意してくれてるよ」

「そうかしら!?楽しみ」

「帰ったら、新しい料理ができそうだな」

「腕がなるわ」

「俺も帰ったらまた修行だな。結婚式前にバッカスさんに料理作ることになってるんだ」

「うわぁ……それお客さんに出すより緊張するわね」


 お父さんったら、なんてプレッシャーをカールにかけているんだ。


「だろ?でも、俺は美味しい物を作ってバッカスさんに認めさせてみせるよ?堂々と君の夫になりたいからね」


 カールはチュッとおでこにキスをした。


「応援してくれる?」

「もちろん」

「じゃあ頑張れる」

「カールなら絶対できるわ」

「……ありがとう。愛してる」


 私達は甘いキスで「おやすみ」の挨拶をした。


♢♢♢


 翌朝、身なりを整えて王宮へ向かうと陛下の部屋に呼ばれた。


「ホテル楽しめただろう?私がよく使うとっておきの場所を提供してやったんだから」

「陛下のお心遣いのおかげで、一睡もできない夜を過ごしました」


 カールはニッコリと笑いながら、静かに怒っていた。


「はっはっは、眠らぬとはお前もまだまだ若いな。仲良くて羨ましいことだ」

「……はい。おかげさまで」


 陛下には彼の怒りが通じていないようだ。絶対、陛下は違う意味で寝れなかったと勘違いしてると思う。


「では、私達はこれで失礼します」

「もう帰るのか?うちの騎士団の訓練に顔を出していけ」

「嫌ですよ。俺はもう料理人だと言ったでしょう」

「お前の騎士として最期の仕事だ。ミーナ嬢も剣を扱っているこいつを見たくないか?」


 私に話が振られて驚いた。もちろんキャロラインの頃は、常に彼の騎士としての姿は見ていた。しかし、確かに最近の彼の騎士姿は見ていない。


「そうですね」

「……っ!ミーナ!?」


 その瞬間カールは困ったような声を出したが、陛下はニヤッと悪戯っぽく微笑まれた。


「決まりだ。おい、すぐに騎士団を集めろ。勝ち抜き戦だ」


 あれよあれよ……と言う間に私は騎士の訓練場に連れて行かれた。そして、後ろからは騎士の格好をさせられたカールが現れた。


「はぁ、なんでこんなことに」

「ごめんなさい。でも最期に貴方の勇姿を見たいなと思ってしまって」

「……じゃあ、仕方がないな」

「ふふ、格好良い姿見せて」

「君だけの騎士(ナイト)として闘おう」


 カールはフッと微笑んだ。騎士団の服を着た彼はやっぱり迫力があり、キリッとして男前だ。なんだかドキドキしてしまう。


 そして、十人の勝ち抜きということでシュバイク王国の騎士の中でも強い者が集められたそうだ。


「カールに勝てた者には、褒美をやろう!精一杯励め」


 陛下は楽しそうにそう告げた。ハッと騎士達は返事をし、ワーワーと盛り上がっている。


「陛下、俺が勝ったらどうしますか?」

「欲しいがあるなら言え」

「では、もう二度と騎士として剣をふるわせないと誓っていただきますよ。俺が今後剣を使うのは、ミーナに関する場合のみです」

「……いいだろう」


 陛下の言葉を聞いて、彼はフーッと息を吐いて気合を入れた。


「俺は早くミーナと帰りたいんだ。誰からでもいい。さっさとかかって来い」


 そう言ったカールは本当に強くて、バッサバッサと美しい剣技を披露してどんどん騎士を倒していく。


「すごい……!」

「はぁ、この腕を失うのは勿体ない」


 陛下は本当に悔しそうにそう呟いた。確かに陛下の言う通りだと思う。


「そなたもあいつも幸せ者だな」

「……」

「あいつは、君のために全てを捨ててでも一緒にいたいと望んだのだ。それは君がそれだけ価値のある……大事な女性ということだ」

「はい。ありがたいことです」


 そして、あっという間にもう最後の一人だけになった。


「カール様、お久しぶりです」

「ああ、君か」

「もう一度手合わせいただけるなんて、嬉しいです」


 その瞬間に、若い騎士は深く踏み込んでカールの服を掠めた。


「あれ?胸を切り裂くつもりで振ったんですけど」

「ああ……筋は悪くない。だが、俺には効かない」

「当てられるように頑張ります」


 その男との組み合いは、目にも止まらぬ速さで何が起こっているのか素人には追えなかった。


 カンカンカンと激しく剣がぶつかる音だけが数分続いていた。

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