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絶世の美女から平凡な少女に生まれ変わって幸せですが、元護衛騎士が幸せではなさそうなのでどうにかしたい  作者: 大森 樹


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35 不滅の愛

 そして隣を見ると『キャロライン・ド・ブルゴーニュ』の文字。これはまさか、私のお墓?自分の墓を自分が見るのはなんとも言えない感情だ。


「私のも作ってくださったのね」

「ええ。ただ、キャロライン王女の遺品はなくて中には何も入っていない。俺が……あなたが亡くなられた時にご遺体を燃やしたので」


 カールはその当時のことを思い出したのか、悔しそうに拳をギュッと握り唇を噛み締めた。私は彼の手をそっと包むように握った。


 この国では土葬が一般的だ。火葬するとその人の魂が無くなるとかいう言い伝えがあるから。まあ、私がこうやってピンピン元気に生まれ変わっているでそれは迷信だったと証明できるけど。


「あなたは私の遺体が辱められないようにしてくれたのでしょう?その判断は正しいし、とてもありがたいことだわ。むしろ……辛いことをさせてごめんなさい」


 遺体であっても、ダラム帝国に運ばれていたかもしれないし……反乱軍によって見せしめとして広場に放置されていた可能性もあるのだ。


 ――しかし、惚れていた女性を自らの手で焼くというのはどれほど辛かっただろうか。当時の彼の気持ちを考えると胸が苦しくなる。


「キャロライン王女の物で残ったのは、この髪の毛一房とネックレスだけ」


 彼が胸ポケットから出したのは、ブロンドの髪の毛の束と初めて出逢った時に見たネックレスだった。


「これを彼女の墓に入れようと思っています」

「え?これはあなたの一番大事な物でしょう?」

「やはり彼女自身のものを墓に入れてあげたいんです。それに、俺はこれより大事な君と出逢えた。だからもうこれは必要ない」


 彼は覚悟を決めているようだったので、私も頷き……二人で手を合わせてから墓を動かし中に髪とネックレスを入れた。


「苦しい時、俺をずっと護っていて下さってありがとうございました。俺はずっとキャロライン王女に憧れ、愛していました。俺に愛の喜びと苦しみを教えて下さってありがとうございました」


「これからはミーナを愛し、護っていきます。どうか安らかに。さようなら」


 そう言い切った彼の顔はスッキリしていて、とても爽やかだった。


「お墓参り来れて良かったね」

「ああ、とても清々しい気持ちだ」

「私もよ」


 そして、私は意を決して気になっていたことを聞いた。


「カールのご家族のお墓は……」

「……ない。あの内乱で両親と兄は亡くなったのは間違いないが、遺体はどうなったのかわからない。遺品も見つけられなかった」

「そう……だったのね」


 そうだろうなと思っていたが、実際にそう聞くと胸がギュッと締め付けられる。


「そんな哀しい顔しないで」

「でも……本当はカールのご両親とお兄様にもご挨拶したかったわ」

「みんなこの土地のどこかに眠ってる。私達のこときっと祝ってくれていると信じている」


 私はすぅ……と吸い込んで、大きな声を出した。


「お父様、お母様そしてお兄様!私はライナス……いや、カールと一緒に幸せになります。不束な嫁ですが頑張ります!!どうかお空から見守っていて下さい!!」


 そう叫んだ私を見てカールは驚いた後、嬉しそうに笑った。


「ハハ、やっぱり君には敵わない。きっと今の幸せな俺の姿を見たら、喜んでくれるに決まってる」

「そうかな」

「父上は王家第一の人だったからきっと、君の前世がキャロライン王女だと知ったら俺に不敬だ!と怒り狂うだろうがな」

「あらら……じゃあ天国でお会いしたら、私が口添えをするわ」

「ハハハ、頼むよ。父上は強いから怒ると怖いんだ」

「ヴェセリー侯爵は私には優しかったけれど」

「そりゃ君にはね。ずるいな」

「ふふ、頑張って助ける」


 私達は最後は笑って墓参りを終えた。これからはミーナとカールとして、二人で生きていく。キャロラインとライナスだったのはもう過去の話にしよう。


♢♢♢


 センチメンタルな気持ち変えようと、私達は街におりてデートをすることにした。街中はとても賑わっていて、私達の住んでる田舎町とは比べ物にならないくらい都会だ。


「露店がいっぱい出てるね」

「そうだな。昨日のことなど色々思うところはあるが、今の陛下は素晴らしい王だ。内乱が終わってからはずっと平和だよ」

「良かったわ。あ!あれは何?」

「あれは最近流行ってるお菓子だな。食べる?」

「食べる!」


 私が目を輝かせて店に駆け寄っていく。


「お嬢ちゃん、いらっしゃい」

「こんにちは。おすすめはどれですか?」

「一番スタンダードなのは、カスタードだよ。人気はそれに苺が入ってるやつだね」

「わあ、じゃあそれを下さい。カールも食べる?」


 私は振り向いて、彼に聞くと「ああ」と言うので「じゃあ二つで!」とお願いした。


「はいよ。いいねぇ、二人はデートかい?」

「デ、デート!?」


 知らない人にデートだと言われて、どぎまぎする私を横目に彼は余裕の顔だ。


「ああ」


 恥ずかしいが、ちゃんとデートに見えててよかった。歳の差があるし私が子どもっぽいから……恋人じゃなくて親子に思われたら哀しいもの。まあ、カールは見た目が若いから心配はないだろうけど。


 そして当たり前のように後ろからカールがお金を支払うので「私が払う」と不機嫌に睨みつけると、彼は困ったような顔をした。


「ハハハ、この色男に払わせてやんな。魅力的なお嬢ちゃんとデートするには安すぎる値段さ」

「全くその通りだ」


 カールは店主にお金を払い、お菓子を受け取った。私はボッと頬が赤くなる。


「照れちゃって、初心で可愛いじゃねぇか。お兄さん、羨ましいねぇ」

「だろう?俺の彼女は世界一可愛い」

「うわ、惚気かい?だが、ここまでハッキリ言われると気持ちが良いな。また来ておくれ、お幸せに」

「ありがとう。さあ、行こう」


 私は店主さんにペコリと頭を下げると、カールは自然に私の手を繋いで街の中のベンチまで連れて行ってくれた。


 手を繋ぐの……ドキドキする。彼のゴツゴツした大きな手と熱を感じる。私達が住んでいる町は田舎すぎて目を惹くので、恥ずかしくて手を繋いだことはないから。


 ベンチの前に着いて、手を離された時少し寂しい気がしてしまった。そんな風に思うなんて……私ったら何を考えてるんだろう。


 彼はポケットから出したハンカチをするりとベンチにひいた。カールは無骨な感じに見えて、実はこういうところは紳士的でドキっとする。


「ありがとう」


 お礼を言って座り、お菓子を受け取る。揚げて砂糖をまぶしたパンのようなものに、カスタードと苺が挟んである。


 パクッ……もぐもぐ。


「美味しい!カスタードと苺の酸味が絶妙だわ」

「うん、美味いな」

「お砂糖もジャリジャリしてて、それがまた食感が違っていいわ。あえて荒めの砂糖を使ってるのね」

「ふふ、さすが料理人だね」

「自分の料理に活かせるかもしれないもの。美味しいものは研究しないと」


 ご機嫌に全部食べ終わった。あー美味しかった。彼は私の顔を見てくくっと笑った。


「なに?」

「カスタード付いてる」

「ええっ!?やだ、どこ!?」


 私が唇を拭おうとした瞬間に、彼の手が伸びてきて親指で口元をそっと拭われた。


「取れた」


 そして、指についたカスタードをペロリと舐めた。その表情がやけに色っぽくて、胸がドキンと高鳴った。


「な、な、なんで指を舐めるのよ!」

「綺麗にしたいから?」

「ふ、拭けばいいでしょ」

「本当はここを直接舐めたかったのを堪えたんだ。むしろ感謝して欲しいな」


 カールはニッと笑って私の唇をそっと撫でた。ゔーっ、恥ずかしい。そして私じゃ彼に太刀打ちできないのが悔しい。


「さあ、他に何を見る?」

「結婚記念に超高級な宝石でも買ってもらおうかしら」


 悔しいので、そう言うと彼はおや?と少し驚いた顔をしたがすぐに私の悔し紛れの台詞だとわかったらしくすぐに意地悪く笑った。え……なんかその顔怖いんデスケド。


「それはいい考えだ。旅行の記念にもなるし、何か贈ろう」

「えっ!?いや、嘘よ」

「俺としたことが、気が利かなかったな。宝石の一つや二つ贈れないようじゃ、恋人失格だ」

「もうこの指輪あるし!いらないから」

「それはそれ。普段使いのも必要だ。さあ、選ぼう」

「平民が普段から宝石なんて付けないわよ」

「いいから」


 手を握られ、あっという間に宝石店に連れて行かれた。キラキラ煌めく店内はとても豪華で、眩しい。


 私も店に入ってしまった状況で「いらない」とはさすがに言えない。カールは店主と楽しげに話している。困らせようとしたのに、結局私が困っている。


「旅行に来た記念に彼女に何か贈りたい。普段使いできるものがいいな」

「左様でございましたか。それはよろしゅうございますね。石の指定や好きなお色味などございますか?」


 私にニコニコと微笑みながら、店主さんがそう聞いてくる。


「……では黒の宝石で」


 そう言ったら、カールと店主は「え?」と不思議な顔をしてこちらを見た。


「黒ですか」

「ミーナ、なぜ黒なんだ?もっと華やかな色の方が君に似合うだろう?」


 なぜ黒なのかなんて……そんなの決まっているじゃないか。カールは案外鈍いらしい。流石、店主はすぐ気がついたようだ。黒は彼の()()()の色だから。


「どうして黒がいいか本当にわからないの?」


 私はカールをジッと見つめた。カールは「んー?」と首を捻っている。


「……鈍感」

「え?」


 そこまでヒントを出すと流石に彼は意味がわかったらしく、すぐに真っ赤になった。


「まさか……その……俺の色……」

「それ以外の理由ないでしょう?」

「そ、そうか」


 彼が頬を染めわたわたと焦っている様子が可愛らしくてくすりと笑ってしまう。彼は昔から顔が整っている上に、騎士としても強く侯爵家の御令息だったのでとてもモテていた。だから、女性に自分の色のプレゼントなんかは慣れていそうなものなのに。


 貴族の恋人達はみんな色を合わせている。舞踏会ではお互い『婚約者』にまつわる色の服や宝石を身につけるものだ。恋愛に疎い私もそれくらいは知っている。


「あら?自分の色を贈ったことないの?」

「ないよ!あるわけないだろう」

「へぇ?」


 私は疑いの眼差しで、チラリと見る。顔も知らない元恋人に妬いても仕方がないが、過去に大事にされていた人がいたかと思うとあまり面白くはない。


「俺はそういう経験はない」

「意外ね。モテるのに」

「好きでもない女に贈る必要なんてないからな」

「じゃあ、あなたの初めてを貰おうかしら」

「はは、君に貰ってもらえるなんて光栄だ」


 そんなことを言いながら、楽しそうに黒の宝石をチェックしだした。その中で一際キラリと光る石があった。


「これは……」


 彼が手に取って光にかざすと、キラキラと輝いている。


「お目が高いですね。これは珍しいブラックダイヤモンドです。恋人へのプレゼントにも最適ですよ」

「最適?」

「ええ。意味は『不滅の愛』ですから」

「それはまさに俺の気持ちにぴったりだ」

「そうでしょう」


 不滅の愛……なかなか照れる言葉だが、結婚する私達にはピッタリな気がする。


「俺は気に入ったが、ミーナはどう?」

「ええ。素敵ね」

「じゃあこれにしよう。アクセサリーは何がいい?イヤリング?」

「いえ……ネックレスがいいわ。それなら仕事中もずっとつけていられるから」

「ずっとつけて……そうか」


 彼はまた頬を赤く染めた。


「店主、タンザナイトはあるか?」

「ええ。ございますよ」

「このブラックダイアモンドと合わせて欲しい。そして二つ作ってくれないか?ブラックダイヤがメインで小さいタンザナイトのネックレスと、その逆の物を作ってくれ」

「承知いたしました。デザインはどういたしましょう?」

「デザインはシンプルな方がいいな」


 それからは二人でああでもない、こうでもないと言いながらデザインを考え店主にオーダーをした。


「ありがとうございます。明日の昼にはお渡しできように、作っておきますので」

「わかった。先に支払いをしておこう」

「いえ、仕上がりを見てからお願いします」

「……あなたは人が良いな。騙されないか心配だ」

「ははは、大丈夫ですよ。長く商売をしていると信用できる人かどうかは一瞬でわかるものです。明日、お待ちしておりますね」


 ニコリと微笑み頭を下げた店主に、私達は「また明日伺います」と店を出た。


「カール、あんな高価な物よかったの?」

「ああ、もちろん。君とお揃いなんて嬉しいから。今日、ずっとしていたネックレスを手放したしね」

「……ありがとう。嬉しい」


 私は素直に彼にお礼を言った。彼と一緒の物を持てるのはとても幸せだと思ったから。


「どういたしまして」


 カールは蕩けた顔で微笑み、私の髪をくしゃりと撫でた。それからもデートを続けて、ご飯を食べたりお土産を見たりしたらすぐに暗くなった。


「じゃあ……そろそろホテルに向かうか」

「う、うん」


 今夜はこのままこの街に泊まる予定だ。ホテルという言葉に今朝のことを思い出して、緊張してくる。


 まさか、また同じ部屋とか。いや……昨日は陛下のせいでああなっただけだし。でも一回一緒に泊まったから一緒じゃない?いや……でも……な。


 私はぐるぐると色々考えてしまう。


「……ナ!ミーナ!?」

「は……はい!?なに?」

「どうした?ぼーっとして。もしかして、しんどいのか?」


 カールは私のおでこにそっと手を当てて、熱を測った。ひゃあ……!驚いてビクンと体が跳ねる。


「熱はないようだが、すぐ部屋に行こう」

「スグ……ヘヤニ」

「ああ、早く寝た方がいい」

「ハヤクネル……ハイ」


 片言で話してしまうのも仕方がない。だって緊張してしまう。昨日呑気に寝ていた私とは違うのだ。彼をより『男』だと認識してしまっている。


 私の手を引いて、迷いなく部屋に入った。そして彼は私に色んな世話を焼いてくれた。


「寝る前にお風呂に入っておいで」


 寝るって……寝るってこと!?でも手は出さないって言ってた。いや、手は出さないってどこまでの話!?途中までとか……いや途中って何?


「い、いや」

「疲れただろう?ミーナがあがるの待ってるから安心して入って」


 どっちかというと待たれてるのが安心じゃないと言うか……なんていうか。


「入ってくるね」


 私はドキドキしながらも、お風呂に入り……見られても大丈夫なように身体中をピカピカに洗った。

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