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絶世の美女から平凡な少女に生まれ変わって幸せですが、元護衛騎士が幸せではなさそうなのでどうにかしたい  作者: 大森 樹


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23/44

23 王子

「おはよう」


 翌朝ジークフリートはキラキラと輝く笑顔で、挨拶をしてきた。


「おはようございます」

「朝から君の顔を見れるなんて幸せだな。今日もとても綺麗だね」


 私は驚いてゴホゴホと咽せてしまった。


「な……なにを仰ってるんですか」

「私は本音しか言わないよ」


 ニコニコと笑っているジークフリートが眩しい。彼はそのまま我が家で呑気に「美味しい」と朝食を取っていた。


 その時、いきなりバンと扉が開き沢山の男が家に入ってきた。しかもみんな……武装してる。


 何これ……めちゃくちゃ怖いんですけど。何の騒ぎなのか。


「誰だ!?お前ら!勝手に人の家に入ってきやがって」

「きゃあ!」

「え……誰?」


 両親と私は驚きと恐怖で震えていた。


「お前達!やめろ!!」


 ジークフリートが大声で叫んだ。その瞬間に、男達は一斉に武器を下ろした。


「この方達は私を助けてくださった方だ。丁重に扱え。非礼は許さぬ」

「はっ!」


 え……?ジークフリートって何者なの?


「大変失礼を致しました。誘拐の可能性もあったものですから。この度はジークフリート王子を助けていただき大変感謝致します」


 おうじ……おうじ……王子!?


 ジークフリートったら、今世でもまた王子なの?なんで王子がこんな町を一人でうろうろしているのか。頭の中は大混乱だ。


 リーダーっぽい落ち着いた男性が、私達に深く頭を下げて他の隊員は邪魔になるからと外に出してくれた。


 両親は驚いて口をパクパクしている。


「驚かせてしまい申し訳ありませんでした。私はジークフリート・アシュベリー。パステノ王国の第四王子です」

「王子……パステノ王国……」


 パステノ王国といえば、ここルニアス王国の近くで海に囲まれた島国だ。そこの王子。高位貴族だろうな、なんてレベルではなかった。


 いや、それもそうか。彼は元々王族だったのだから、今の立場はおかしくはない。むしろ大国の第一王子だったジョセフにしてみれば、今の方が地位が低いくらいだわ。


 王子と聞いて両親はさすがに驚いて口を開けなくなっていた。


「私は、ミーナに惚れてしまいました。どうかお嬢さんを私にくださいませんか?」


 そんな爆弾発言をさらりと笑顔で言うので、両親はまた目を見開いた。彼の護衛もビックリしている。


「は?ミーナを……?」

「ええ。ミーナはとても素敵な女性ですね」

「王子だかなんだか知らないが……うちの大事な子をどうするおつもりですか?平民を愛人にして傍に置きたいとでも?ふざけんなよ」


 お父さんは、ジークフリートをギロリと睨んだ。


「お前!ジークフリート様になんてことを言うのだ。不敬だぞ!」


 護衛がお父さんに掴みかかろうとするのを、彼が止めた。


「やめろ!」

「ですが……王子」

「いいんだ。当たり前の反応だ」


 彼はふう、と息を吐きにっこりと微笑んだ。


「私は本気です。もちろん、ご両親が大切にされているミーナを愛人になどするつもりはありません。我が国では、王位継承者以外の男子王族は結婚を機に臣下に下がります。好きな伴侶を見つけていいことになっていますから」

「だからって……平民の女を妻に?そんなことありえないね」

「確かに普通ならありえないかもしれませんね。でも、私は身分に関係なく恋に堕ちてしまった。こんな気持ちは初めてなのです。ミーナの傍にいると楽しくて幸せです」


 ジークフリートは嬉しそうに左胸をギュッと掴んで笑った。


「王子!いけません。貴方にはもっと相応しい高位貴族の御令嬢がいらっしゃいます」

「黙れ。自分の伴侶は自分で決める」

「王子……」


 そりゃあ護衛の言う通りだわ。私が護衛でも自分の仕えている王子が平民と結婚したいなんて言い出したら、全力で止める。


「今日はここで引きます。泊めていただき、ご飯もありがとうございました。しばらくこの国に滞在するので、また顔を出します。ミーナ、愛してるよ」


 みんなの前で恥ずかしげもなく「愛してる」なんて言うものだから、私はボンッと頭が爆発するほど恥ずかしくなって真っ赤になって俯いた。


 彼は真っ赤な私にするりと近付いて、耳元に顔を近付けた。


「ミーナは悪い子だね。そんな可愛い反応されたら、また口付けしたくなる」


 そう言われて、昨夜の激しいキスを思い出しさらに熱が上がった。彼はくすり、と意地悪く笑い「またね」と手を振って去っていった。


 嵐が去った後も……私と両親はあまりの衝撃にしばらく動けなかった。


「ミーナ、あなたあの人が王子様だって知ってたの?」

「まさか!知らなかった。知ってたら我が家に連れてこない」

「そうよね……」

「彼はお前のことを好きだと言っていたが、本気なのか?そんな短時間で惚れたなんて……一体何があったんだ?」


 お父さんがおかしいと思うのは当然だ。だって、一国の王子が見た目も普通の私を好きになるなんて。でも「前世で婚約者だったの」とは言えない。どうしようか……


「小さい頃にどこかでお会いしていたらしくて」

「パステノの王子と??」

「お……お忍びで来られてた時に。幼かった私を覚えていらっしゃったそうで」

「じゃあミーナが初恋の人みたいな感じか?」

「そんな感じ……なのかな」


 そんな感じではないが、そうでも言わないとこの場が収まらない気がするから仕方がない。


「まさか、お前が王族から求婚されるとはな。驚きだよ。正式に申し込まれたら平民からは……断れない。だがいくらあの方の初恋がミーナでも、俺は心配だし反対だ。知らない国で、俺達と離れて嫁ぐなんて」

「私も嫌です。この国で自分の店を持つことが夢だもの」


 私達はシーンと静まり返った。


「ねえ、あなたカールとはどうなったの?彼から……誤解があってミーナと喧嘩してしまったので、カールに起きた問題を解決するまで我が家には戻りませんと謝りに来たけれど?」

「もう、彼は私の前には現れません。婚約者が迎えに来たの」


 その言葉に二人とも驚いたあと、複雑な顔をした。


「あれは本当だったのか?町でカールがとびきり美人とキスしていたと噂になっていた」

「でもカールは誤解って言っていたわ。何か事情があるんじゃない?」

「違うって言っても、キスしてんだぞ?」

「そうよね。でも恋人はいないって言ってたのに」


 二人は難しい顔をしながら、あーでもないこーでもないと話している。


「もうカールのことはいいの!婚約者のことは隠していただけよ」


 私はまたムカムカしてきて、大きな声をあげてしまった。


「……嘘つくような人には見えなかったけれど。二人でちゃんと話したの?」

「話してない。もういいの。私と話したら、婚約者さんが嫌がるもの」


 私は涙が出そうになるのを、グッと唇を噛み締めて耐えた。するとお母さんが、私の手をそっと握ってくれた。


「ミーナ……あなた、カールのこと」


 私はぶんぶんと左右に首を振った。好きだなんて口に出したら、本当に諦められなくなってしまいそうで言いたくない。


「チッ。カールに次に会ったら、父さんが痛い目にあわせてやる!俺の可愛い娘を泣かせやがって」

「ふふ、騎士のカールに?怖い者知らずね」

「馬鹿言うな。お前のためなら……どんなに勝ち目がなくても闘うさ」


 お父さんがそんなことを言ってくれるので、私は堪えきれずポロリと泣いてしまった。お母さんがぎゅっと抱きしめてくれた。


「でも、とりあえずは王子の方をどうするか考えないとな」

「そうよね」

「側近っぽい男は王子と平民との結婚を否定していた。いざとなれば、あの男を味方につけて諦めてもらおう」

「うん。私も……もしまた王子が来たら、自分の気持ちをちゃんと伝えてみる。彼の妻なんて無理だし、この国を離れたくないから」

「そうだな。いざとなれば、みんなで他国へ逃げようぜ」

「あら、いいわね。他国の料理も食べてみたいし」

「ははは」


 そう言ってニッと笑うお父さんとお母さんは、とっても優しくて格好良かった。この二人が両親で本当に幸せだ。


 私達は気を取り直して、いつも通り食堂を開けた。ありがたいことに、ずっと忙しくて色んなことを考える余裕はなかった。


 途中でダニーが食べに来てくれた。昨日振ってしまったので少し気まずかったし、彼も傷付いているはずだが何事もなかったかのように明るく振る舞ってくれたのが嬉しかった。


「昨日バッカスさんがミーナがいないとか言うから、何かあったのかと俺は焦ったんだぜ?」

「ごめんなさい。あの後色々あって」

「まあ、無事ならよかったよ」


 ダニーは苦情を言いながらも、私を心配してくれている。やはり彼は優しい人だ。


「……あいつとちゃんと話せたのかよ?」


 あいつというのはカールのことだろう。私は力なく横に顔を振った。


「彼の婚約者の女性と話したの。彼女からからもう会わないでくれって言われた……でも、そりゃそうよね。私が彼女の立場なら嫌だもの」

「チッ、本物の婚約者だったのかよ」

「……だからカールには伝えない。きっぱり諦めて、私は仕事に生きるわ」


 私はハハハ、とあえて冗談っぽくそう話して笑った。そんな私をダニーは苦し気な顔で見つめていた。


「婚約者なんて関係ねえ!ミーナが自分の気持ちを伝えることの何がいけない?それを聞いてどうするかはあいつ次第さ」

「ありがとう。でも……」

「でもじゃねぇ。うだうだ考えんな。相手がいる人に気持ち伝えちゃいけない法律でもあんのかよ?ないだろ。あいつが婚約者を選ぶって言うなら、ミーナが振られて終わり。ただそれだけだ」


 ――確かにそうだ。


「お前が幸せじゃねぇと……俺も諦めらんねぇじゃねぇか!ふざけんなよ!」

「ダニー……」

「しっかり気持ち伝えて来いよ。逃げんな。俺だって逃げなかっただろ?」

「うん、うん……そうだね。ありがと」


 私はダニーの優しさに胸がいっぱいになる。彼はムッと不機嫌な表情で「なんで振られた俺が励まさなきゃいけねぇんだ」とブツブツ文句を言っていた。


「本当にありがとう」


 私が笑うと、ダニーも嬉しそうに微笑み返してくれた。


「おう、ミーナにはやっぱ笑顔が似合うよ。ずっと笑っててくれ」


 じゃあ、仕事あるから帰るわと戻っていった後ろ姿はなんだか知らない男の人みたいに頼もしかった。


 ああ、私は良い幼馴染をもったなと心の中で何度も何度も感謝した。


 そして、家に帰るとジークフリート王子から沢山のプレゼントが届けられて驚いた。彼の使用人が直々に家に来たのだ。


 高級な服に、アクセサリー……上質な紅茶に王都で流行りのお菓子。そして大きく美しい薔薇の花束。


「す、すげえな」

「お金持ちってぶっ飛んでるわよね」


 お父さんとお母さんはめちゃくちゃ引いていた。ちなみに庶民の暮らしに慣れた私もしっかり引いていた。


 これは貴族あるあるだ。私が王女の時も沢山の男性からプレゼント攻撃をされた。女性が欲しいものではなく……より高級なもの、より珍しいものを贈るのが『愛の証』なのだ。もちろん、きちんと手紙も添えてあった。



 愛するミーナへ


 朝は驚かせてすまなかった。私の正体を言うと君が離れていってしまうのではと不安だったから。話す勇気のなかった私を許してほしい。


 本当は四六時中君と一緒にいたいが、仕事があって逢いにいけない。大好きなミーナに似合いそうなものを贈ります。


 君だけを愛している。君は私の全てだ。


 ジークフリート・アシュベリー



 ああ、これはすごい。確かにキャロライン時代にもジョセフ王子から何度もこのような恋文を貰っていた。あまりの愛の羅列に毎回私は照れていたことを思い出した。


 ジークフリートは良くも悪くも変わっていないのだ。彼は……見た目こそ違うがジョセフ王子そのまま。でも私は今世でかなり違う人生を歩んでいる。


 今の私はこんなプレゼントは必要ないし、嬉しくもない。気障な愛の言葉も、とろけるような甘い台詞もいらない。


 でもジークフリートのことは嫌いになれない。だって前世で唯一の婚約者だった人だもの。とても話しやすいし、良い人だと思う。王族としてのカリスマ性もあるし、間違いなく素敵な人だということに変わりはない。


 ――好きか嫌いかと言えば好き。それはキャロラインがジョセフ王子と婚約した時の気持ちと同じだ。


 だけどどんな高価な贈り物より、カールがくれた露店の髪飾りの方が何百倍も嬉しい。きっとそれが、今の私の心を表している。


 私は今度ジークフリートに会った時に、プレゼントを返そうときちんと纏めて部屋の隅に保管しておく。こんな高価なもの、平民の家に置いておくのも怖いけれど金庫などないので仕方がない。


 寝ようとした時、窓の隙間から手紙が差し込まれていることに気がついた。こんなところに誰が?いつの間に?不思議に思いながら、手紙を開く。



 ミーナへ


 一度きちんと会って話がしたい

 明日の夜、九時にこの店に来てほしい

 俺と会うことはみんなに秘密にしてくれ

 二人きりで会おう


 カール


 その手紙とは別に、店の地図が書かれた紙が入っていた。まさかカールから手紙が来るなんて。彼はおそらくシュバイク王国へ戻るのだろう。帰る前に、彼も私と話したいと思ってくれたのだろうか?


 私は酷いことを言ったのに、こんな手紙をくれるなんて。嬉しい。秘密……きっと婚約者には言わずに逢いに来るつもりなのだろう。


 アレクシア様、ごめんなさい。でもこれで本当に終わりにするので許して欲しい。二度と逢うことはないだろうから。


 私は手紙を握りしめたまま、カールを想い眠りについた。

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