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絶世の美女から平凡な少女に生まれ変わって幸せですが、元護衛騎士が幸せではなさそうなのでどうにかしたい  作者: 大森 樹


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21 再会

 家に着くと、両親が「無事で良かった」と抱きついてきた。引きこもっていたのに、仕事から帰ったら急にいなくなったため心配していたらしい。でもメモを見て……ダニーと一緒にいると思っていたのに、あまりに帰ってこないから彼に聞きに行ったらだいぶ前に帰ったと言われ途方に暮れていたらしい。


 私はごめんなさい、と素直に謝った。お父さんにしっかり怒られたが、許してくれた。


「……で、ミーナその人は誰だい?」

「またこの子は……綺麗な人を拾ってきたの?」


 二人は呆れたように私を見た。


「拾ってないから!人聞きが悪いわ!この人は……えーっと、町中で私を助けてくれたの。その時に手に怪我をさせちゃって。お礼と手当のために来てもらったのよ」

「そうなの?すみません、娘を助けていただいてありがとうございました」

「いえ、そんな大したことはしていません。怪我もかすり傷なんです」

「傷の大小は関係ないわ。すぐに手当しますね」


 お母さんがジークフリートに座るように促し、救急箱を取りに行った。


「すまねぇな、うちのやんちゃ娘が迷惑かけて。俺はこの子の父親のバッカスだ。あなたの名前は?」

「私はジークフリートと申します。他国から来ました」

「そうか。よろしくな」

「よろしくお願いします」


 彼は愛想良く、両親とも打ち解けていた。そして、明日になれば知り合いが迎えにくるのだが今日泊まるところは決まっていない。どこかこの近くにホテルはないかと切り出した。


 そうなれば、うちの両親はこう言うに決まっている。


「ミーナが世話になったんだ。うちで良ければ泊まっていってくれ。部屋は余ってるから」

「え?よろしいんですか?」

「もちろん!な?ケイト」

「ええ」

「では、お世話になります」


 ジークフリートはニッコリと微笑んだ。知り合いって……もしかしてあの追いかけていた人のことだろうか?貴族のこの人が、こんなとこに泊まっていていいのかと思うが……さっき散々迷惑をかけたので私は何も言えない。この人がそれでいいのなら、良いわ。


 ――悪い人の感じは一切しないし。


 そのあと、私達はみんなでご飯を食べた。私が作った料理を振る舞うとジークフリートは「美味しい!こんな美味しいの食べたことないよ」と、とても喜んでくれた。熱々の食べ物に驚いていた様子だったのでから……やはりこの人は、高位貴族なのだとわかった。

 

「あの……本当にさっきはごめんなさい」

「え?何を」

「あんな変なこと頼んでしまって。なんとお詫びしたらいいか」

「いいよ。役得だったし」

「……え?」

「ううん、なんでもないよ」


 私はカールが使っていた客間とは別の部屋に案内した。シャワーはここ、着替えはこれと説明していく。


「何から何までありがとう」

「いいえ。あなたにはこのベッドは硬くて寝にくいかもしれないけど、我慢してね」

「ふふ、心配しすぎだよ」

「だってあなた、きっとお坊ちゃんでしょう?」

「……どうかな?ただの一人の男だよ」


 少し目を伏せて、哀しそうに呟いた。この人にも……なにか話せない色々な事情があるのだろう。


「じゃあ、ゆっくりしてね」

「あ……あの、もう少し話せないかな?」

「え?」

「なんだか眠れない気がして」


 じゃあ、と隣にあるうちの食堂を案内することにした。


「へえ、可愛い店だね」

「いいでしょう?お父さんとお母さんの想いが詰まったお店なの」

「ご両親も良い方だね」

「へへ、嬉しいわ」


 ジークフリートをキッチンの前にある椅子に座らせて、紅茶を丁寧に淹れていく。私の好きなシャリマティーだ。


「どうぞ」

「……ありがとう」


 ジークフリートは、美しい所作で紅茶をこくりと飲んだ。


「ああ、とても美味しいね」

「良かったわ」


 私が微笑むと、彼も嬉しそうに微笑んだ。


「私は、ルニアス王国へ来て正解だったよ。だって、こんな素敵な君に出逢えた」


 そんな恥ずかしい台詞を言われて、私はキョトンとした。


「ふふ、まだ恋人ごっこをしてくれているの?」


 ケラケラと笑いながら、私は冗談っぽく答えた。しかし、ジークフリートは真剣な顔をしていた。


「こんな夜に男と二人きりになるなんて、危ないよ?君は昔から危なっかしい」

「……え?」


 昔からとはどういうことか?


「やっと見つけたよ。久しぶりだね、キャロライン」


 彼が知るはずのない昔の名前を呼ばれて、私は驚いてガチャンと音を立ててティーカップを置いてしまった。


「ど、どうして……その名前を」

「私が誰かわからない?」


 彼は少し哀しそうな顔で、私をじっと覗き込んだ。つまり、彼も前世の記憶がある生まれ変わりということだ。


 ――その時、美しい碧眼がキラリと光った。


 私は、この綺麗な瞳に見つめられたことがある。なぜ今まで気が付かなかったのだろう。


「……ジョセフ王子」


 そう言った途端に、私はギュッと強く抱きしめられた。


「キャロライン、嬉しい。そうだよ。私はジョセフだ」

「王子……生まれ変わられていたのですね。私のせいであなたはお亡くなりになられた。ずっと、ずっと謝りたかったのです」


 私はポロポロと涙を流した。急にキャロラインの時の気持ちが溢れ出てきてしまったのだ。


「君のせいじゃない。君のせいじゃないよ」

「いえ、私のせいです」

「私こそキャロラインに謝りたかったんだ。君を幸せにすると約束していたのに、死んでしまった」


 彼は私の両頬を優しく手で包み、じっと見つめた。


「すまなかった。私が生きていれば、君を護れたのに。君を死なせたりしなかったのに」

「いいえ、いいえ。貴方に一切の非はございません」

「君に逢いたかった。私が生まれ変わっているなら、君もそうかもしれないとずっと……ずっと探していたんだ」


 そうだったのか。私は生まれ変わったのは、自分だけだと思ってしまっていた。


「生まれ変わる時に神様に言われたんだ。悪いことをせずに死んだ人は、同じような立場で生まれ変わるって」

「ええ。私もそう言われたわ」

「だから、君も王族か高位貴族だろうと思って……同じ歳の女性を全て調べたが、キャロラインはいなかった。我が国にはいないのかもしれないと、ルニアス王国へ来てみたんだよ」


 え?私を探しに来ていたということ?


「そうだったんですね」

「うん。逢えて本当にラッキーだった。ねえ、でもどうして?キャロラインは平民になる意味がわからないよ」

「私は自分で望んだのです。二回目の人生は王族ではない、平凡な容姿の平凡な生き方をさせてくださいって」

「え?」

「私の美しさのせいで、争いが起こりました。こんなことはもう二度とごめんです。それに、城を出て自由に生きてみたかった」

「……そうだったのか。納得したよ」


 しかし、彼はなぜすぐに私だとわかったのだろうか?以前とは見た目も立場も違うのに。


「でもどうして、ミーナが私だとわかったのですか?」

「まず君のブルーパープルの瞳に興味を持った。かなり珍しいからね」


 ああ、これはカールもそう言っていた。


「あとはこのシャリマティー。君が愛していた紅茶だね。君と逢う時はいつもこれだったね。懐かしいよ」

「覚えていてくださったのですね」

「当たり前だよ。いつも君が自ら淹れてくれて嬉しかったから。でも、決定的だったのは君の護衛騎士のライナスを見た時だ。いや、今はカールと呼んだ方がいいのかな?」


 そうか……ジョセフ王子とライナスは何度か顔を合わせているはずだ。私と過ごす時は必ず護衛として控えていたから。


「実はね、以前カールの周りを調べたことがあったんだ。もし君が生まれ変わっているのであれば、接触をするのではないかと思っていたから。でも、シュバイク王国にも君は居なかった」


 カールや私のことをそんなに詳しく調べていたなんて。


「まさかライナスが、カールと名乗って父の臣下になっているのは驚きだった。最初は同一人物とは知らなかったし。しかし物心がついてキャロラインやメラビア王国がどうなったのかを調べて理解したよ。彼は復讐のために生きたんだなと」


 彼は少し困ったような顔をした。それはそうよね。逢いたかった絶世の美女だった元婚約者が、こんな全く別の姿で出てきたら困るというものだ。彼はキャロラインに会う度に『美しい』とか『綺麗だ』と褒め称えてくれていた。そういう意味では、当時の私の容姿を一番好きだった人なのかもしれない。


 だって、一目惚れして求婚までしてくれたのだから。


「あの!ガッカリさせてごめんなさい」

「え?ガッカリ?」

「貴方は私の見た目が好きだったのでしょう?なのに、今はこのように普通の容姿の田舎娘だから驚きましたわよね?」


 私は笑いながら、わざと明るくそう言った。


「でも私は今のミーナの姿、とても気に入っています。もう私達は以前とは別人なのですから、お互い違う人生を歩みましょう。お話できて嬉しかったです。探していただいてありがとうございました」


 そう言った私を、彼は辛そうな顔で見つめていた。


「嫌だよ。どうしてそんなことを言うの?」

「え?だって……」

「私は君が好きだよ。キャロラインだろうと。ミーナであろうと関係ない」


 いやいや、関係大ありだ。


「キャロラインに私の気持ちは……伝わってなかったんだね。いや、結婚してから知ってもらおうと思っていた私が悪いな。あの時は、忙しくてなかなか逢いに行けなかったから」

「え……キャロラインの顔が好きだったからではないのですか?お父様からあなたの一目惚れだったとお聞きしていたのですけれど」


 すると、彼は「そんな誤解が……」と片手で顔を隠して天を仰いだ。


「違うよ!いや、違うわけではないんだけど。もちろん君の容姿は美しかった。それは紛れもない事実だけど、私はそれでキャロラインを好きになったわけではないよ」

「そうなのですか?」

「そうだよ!まさか……まさか、そんな誤解をされていたなんてショックだ」


 誤解?でも、ジョセフ王子に求婚される前に会ったのは他国での舞踏会の一度きりだ。しかもその時には挨拶以外話していないし、踊ってもいない。どこで好きになるというのか。


「私達が初めて出逢った舞踏会。君の美しさは評判通りだったし、とても目を惹いたよ。でも、正直に言えば私はその……美しい女性は見慣れていたし『キャロライン王女は噂通りだな』くらいにしか思わなかった」

「はぁ……そうですか」

「でも、たまたま見かけたんだ。体調を崩した給仕係を助けている君を」


 そんなことあっただろうか?覚えていない。


「私は遠くでガシャンという大きな音が聞こえて、驚いて音のする方に向かった。すると沢山の人の中でぽっかりと空間が空いていた。そこにしゃがみ込んだ給仕係がいて、周りには落とした飲み物やグラスが散乱していて床がぐちゃぐちゃになっていた。その女性は震えながら『ごめんなさい』と謝っていたが、誰も助けようとしなかった。逆にみんなは『汚い』や『給仕係のくせにドリンクを運ぶことすらできないのか』と冷やかな瞳で、陰口を言っていた」


 言われてみれば、そんなことがあったかもしれない。


「誰も助けない様子に嫌気がさし、私が助けるために駆け寄ろうとした。その時私より早くキャロラインは迷いなく近付き、声を掛けた。ビシャビシャの汚れた床に躊躇なく最高級のドレスをつけて『体調が悪いのね。大丈夫かしら?』と心配そうに覗き込んだんだ。給仕係は『近付かないでください。お召し物が……汚れてしまいますから』と言うと『ふふ、お父様に新しいドレスをおねだりする理由ができたわ』と微笑んで『ライナス!ここにいる皆さんはお忙しくて()()()()()()ようなので、この方を救護室まで連れて行ってちょうだい』と叫んでいた」


 うわぁ……この場面を見られていたのか。しっかり周囲に嫌味を言ってるあたり自分らしいと反省する。


「メラビア王国の王女の君が、給仕係を自ら助けたものだから周りは騒然となっていた。その中でも貴方は『皆様、私は失礼致します。どうぞこのままお楽しみになってくださいませ』と満面の笑みで見事な挨拶(カーテシー)をして去って行った」


 うわぁ……完全に思い出した。確かにそうだった。誰も助けないどころか、体調の悪い女性をさらに追い詰める貴族達に嫌気がさしたのだ。他国の王女の私が、自ら動くのは褒められたことではないが許せなかった。


『王女、目立つことはおやめください。自ら動かれる前に私を呼んでいただきたい』

『ごめんなさい、だって気がついたらもう声をかけていたのよ』

『はあ……あなたらしいですが。護衛としては困りますから』


 そういえばあの時、ライナスにもしっかりお小言を言われたわね。


「なんて素敵な女性なのかと見惚れたよ。優しくて、気高くて……私の伴侶は貴方しかいないと思ったんだ」

「え?」

「あなた程心の美しい人に出逢ったことはない。キャロラインとなら、生涯を共にしたいと思った。私が惚れたのは見た目ではないんだ。こんな気持ちは初めてで……すぐに父上に気持ちを伝えた」


 ――う、美しい?心が?


「いつまでも婚約者を決めない私が、急にキャロラインを妻にしたいと望んだから父上は驚いていた。でも熱心な私の様子に、メラビア王との面会の機会を与えてくれた。そこで、王に『キャロライン王女に心から惚れた。命をかけて大事にするから、私の妻にいただけないですか』と伝えたんだ」


 私はそんなに熱心に求婚してくれていたことを知らなかったので、なんとなく恥ずかしくなった。


「王からお許しが出て、君に再会できると決まった時は……眠れない程嬉しかった」


 彼はその時を思い出したのか、幸せそうに微笑んだ。


「あ、あなたは会う度に……その『美しい』と言ってくださっていたので私の容姿を気に入ってくださったのだなぁと思っておりました」

「そうか。それで誤解されたんだね。確かに私は君にその言葉を繰り返していた。こんなことを言うのは格好悪くて恥ずかしいけれど……君の前では緊張して、上手く話せなかったんだ。必死で平気な振りをしていたけれどね」


 少し目線を逸らして、真っ赤に頬を染めた。


「……生まれて初めて本気で好きになったから」


 その言葉を聞いて、私は胸がギュッと締め付けられた。キャロラインの時に、この言葉を聞いていたら私達の関係はどうなっていたのだろうか。

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