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絶世の美女から平凡な少女に生まれ変わって幸せですが、元護衛騎士が幸せではなさそうなのでどうにかしたい  作者: 大森 樹


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18 ライバル②

 この町の鍛冶屋は一つしかない。探さなくてもすぐに見つかった。


「すみません」

「いらっしゃい」


 出迎えてくれたのは、ダニーに顔が似てるがもう少しダンディでワイルドな男だった。恐らく父親だろう。


「剣の研磨を頼みたい。だいぶ傷んでいてな」

「わかりました。あなたは、バッカスのとこに居候してるっていう……」

「ええ。カールと言います。この剣はダニーに頼みたい」


 男はじっと俺を見つめた。


「親が言うのもバカみたいだが、愚息は筋がいい。だが、あなたが差してるような最高級の剣を扱うにはまだ早い」

「抜いてなくてもわかるのか?」

「ああ。俺は若い頃は、国王軍の剣の手入れや作成をしていたんだ。それでも、そんな良い剣は見たことねぇよ」

「いいんです。彼にやって欲しい。心配なら、最終確認はあなたに任せますよ」


 ふぅ、とため息をつき「おい、ダニー!お前ご指名の客だ」と奥に向かって大声で呼んだ。


 すると、中から彼がムスッと不機嫌に出てきた。作業中だったようで頬や手が汚れている。


「うわ、本当に来たのかよ」


 悪態をついた彼に、父親はバシッと頭を叩いた。


「それがお客様への態度か!ふざけんな」

「ああ?いいんだよ、こいつは」

「良くねえ。金もらって依頼受けるんだ。ちゃんとやれ」


 ダニーは口をグッと引き締めて、態度を正した。


「この剣の手入れをお願いしたい。しばらく放置してしまっていてな」

「わかりました。抜いてよろしいですか?」

「ああ。タメ口でいいよ。今更気持ち悪い」

「じゃあ、遠慮なくそうする。抜くぞ」


 すっと剣を抜くと美しい刀剣が現れた。これは王女(キャロライン)の護衛騎士に任命された時に、父が作ってくれた特注の剣だ。


「わぁ……凄い。見惚れちまうな。剣自体もいいけど装飾まで凝ってる」


 ダニーはキラキラと目を輝かせて剣を眺めている。この仕事が本当に好きなんだろう。


「でもここと、ここが傷んでる」

「ああ。だいぶ使ったからな」

「特注の剣なのに、本当に俺がしてもいいのか?」

「ああ。やりたいだろ?」

「ああ!やりたい。こんな機会ねぇもん!」


 こいつのこういう素直なところは好感がもてる。彼が人々に好かれる理由がわかって……チクリと胸が痛んだ。


「作業見てていいか?」

「いいけど時間かかるぞ」

「かまわない」


 一緒に奥の部屋に行き、作業が見えるように椅子に腰掛けた。ダニーは、しっかりと剣の確認をして磨き始めた。話している時はまだ少年だと思っていたが、彼の仕事をしている姿は『立派な男』に見えた。


 しばらくして、俺は重い口を開いた。


「君はいつからミーナを好きなんだ?」


 その質問をすると動きがピタッと止まる。顔だけ俺の方に向け、眉を顰めた。


「集中してんのに、邪魔すんなよ」

「じゃあ、ひと休憩だ」

「はぁ、どうせそっちがメインできたんだろ」


 ダニーはタオルで汗と汚れを拭いた後、手を止めて俺に向き合った。


「物心ついた時からずっとだ」

「そうか」

「俺、昨日ミーナに告白した」

「へえ……結果は?」

「一人の男として考えて欲しいって言った。お前なんかに彼女を奪われたくない。あんたは?」

「伝えてあるさ。俺の全てを君に捧げたいってな」


 俺の言葉に、ダニーはわかりやすく嫌な顔をした。


「ケッ、気障なオッサンだぜ」

「そうか?カクテルで想いを伝えようとする君も、なかなかロマンチストだと思うがな」


 揶揄うと彼は狼狽えて、真っ赤になった。なんだその顔……面白いな。


「な、な、なんで飲んだ酒の種類まで知ってんだよ!」

「ミーナに聞いた。あんな遠回しなことしても無駄だぞ。彼女はあの手のことに鈍い」

「そんなことは知ってる!いいんだよ。どうせあれは自己満足だ!!」


 恥ずかしさを怒りで誤魔化しているようだ。やはりガキだな。


「でも、ミーナは恋とか愛とかまだわからないって言ってた!そして俺のことも考えてくれるって」

「なら、同じスタートラインってことだな。正々堂々よろしく。負けないけどな」


 俺がニッコリ笑うと、ダニーは真面目な顔になった。


「あんた貴族出身だろ?なんで平民のミーナなんだ?命の恩人とはいえ、そんなことで急に好きになるか?年齢だって身分だって差があるのに」

「そんな差は取るに足らないことさ。君だって知ってるだろ?恋はいつの間にか堕ちるものだと」

「お前……一回も結婚してねぇの?実は子どもがいるとかさ」


 ダニーの質問に驚いた。そうか、俺の年齢なら確かにそう思われてもおかしくない。


「そんなこと言われるとはな。してないし、子どももいないさ。ちなみに恋人もいない」

「お前……顔が良くて、金があるのに女にもてないなんてよっぽど性格が悪いんだな」

「はは、そんなに褒められると照れる」

「褒めてねぇだろ!」

「まあ正直に言えば、もててはいたさ。ただ、お仕えしていた主君が全てだったからからな。仕事が一番で結婚なんて考えたことはない」


 愛した人が主君(キャロライン)だったからな。


「じゃあ、その大事な主君のとこへさっさと戻れよ」

「……亡くなったよ」


 俺は王女のことを思い出して、遠い目をした。もしあの時生きていらしても、俺と結ばれることはなかった。だから、どちらにせよ結婚はしていないだろうな。


「悪い。知らなかったとはいえ、酷いこと言った」

「気にするな、昔の話だ」


 そこで、一旦話は終わりダニーは黙々と作業を再開した。そしてしばらくして、研磨が終わった。


 手に取って確認すると剣は輝きを取り戻し、美しく研ぎ澄まされていた。


「親父に確認してもらってくる。時間取って悪いけど、足りなかったら追加でしてもらうから」

「その必要はない。十分な出来だ」


 ダニーは嬉しそうに笑ったが、すぐにきゅっと口を引き締めて照れを隠し「でも、決まりだから!」と言って父親を呼んだ。


「……上出来だな」

「確認、ありがとうございます」

「カールさん、裏の庭で試し斬りしてくれ。それで問題なければ完成だ」

「はい」


 庭には何個も甲冑をつけた人形が置いてある。俺は剣を構え、目を閉じて集中した。ふう……最近訓練してなかったからきっと体が鈍ってる。何があっても彼女を護れるように、再度鍛え直そうと心に誓い一気に剣を抜いた。


 シュパッ


 その瞬間、ドサドサッ……と人形が地面に落ちる重たい音がした。


「いいな。素晴らしい切れ味だ」


 ダニーの腕前はなかなかの物らしい。本当は彼と話したくて来ただけだが、思わぬ収穫だ。


 試し斬りを見ていたダニーとその父親は、信じられないものを見たというように呆然と俺を見つめていた。


「あんた……一体……」

「カール、お前何者なんだよ」


 ああ、そうか。俺はやり過ぎたのだと気が付いた。ここに置いてある人形を一気に全て斬ってしまったのだ。


「ただの騎士さ。()ね」


 俺はそう言って、カチンと剣を納めた。それ以上話すつもりはない。


「ありがとう、満足のいく出来だ。支払いをさせてくれ」

「わ、わかった」


 室内に戻って支払いをするが、良心的すぎる値段に心配になる。


「無理を言ってやってもらったんだ。もっと取ればいい。お前にはその価値がある」

「田舎の鍛冶屋は良心的なんだよ」

「じゃあ、釣りはいらない。これは俺が斬り倒した人形代だ」

「うわぁ……金持ちはこれだから嫌だね」


 そう言ったダニーは父親にボカっと叩かれた。


「お前の腕を買ってくれてんだろ!なんで素直に受け取れねぇんだ」

「痛えな。この男に素直になんかなれるかよ」

「いいんですよ。俺達はライバルですから。彼の気持ちもわかります」

「こいつとあなたがライバル?」


 父親は怪訝な顔で首を傾げている。


「ちょっ!親父にいらないこと言うんじゃねぇよ!」


 俺がニッと意地悪く笑うと、ダニーは目をつり上げて怒っている。


 その時いきなり扉が開いて「ダニー!助けてよ。荷物重過ぎて持って帰れないの」と可愛らしい女の子が、甘えた声で店に入って来た。


「あら、お客様?ご、ごめんなさい」


 その子は俺を見てハッと口をおさえて、頭を下げた。


「いや。もう用事は終わったところだ」

「おいおい……ライラ。お前、俺を便利屋と勘違いしてねぇか?ここは鍛冶屋だぜ」

「だってー、困った時のダニーじゃない?頼りになる!よ、男前っ!」


 その子が戯けたようにそう言ったのを聞いて、ダニーはため息をついた。


「しゃあねぇな。家まで送ってやるよ」

「やったあ」

「そーいや、この前作ったナイフの切れ味はどうだ?」

「お母さんが最高って喜んでたわ」

「よっし!さすが俺」


 彼女は頬を染めて、ダニーをじっと見つめている。これは……明らかに。なんでこいつは彼女の好意に気が付かないんだろう。


「じゃあ、俺はこれで。ありがとう」

「ああ」


 俺は彼の耳元で「可愛らしいお嬢さんだ。隅に置けないなぁ、色男。安心してミーナは俺に任せな」と囁いて、ウィンクをした。ダニーは頬を染めてわなわなと震えている。


「こ、これはそんなんじゃねぇ!」


 その声は無視して、ケラケラと笑いながら片手をあげて店を出た。そして早くミーナに逢いたくて、足早に食堂に戻った。


「戻りました。バッカスさん、今日は本当にすみませんでした」


 食堂に戻ると、彼からミーナと一緒に食事の配達をお願いされた。そんなことまでしているのかと感心したが、何やら特別な客らしい。


 どんな理由であれミーナと二人で出かけられるのだから、不満などあるはずがない。


 しかし、商家だという屋敷から出てきたのはフレデリックという中性的な見た目のいけ好かない男だった。こいつはミーナが好きなようで、積極的にアプローチをしている。しかも、ベタベタと触りやがって……許せない。


 俺の苛々は募っていく。彼女は昔からどうも恋愛に疎い。フレデリックの愛の言葉に、嫌な顔をしながらも強い拒否をしないためぐいぐい来られている。


 クソっ……彼女は姿が変わってももてる。しかし、それは当たり前だろう。ミーナほど優しく温かい女はいないのだから。みんな彼女を知れば好きなるに決まっている。


 そんな嫉妬のどろどろした気持ちのまま、スタスタと歩いていると聞き覚えのある声がした。


「カール様!やっと見つけましたわ!お逢いしたかった」


 いきなり胸に飛び込まれ、キスをされた。しまった……考え事をしていて反応が遅れた。


 ――冗談じゃない。ミーナがいる前でなんてことをしてくれるんだ!勝手に口を吸うなど気持ちが悪い。苛ついて強引に彼女を引き剥がす。


 その女性はアレクシア・レッドフォード。シュバイク王国の公爵家の我儘な末娘だ。もう二度と会うことはないと思っていたこの人が、なぜこんなところに。完全に望まぬ再会だった。

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