黒猫ツバキと最強の武器
登場キャラ紹介
コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪の美人さん。
ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。
※「矛盾」とは……2つの物事がくい違っていて、つじつまが合わないこと。筋道が通らないこと。
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「さぁさぁ、矛と盾を買わないか? お集まりの皆さん、この矛を良くご覧になってください。なんと如何なる盾でも貫ける、鋭い矛なんです。そして、この盾! なんと如何なる矛でも貫けない、堅固な盾なんです! まさに、最強の矛と盾。今なら、お値段はたったの……」
「あ~。ちょっと質問しても構わないか? 商人」
「おや、これは魔女様。何でしょう?」
「その矛は、どんな盾でも貫けるんだな?」
「ハイ。その通りです。今ならお値段は、たったの……」
「価格は、どうでも良い。それで、その盾は、どんな矛の攻撃でも防げると?」
「ハイ。その通りです。今ならお値段は、たったの……」
「いや、だから価格に興味は無い。それなら、その最強の矛で最強の盾を突いたら、どうなるんだ?」
「ま、魔女様……」
「ふん。答えられまい? お前の言っていることは、矛盾そのものだからな」
「魔女様は、なんと恐ろしいことを仰るのですか!?」
「え?」
「宜しいですか。この矛は《最強・矛・カンパニー》が製造しています」
「あ、うん」
「もし矛が盾を貫けなかったら、《最強・矛・カンパニー》の信用はガタ落ち。会社の業績は悪化し、多くの社員がリストラされてしまうでしょう」
「…………」
「そして、この盾は《最強・盾・カンパニー》が製造しています。もし盾が矛に貫かれてしまったら……」
「分かった。質問は撤回する」
「ありがとうございます。おかげさまで、2つの会社の社員たちの将来は守られました」
♢
「ご主人様、お帰りにゃさい。あれ? それはニャニ?」
「ただいま、ツバキ。ああ……これは今、購入してきたんだ。なんでも〝最強の矛〟と〝最強の盾〟なんだとか」
「無駄づかいはいけにゃいと、アタシは思うニャン」
「ただの浪費じゃないぞ。矛と盾を買ったのには、ちゃんとした理由があるんだ」
「まさか、ご主人様……。〝どんにゃ盾でも貫ける矛〟で〝どんにゃ矛でも防げる盾〟を突いたらどうにゃるのかを実験する! にゃんて言わないよね?」
「面倒くさいから、しない。リストラされた社員に恨まれたくはないし……」
「にゅ?」
「それより、この最強の矛と最強の盾を魔法で合成してみようと思うんだ。矛盾を1つにしたら何が出来るのか、気になってしまってな」
「面白そうニャン。最強にょ矛と最強にょ盾を掛け合わせるんにゃから、きっと凄い武器になるに違いないニャ」
「矛盾まみれの武器になる可能性もあるが……。でも、ひょっとしたら〝史上最強の武器〟が誕生するかも」
「ワクワクするニャン。ご主人様、早くするニャ」
「よし、やるぞ! 《合成魔法》!」
シパパパパ! ボワ~ン。
コンデッサが《合成魔法》を矛と盾へ浴びせると、辺り一面は白い煙に包まれ……。
煙が薄れてくると、そこには1人の男が立っていた。背が高く、ハンサムだ。
「お前、誰だ?」
「さっきまであった、矛と盾が無くなってるニャン。それにゃら、この男にょ人が……」
『正解だ、黒猫さん。オレこそが〝最強の矛〟と〝最強の盾〟が合体して生まれた〝最強の武器〟! その名も《ムジュン・カイショー・シチャッタヨ》だ』
「変な名前にゃ」
「意味が分からん。なんで、人間になったんだ?」
『オレは〝如何なる盾でも貫ける矛〟と〝如何なる矛でも防げる盾〟――2つの機能を併せ持っているのさ。オレの存在によって矛盾は1つとなり、問題は解決した』
「もっと分かりやすく、説明してくれ」
『オレには〝どんな女性の心の盾をも突き破って、絶対に惚れさせる〟矛の能力と、〝どんな女性からの矛の突きをも防ぎきり、絶対に恋に落ちない〟盾の能力があるんだ。〝最強の(恋の)矛〟と〝最強の(恋の)盾〟を兼備している〝史上最強の(モテ)武器〟。それが、オレ』
「……ふ~ん」
「……ニャム」
『それでは、オレは行く。〝史上最強の伝説をつくる〟という使命を果たさなくてはならんのでな』
「いってらっしゃいニャ」
「もう帰ってこなくて良いぞ」
♢
そしてムジュン・カイショー・シチャッタヨは、その最強の矛盾スキルを駆使し、数多の女性を惚れさせ、しかし彼自身が恋に落ちることは無かった。まさに〝無敵の男〟。
だが、そんな彼の前に1人の女性が現れる。
彼女の名前は《パラドックス・ナンテ・キニシナーイ》。〝どんな男性の心の盾をも突き破って、絶対に惚れさせる〟矛の能力と、〝どんな男性からの矛の突きをも防ぎきり、絶対に恋に落ちない〟盾の能力を持った、絶世の美女であった。
ムジュン・カイショー・シチャッタヨとパラドックス・ナンテ・キニシナーイ。史上最強の武器と史上最強の武器。
果たして、2人の対決の行方は!?
♢
「もう、飽きた」
「それにしても、にゃんでご主人様はシチャッタヨさんにホレにゃかったニョ?」
「そういえば、全然アイツに恋心とか抱かなかった……〝トンチキ野郎め。カマボコ板にでもなっていろ〟としか思わなかった……」
「ストーリーが矛盾してるニャ」
ツバキ「ムジュン・カイショー・シチャッタヨさんとパラドックス・ナンテ・キニシナーイさんは結婚して、仲良く暮らしているそうニャ」
コンデッサ「矛盾に満ちた結末だ……」