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第9話 『勇者』って不遇らしい

 『ヒール』!


 眠っていた俺はそんな声に起こされた。


「ん、リアンも白魔法使えたんだな」


「はい、私は『魔道士』ですので」


「なるほどな。あ、じゃあさっきは――」


「あーー!魔力枯渇してたんです。はしたないことしてすいません!」


 めちゃくちゃ早口だ。

 どうやら向こうも俺と同じ状態で、俺の反応を見て暴走してしまったらしい。


「いや、アレのおかげて結界装置も使えたし助かった。嫌だったのなら俺も忘れるよ」


「――嫌じゃなかったですけど」


「えっ? なに?」


 声が小さくて聞き取れなかった。


「な、な、なんでもないです!」


「ん? まぁいいや。俺も『ヒール』! 手伝うよ」


 リアンが腕の骨折に集中しているようなので脚の方に『ヒール』を掛ける。





「もう大丈夫です。治りました」


 正直骨折は外目にはわからないから自己申告を信じるしかない。


「そうか。念のため今日はこのままここで夜を明かそう。結界装置があれば問題ないはずだから」


「はい。あ、まだちゃんとお礼言ってませんでしたね。助けて頂いてありがとうございました」


「どういたしまして。と言っても、今回のことは俺が引き起こしたようなものだし、ごめんね」


 ごめんは軽すぎたかな? 死にかける程だったし土下座するくらいするべきだよな。


「い、いえ。私の不注意ですので! 頭を上げてください!」


 改めて頭を下げると、リアンが慌てる。


「いや、あんな危ない目に合わせちゃったんだ。擦り付けるくらいしないと」


「それこそ私がこんな危ない森に来なければ……」


「「ぷっ」」


「ふふっ」「ははっ」


「いや、でも本当にごめん。これからはちゃんと守るから」


「ふぇっ!?」


「こうして出会った以上、一人で置いていったりしないよ」


「いや、でも、私はハーフエルフですよ?!」


「俺は掟破りなんて思ってないんだし、置いていく理由にはならないでしょ?」


「本当にいいんですか?」


「うん。その代わりと言っちゃなんだけど、人間族のことを教えてほしいんだ。もっと言えば世界全体のことだね」


「わかりました。私の知ってることでよければ」



 話がまとまった後、火を起こして肉を焼き、食事の準備をする。


「リアンは『勇者』って知ってるか?」


「はい。というか、母が殺されたとき、私を襲おうとしたのが『勇者』でした」


「は? なんだそれ!? あ、いや。ごめん。嫌なこと思い出させちゃったな」


 予想もしてなかった答えに思わず声が大きくなってしまった。

 というか、この世界そんなことばっかりだ。俺の知ってる言葉のイメージがことごとく破壊されていく。


「いえ、そもそもその人は領主の指示で私を襲ったみたいなので」


「領主の指示? 『勇者』は無理矢理襲わされたってこと?」


 っていうか、『勇者』の地位ってそんな低いのか?


(「過去の『勇者』が上位に入ろうとしたことを危険視した王により『勇者』と分かり次第管理下に置くという法が定められています」)


 なんだそりゃ。『勇者』は抵抗しなかったのか?


(「当然そうしようとする者もおりました。しかし、王家というのは戦力も含めた何もかもの頂点なのです。人間族の国に生まれる以上、隠れて爪を研ぐなどということすらできません」)


 だから俺にレベル50まで上げろって話だったのか。



「そうなんですが、むしろハーフエルフの私という自分より下の存在を得ようという感じでした」


「下がいないと自分が使われる側になるんだっけか」


「そうです。そして自分の上の者に逆らうことは許されません。その代わり、自分の系列外からは命令されません」


 系列ってヤ◯ザかよ。まぁ、王っていう共通の頂点がある分違うか。


「なるほど、まともなやつの下につければまだマシってことか」


「ですが、別の者を下に置くために下の者を売るなんてこともよくありますし、上に認められていないとすぐその対象にされます」


「じゃあリアンのお父さんは認められてたってことかな?」


「そうですね。有事の際に動く約束で私達は守られていたと思います」


「そしてその守っていたお父さんがいなくなってリアンが狙われたんだな。リアンは『勇者』が憎いか?」


「いいえ、憎いというなら人間族です。シンさんを憎みたくはないですし」


「……気付いてたのか?」


「治療してくれたとき、『浄化』を使いましたよね?」


「あ、もしかしてあの時声を上げたのは……痛みじゃなかったのか……」


「はい……でもシンさんと話して、シンさんは信じられるって思ったんです」


「そっか……ありがとう。なら、ちゃんと言っておくよ。俺は魔王に異世界から召喚された『勇者』だ。この森がこうなってしまった原因を探ってる」


「えっ? この森って魔族が操っているんじゃ……?」


「やっぱり人間族側には知られてないんだな」




 俺はリアンに動物の習性とモンスター化した現状を伝えた。


「なぜわざわざそんな嘘を……?」


「嘘っていうより、ただ知らない事を都合良く解釈したっていうのが俺の予想だな」


「都合……いいですか?」


「手に負えない『勇者』を始末するには絶好の理由だろ?」


 おそらくそのせいで魔族を襲った『勇者』は死んだ。

 そして、その責任を召喚した元被召喚者の子孫に押し付けることができる。


(「その可能性は高いと思います」)


 ナビも魔王側にいて知らない、か。


「そう……かも」


 とにかくこの世界は先入観というか、思い込みが強い。

 それを何かしらの意思がそうさせているような、そんな気がする。


 そして、それこそが動物たちの暴走の原因にも繋がっている予感もある。


 まずは一番怪しく見える人間族の王。

 そこに近付けるようになんとか動いてみよう。


 まずはレベル上げだけどな。


「だからまずは最低限力で抑え込まれないようにレベルを上げてるとこだったんだ」


「わかりました。私もお手伝いします――あっ、お手伝いって言っても、あの、その」


「いや、ちゃんとわかるから。落ち着いて」


「そ、そちらも必要だったら言ってくださいね!」


「どうした? ヒールでまた魔力枯渇してるのか?」


「違いますよ……もう……シンさんの鈍感……」


「鈍感って言われたってな……今日会ったばかりだろう?」


 そうホイホイ惚れられるのはリョウの特権みたいなもんだ。


「その今日一日にシンさんから掛けられた言葉の一つ一つでどれだけ私が救われたかわかりますか?!」


(「シン様は天然、というもののようですね」)


 ナビまで!?


「ああもう! リアンの気持ちはわかった。けど、俺はまだそれを受け止めてやれるかわからない。だから、少し時間をくれないか?」


「……シンさんのヘタレ」


(「ヘタレですね」)


 俺はこんな真っ直ぐに好意を向けられたことないんだよ!


「ふふっ。冗談です。可能性はあるみたいですし、これからシンさんに付いていって振り向かせてみせます!」


 リアンが信じられないわけじゃないし、可愛いとも思うし、いい子なのは間違いない。

 でも、俺はそんなことしてていいのか?

 いつかは地球に帰りたいとも思ってる。そのときリアンはどうなる?


 やっぱり今感情のままに返事するわけにはいかない。


 でも、ちゃんと心を決めて返事をしよう。


「わかった。改めてこれからよろしくな」


「はいっ!」


 少し焼けすぎた肉を食べ、イチに包まれるように二人でまた手を繋いで眠りに就いた。


お読みいただきありがとうございます。


旅が始まると言ったな。スマンあれは嘘だった。

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