第6話 問題解決の第一歩
翌日、猪のモンスターを一体倒してレベルが6に上がり、『闘気剣』を覚えた。
これどんなスキルなんだ?
(「すみません、情報がありません」)
ってことは『勇者』限定スキルかな?
ナビに聞いたところ、『勇者』が『ナビゲーター』を所有するのも初めてのことらしい。
でも、見たことはあるんじゃないか?
(「はい、ただ、魔王プレベールも受けることがなかったので……」)
ああ、近接戦闘は不利だろうし、自分の利を生かしたまま完封したって感じか。
まぁ、なんとなく予想はつくな。先に試しておこう。
『闘気剣』
魔力を持っていかれる感覚の後、ショートソードが輝き出した。
なるほど、『闘気剣』というか、魔力剣だな。
試しに気に向かって振ると、そこそこ太い木があっさりと切断できた。
これは確かに『勇者』限定だろうな。
これならもっとレベル上げが捗る。
というのも、猪と戦ってみたとき、なんとなくここを斬ればいいんじゃないかっていう感覚があって、それに従ってみたら、あっさり倒せたんだ。
ウサギのときの失敗みたいに骨に斬り込んでしまうこともなく。
昨日の4、5匹目のウサギのときにもそんな感覚があったんだけど、猪でも同じだった。
それからサクサクレベルが上がってレベル10になった時――
(「シン様、光属性魔法を習得したようです」)
ナビが俺のことを呼びにくそうにするので「シンでいいよ」と言うと、なぜか様付けで呼ぶようになった。
それはいいとして、光属性? なんだろ。
「ステータスオープン」
これか。
新たに習得したのは『治癒』と『浄化』。
ナビ、わかる?
(「『治癒』は白魔法で毒などを癒す魔法です。『浄化』が光属性魔法なのですが、呪いや穢れを取り除く、と言われています」)
光属性は『浄化』だけか。もしかして暴走状態も治せたりする?
(「わかりません。が、可能性はあります」)
ちょっとこれも試してみたいな。とりあえず俺に、『浄化』と。
唱えると同時に俺の体が光に包まれる。
おお、汚れや汗の匂いが消えた。
まぁ、本来の使い方じゃないんだろうけど、何気に嬉しい。
ただ、結構魔力を消費したのがわかる。そうほいほい使えるもんじゃなさそうだ。
これじゃ仮に暴走も『浄化』できたとしても森のモンスター全て、なんて無理だな。
モンスターは増えてるって話だし、原因をなんとかしないと焼け石に水だ。
(「下です! 避けてください!」)
魔力を消費したのでしばらく休憩していると、ナビが急に叫んだ。
その声に反応して飛び退くと、影の中から狼が飛び出してきた!
なんだ!?
(「狼だったものが暴走した際に影の中を移動する力を得たモンスターで、シャドウウルフと名付けられています」)
マジか。ここまでそんな特殊能力みたいなものを持ったモンスターはいなかった。
ナビが避けててくれたんだな?
(「はい。まだ早いかと……」)
ナビも想定外の襲撃ってことか! っていうか、デカイな。俺が乗れそうだ。
確かに戦い辛い。隠れられるっていうのもだけど、それよりも!
俺は犬が好きだ。
なにせ実家でも犬飼ってたからな。ちょっと狼に斬りかかるのは抵抗が……。
迷っているうちに見失う。
『浄化』を試すか。ナビ、出てくるタイミングを教えてくれ。
周囲に意識を広げつつすぐに『浄化』を発動できるよう構える。
(「右です!」)
『浄化』っ!
ナビの声に合わせて右側向けて『浄化』を発動する。
俺に飛びかかろうとしたシャドウウルフの体が輝く。
ど、どうだ?
「ウオォーン」
吠えつつ俺を見つめてくる。しかし、さっきまでの殺気は感じない。
膝を突いて手を広げると頭を下げて寄ってくる。
「よしよし、いい子だ」
わっしゃわっしゃとモフる。『浄化』されたおかげでふかふかで気持ちいい。
「クゥーン」
こいつも嬉しそうだ。
どうしよう。連れて行っちゃダメかな?
(「シャドウウルフであることは変わっていないようですので、人前では隠れておけば大丈夫でしょう」)
「そうか、さすがナビ! お前も一緒に来るか?」
「ウォゥッ!」
「そーかそーか。いい返事だ」
また頭を撫でてやる。ああいいなぁ。ずっと抱きついてたい。
(「シン様?」)
ハッ!
い、移動するか。今日は川はあるか? っていうか、水音するな。
(「はい、この近くが川です」)
「よし、行こう。あ、そうだな。お前の名前……イチでどうだ? 俺はシンでお前がイチ。俺とお前で本名の真一だ」
「ウォン!」
「おお、気に入ってくれたか!」
イチが仲間になった!
テンション爆上げで川へ向かった。
「ぷはぁー! 気持ちいい!」
「ウォウン!」
イチと川で水浴びをする。いい感じの深さと流れだ。
『浄化』で綺麗になったとは言ってもシャワーすらないのは正直キツかった。
川岸に上がると、イチは身震いして水を飛ばす。
「よし、メシにしよう。イチは……生肉か?」
(「焼いたものでも良いでしょうが、どちらにせよ念の為『浄化』しておくのをお勧めします」)
そうだな。元は暴走状態のモンスターだし、そうしよう。
解体しておいた猪肉を『浄化』して焼く。ウサギ肉じゃ足りなさそうだしな。
「うまっ! 昨日と全然味が違う!」
『浄化』は俺にとっても正解だった。高級肉ってあんまり食べたことないけど、こんな感じだった気がする。
俺とイチであっという間に食べ切った。
「さて、今日はもう寝ようか」
「ウォン」
「ん? どうしたイチ?」
「ウォンウォン」
首を背中に振りながら優しく吠えるイチ。
「もしかして、背中で寝ていいって言ってるのか?」
「ウォンッ」
「おお、ありがとうイチ!」
ふっかふかのイチの背で心地よい眠りに落ちた。
お読みいただきありがとうございます。
次回は魔法についての話です。