第5話 モンスターの死体はグロかった
おお、このウサギやる気まんまんだな。
この世界で初めて見る動物、いや今はモンスター。
ドリルみたいに捻れたツノを持ったウサギは俺に気付くと臨戦態勢に入っていた。
(「あれは「ホーンラビット」と言います。暴走する前は草食で大人しく、人間族にも襲いかかることはありませんでした」)
それが今や誰にでも襲いかかる、と。
よし、プレベールから貰った剣でやるしかないよな。
『収納』から取り出したのは、剣というには短く、短剣よりも長い、いわゆるショートソードだ。
ショートソードを構え、振りかぶりながら一足飛びで距離を詰める!
って、うおっ! 行きすぎた! なんだこれ!
(「貴方は力の数値が高いのです。現時点で常人の倍はあります。まずはその力に慣れてください」)
リョウの頬っぺた抓ったとき異様に痛がってたのはそういうことか。
体勢を崩した俺にホーンラビットが突進してくる。
あぶねっ!
咄嗟に横に飛ぶとこれまた想定以上に離れてしまう。
危険も感じないし、思いっきり動いて覚えるか。こんなところでソロソロ動いても仕方ないし。
一旦倒すことは考えずに体を動かしていく。
なんだろう、慣れるのが早い気がする。
(「これも推測ですが、『勇者』の特性ではないかと思われます。確認したわけではありませんが『勇者』は成長が早いと言われておりますので」)
なるほど。てっきりレベルアップしやすいとかステータスの伸びかと思ってたよ。
よし、次は剣の振りだな。こればっかりは敵の数をこなさないとダメだろうけど。
待たせたなホーンラビット。
掴んだ距離感で飛び込んで振り下ろす。
頭を切り裂くというより砕いて初めての戦闘は終わった。
ていうか、頭は失敗だった。頭蓋骨が固くて右手に衝撃が残ってる。
ショートソードもよく見ると刃こぼれしてるな。
当然ながらこれはコピー。こうなったときに困るからな。他にも服や下着も貰ってコピーしてある。
今着てるのはここに来た時に着てたやつだけど。
貰った服を魔族に見られたらプレベールの立場が悪くなるかもしれないと思ったからだ。
ショートソードをまたオリジナルからコピーして取り替える。
次は狙う部位も気を付けないと。
ちょっと右手の感覚が戻るまで休憩しよう。
このウサギは食えるのか?
(「はい。血抜きをして『収納』しておきましょう」)
ナビに聞きながら血抜きをする。うえぇ、コレ慣れるかなぁ。頭を砕いてしまったせいで余計にグロかった。
「ステータスオープン」
よくよく考えたらステータスについてなにも聞いてなかった。
レベル 2
力 31
体力 25
魔力 30
あ、レベル上がってるな。これって、どうなんだ?
(「力は魔族の平均の3倍程、人間族でも平均20程です」)
なるほど、魔族は力が弱い分魔力があるんだな。
てゆーか、ほぼ初期値でそれってどんだけ上がるんだ?
(「体力は平均より高いくらいで、魔力は魔族の平均程です。ちなみに魔王プレベールのレベルは99と最大値で魔力は85です。おそらく貴方は全て100を超えると予想されます」)
まぁ、暴走し始めた頃は倒せてたって行ってたし、それでレベルが上がったんだろうな。
俺もそれくらいやれってことか。今の時点で普通の魔族くらいならそこそこの魔法が撃てる?
(「ただし、魔力は消耗するものですし、どの程度撃てるかというのは本人の感覚で覚えるしかありませんので気を付けてください」)
魔法のスタミナみたいなものだよな。使い切るとあのプレベールみたいになるんだな。
(「そうです。発情に近い状態になります。性交等による性的快感を得ている時が一番魔力を回復しやすい状態ですのでそれを求めてしまう、ということです」)
あー、まぁ、自分の口からそんなことは言えないよな。
ん? あれ、魔法の欄に『ファイア』『応急処置』ってあるけど。
(「『応急処置』は先程レベルアップした際に習得しました。『ファイア』は私が『複製』された時からずっとありましたよ」)
いや、最初に見たときには『ファイア』はなかった。というか魔法が空欄だった。
(「であれば、魔王プレベールの『ファイア』を見て習得した、と予想されます」)
マジか。ならもっと見せてもらえば良かったな。
特に水を出せる魔法。水筒はあるから飲む分には困らないけど、気になるのは風呂だ。
プレベールに頼んで用意してもらったから風呂桶はあるけど、お湯がない。
(「おそらくは近いうちに習得できると思われますので我慢してください」)
そうだな。じゃ、それまで休む時は川側がいいな。川、あるよな?
(「はい。かしこまりました。なるべく川近くを移動するようにします」)
頼んだ。せめて水浴びはしたい。今日まで拭くだけだったからな。
あ、そうそう。『応急処置』って?
(「傷を止血し、保護します。回復魔法ではありませんが、自然治癒が早まります。また、骨折した場合に骨を正しい位置に戻す効果もあります。そのときは『応急処置』をかけて添え木で固定してください」)
骨折は勘弁だなー。なるべくそうならないようにしたいな。それか覚えられるなら回復魔法を覚えたい。
よし、右手も治ってきたし、次行こう。
その日は合わせて5匹のホーンラビットを倒した。レベルも5に上がっていた。
(「やはりレベルの上がる早さもステータスの上がりも通常以上のようです」)
ステータスは全てレベルアップごとに2ずつ上がっていた。
プレベールの魔力がレベルの数値より低かった時点で察してはいたけど、普通は上がらないこともあるんだよな。
ともかく、まずは野営の準備だ。
残念ながら今日は近くに川はないらしい。
テントはあるけど、使うのは雨の日くらいだ。
『収納』からプレベールに貰った筒のような魔道具、結界装置を取り出す。
「このボタンを押すんだったな」
これはプレベールが城に使っている結界の簡易版。使うのに魔力がいるから基本魔族にしか使えない。
筒の端のボタンを押すと、周囲3メートル程が結界に囲まれる。
そして、体から何かが抜かれるような感覚。これが魔力を消費するってことか。
集めておいた枯れ枝に『ファイア』で火をつける。
このとき発見したのが、枯れ枝の束を持って『複製』すると束でコピーできた。
まぁ、タバコが箱ごとコピーできたからできると思ってやってみたんだけどな。おそらくは俺の認識次第だと思う。
その火で血抜きしておいたウサギを焼く。
ナビに聞いて解体もしてる。アレは慣れるのに時間がかかりそうだ……。
焼き加減もナビ任せ。本当に助かる。
用意していた調味料、塩をかけて食べる。うん、貰っておいて正解だった。
焼肉のタレが恋しい。人間族の町にそれっぽいのがあるといいな。
そして食事を終えて一服。
「ふぅー。ナビの目算でいいんだけど、訓練も含めて森を出るのはどれくらいだ?」
(「最低7日ほどですね。レベルにして50は超えておきたいです」)
つまりステータス100はあったほうがいい、ってことか?
(「そうです。人間族はとにかく何かしら劣る部分を突いてきます。ですが、普通はどんなに力のある者でも100は超えません。経験不足の差を加味してもそれだけあれば大丈夫かと」)
なるほどな。できればあまりモンスターを倒さずにそこまで行きたいな。
(「なぜですか?」)
俺はモンスターを殲滅するためにいるんじゃないからな。
暴走が収まったならまた魔族と共存できた方がいいだろ?
(「お優しいのですね。あれだけ憎まれていたというのに」)
いつか理解してもらえると信じるしかないからな。それにあの人達が憎んでるのは『勇者』であって俺じゃない。
屁理屈だけど。
(「かしこまりました。少し危険かもしれませんが、予定を修正してやや強めのモンスターを倒してレベルを早く上げられるようにします」)
わかった。なんとなくだけどいける気がするんだ。
剣の振り方は慣れた。それになんとなくどこを狙えばいいかわかった。
それがウサギ以外にも通用するか確認したい。
上手くいけばサクサク倒せるはずだ。
それじゃ、万が一結界に問題があるようなら起こしてくれ。
(「かしこまりました」)
吸い殻を火に焚べると俺は横になって眠りに就いた。
お読みいただきありがとうございます。
次回は仲間との出会いです。