第47話 決着
『限界突破』を発動すると同時に柄だけになったショートソードを捨て、新たにコピーを取り出す。
そして、それを両手で上段に構え、思いっ切り振り下ろした。
「なにっ!」
アポカリプスが驚愕の声を上げる。
放った『ストーム』が剣圧に切り裂かれたからだ。
「くっ、『防壁』!」
咄嗟に壁を作って迫り来る剣圧を止めようとしたみたいだけど、それすら突き破ってアポカリプスに届いた。
アポカリプスの右肩から血が吹き出る。
だけど、やはり通常の攻撃だとそれを気にした様子がない。
でも体勢は崩した。
ここぞとばかりに自分で切り拓いた道へ突っ込む。
ただ、ビームサーベルのときのように魔法そのものは消えてなくて身体の横を暴風が通り、剥き出しの腕に傷を付けていく。
『感覚加速』!
これで仕留める!
一直線に向かう俺にスローモーションになったはずのアポカリプスが手の無い右腕を向けて魔法を放つ。
そうか、こいつも『勇者』。同じスキルを持っていたのか。だからあのとき……受け身を取っていたのか!
『氷結』
ゆっくりと冷気が俺に迫る。
横には暴風、目の前には俺を凍らせようとする冷気。
それなら!
『ファイア』『ウィンド』
ナビすら知らなかった使い方。
アポカリプスの『ファイア』以上の火力を持った火球が生まれ、アポカリプスへ向かう。
完全に『氷結』も打ち消した。
「な、なんだとぉおおお!!」
お互い『感覚加速』の効果が切れ、火球は一気にアポカリプスを襲う。
「おおおおお!!」
脚も限界だけど今止まるわけにはいかない!
『限界突破』のおかげか最初ほど反動を受けてない。まだいける!
『ライトニング』!
最後の魔力をありったけ込めて、燃え上がるアポカリプスの心臓目掛けて剣と共に突っ込んだ。
「グハッ!!」
アポカリプスの吐き出した血が俺の背中越しに床に飛び散る。
胸に大きく穴の空いたアポカリプスは燃えながら後ろに倒れた。
「はぁっ、はぁっ……や……った……」
もう限界だ。俺もそのまま横に崩れ落ち――
「シン!」
床に倒れる前にリアンに抱き止められた。
あの後リアンはまた階段で戻ってきたらしい。
「シン! シン! もうっ! 無茶しすぎだよぉ……」
大粒の涙を流しながらリアンが『ヒール』を掛ける。
「ごめ……ん……でも……」
「わかってる! だからなにも言わないで!」
リアンには……かなわないなぁ……
「魔力……回復……薬……を……」
俺も自分で『ヒール』を……そう思ったんだけど……
「飲める?」
リアンが魔力回復薬のビンを口に当ててくれるけど、うまく飲めない。
「ごほっ、ごほっ」
「大丈夫。私が飲ませてあげるから」
リアンは魔力回復薬を口に含むと、俺に口移しで送り込んできた。
俺の魔力が一気に回復していく。
「シン! 無事か!?」
「シン君! あっ」
「お邪魔だったかしら」
「大丈夫そうだね」
リョウたちだった。どうやらアストが避難させてくれていたけど、無理矢理再転移させてきたらしい。
若干アストの衣服が乱れている。
アストはリョウたちが集まってきた俺の方ではなく、アポカリプスの方へ向かう。
そして、まだ燃えているその死体を一瞥すると、『葬送』と魔法を発動し、その体は灰のようになり消えていった。
同じ永い時を生きた者同士感じることがあるのか、少しの間、アストは散っていったアポカリプスのいた場所を見つめていた。
四人がかりで回復魔法を使うとあっという間に立てるようになった。リョウの『ハイヒール』が特に効果が大きかった。
「シン君、よく生きていましたね」
こちらにやってきたアストが声を掛けてくる。
「まったくだ。死ぬかと思った」
体が燃えたときは本気でヤバいと感じた。
「いえ、『限界突破』を使ったのでしょう? あれは自爆スキルとも言えるものです。アレを使って生きている『勇者』はシン君が初めてです」
それを聞いてゾッとした。でも、後悔はしていない。
リアンが俺の腕をギュッと掴む。
「大丈夫。もうなんともないよ」
反対の手で頭を撫でる。
「シンは……残るんだよな?」
そんな俺たちの様子を見てリョウが確認してくる。
「ああ。俺はリアンとここで生きていくために戦ったんだ」
「命をかけて守る、ってカッコ良かったわよ。シン」
「うんうん。リョウちゃんみたいだった」
「まぁ、生きててなによりだよ」
三人も俺を心配して戻ってきたんだよな。
「ありがとう」
なんだその意外そうな顔は! 俺だってちゃんと礼くらい言うわ!
「そろそろ戻ろう。ヒトに見られると面倒だよ」
アストが促してくる。
「そうだな。あ、リアン。アストにアレ返してやってくれ」
「わかった」
リアンは魔力回復薬のビンを『収納』から取り出して渡す。
「……まぁいいでしょう。もう一度くらいはいけるんですが、念のため飲んでおきますか」
色々察したみたいだけど、アストは何も言わず受け取った魔力回復薬を飲む。
実際何度も『転移』を使ってかなり消耗しているはずだもんな。
「では、掴まってください。いきますよ?」
全員でアストに触れ、魔王城へと転移した。
「シン! 無事だったか!」
着いたのは出発したときと同じ広場。
そこにはプレベールほか、召喚されたときに見たような気がする魔族たちが集まっていた。
俺たちの姿を見るなりプレベールが駆け寄ってくる。
「一先ず元凶はいなくなったよ」
「そうか」
俺が結果だけ伝えると、プレベールもそれだけ返した。
やはり相手が元魔王ということもあって、大手を振って喜ぶとはいかないようだ。
後ろの魔族たちも神妙な顔をしている。どうやらプレベールが事の発端をしっかり話してくれているようだ。
さて、どういう反応をすればいいかな。そこまでは考えてなかった。
「ホラ言っただろ? シンは悪いヤツじゃないってな」
口を開いたのはリョウだった。この口ぶりだと、俺の話題になるたびに言ってくれてたんだろうな。
「よくもまぁ、このシンを追い出してくれたもんだわー」
ミナはわざとらしすぎじゃないか? 俺の大根演技を馬鹿にしてたのはお前だろ? と視線を送ると気まずそうにそっぽを向かれた。
「す、すまなかった……」
「すまない」
「悪かった……」
ミナの煽りが効いたのか、口々に謝罪の言葉を並べ始めた。
もちろん、みんながみんな納得してるわけじゃないだろうけど。そうホイホイ信じてきたものは覆らないよな。
だから、ここはもうこれで終わりだ。
「もういいよ。それより、これからのことを考えよう」
俺がそう言うと、魔族たちの方が意外そうな顔をしていた。
「何を言っておる。お主らは疲れておろう。シンなど服がボロボロではないか。今日はゆっくりと休むがよい。部屋も食事もちゃんと用意しておるし、風呂にも入れるよう言ってある」
プレベールがそうまとめて、俺たちは部屋に案内された。
それからリョウと風呂に入り、久しぶりに他愛もない話に花を咲かせた。
その時言われたこと……確かにそうだよな。大事にするって、そういうことでもあるよな。
食事を終え、リアンと部屋に戻る。
「どうする? もう寝る?」
ソウから貰っていた寝間着を用意しながらリアンが聞いてくる。
「そういや……リアンからしてくれたのは初めてだったよな」
リアンを抱きしめ、キスをする。
「ふぇっ!?」
「どどど、どうしたのシン!?」
「つ、疲れてるでしょ?」
混乱してるリアンも可愛い。頭を撫でて問いかける。
「嫌か?」
「ううん。でも……今日は本当に心配したんだからね!」
「ごめんな。でも、リアンとこれから生きていくのに死ねるわけないだろ?」
「シン……」
「リアン……」
この世界に来て最も激しい一日がようやく終わった。
お読みいただきありがとうございます。
次回最終話です。




