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第45話 対峙するのは

 視線の先、まだ辛うじて外見を確認できただけの男からの威圧感が凄まじい。


「来る前に言った通り、彼は元々レベルは99。それが国王に入ったことで国王のレベルと合わさっているはずだ。上限のない『勇者』とね。彼は今『勇者』であり『魔王』なんだ」


 やはり俺の予想は当たっていて、国王は『魔法の勇者』だとエウリュビアは言っていたらしい。

 その時の彼女は完全にアポカリプスへの興味を失っていたらしく、そのことを伝えるアストはめちゃくちゃ不機嫌そうだった。

 この時ばかりは俺もアストに同情した。なにせ明らかに俺たちよりも強い相手と戦わないといけないからな。

 そんな彼女から聞き出してくれた情報は活かしたい。


「魔力勝負じゃ勝ち目はないな」


 相手は完全魔法特化型だ。膨大な魔力の『魔法の勇者』が『魔王』の力で魔法を撃ってくる。

 魔力切れには期待できないとみたほうがよさそうだ。


 あとは相手がこの城ごと破壊するような魔法を撃つかどうか。レベルを上げる気なら()ないといけない。巻き込まれて死にました、じゃ上がらないはず。

 それならそこまで大掛かりな魔法は使わないかもしれない。あくまで目標はエウリュビアだろうし。


「そうですね、なんとかシン君が近付いて倒してくれるのが一番なんですが……」


 俺もそれしかないと思うけど……


「その言い方だとなにか問題があるのか?」


「『防壁』はわかりますか?」


「あ、私が使ってるやつ! 見えない壁を作り出すのよ」


 アストの問いに自らが担当していた魔法をミカが乗り出して答える。


「そうです。それが既に張られています。桁違いのものが」


 なるほど、このまま突っ込んでもそれにぶつかるのがオチか。ミナの魔法もその壁に止められていたみたいだな。


「どうすれば消える?」


「本人が解除するか……あとは単純にあれの硬度を上回るか、ですね」


「位置は?」


「段差のやや手前ですね」


 相手は数段上がった先の玉座に座ってこちらを見下ろしている。その男から視線を外して段差の下を見る。



「どうした、入って来ないのか?」


 そのとき、魔王城の地下で聞いたものとは違う声が俺たちを誘ってきた。


「ミカ、『身体強化』を頼む」


「わ、わかった」


 これ以上待たせるとなにをしてくるかもっとわからなくなると判断してミカからの魔法を受けて飛び込む。


 剣を抜き、両手で大きく上段に振りかぶって『防壁』のあるあたりに向けて飛び上がり、『闘気剣』を発動して全力で振り下ろした。



 ――パキン



 ショートソードが真っ二つに折れる。


 それと同時に『防壁』も砕けたらしく、段差の前に着地することができた。


「ほう」


 それを見た男が一言そう言うのを聞かず、強化された脚力で再び飛び上がる。

 折れた剣でまた『闘気剣』を使って斬りかかる。



 ――バキッ


 今度こそ剣が根元から折れる。


 ただ、()()()()『防壁』を砕けた手応えもある。



「今だ!」


 着地と同時に横に飛ぶ。


 『ウォータ』!!


 アポカリプスにリアン、アスト、リョウ、ミナのウォータージェットが突き刺さる。ちょっと教えただけでできるあたりアストもさすがだ。



「やったか!?」


 リョウ、それはダメなフラグだ。



「くくくく……王たる俺に奇襲をかけるとは、なっていないんじゃないか? 『勇者』くん?」


 身体中血だらけになりながらも平然と話しかけてくるアポカリプス。


「『勇者』とは正々堂々と戦うものではないのかね?」


「お前がそれを言うのか?」


 前もって二重に『防壁』を掛けておくようなやつが、と続ける。


「くくくく……よく気付いたな。褒めてやるぞ」


「いらん」


 そう言いながら一度みんなのところまで退がる。



「さて……どいつから殺そうか」


 アポカリプスから殺気が放たれる。マズい。



「ミユ、例のバリアを念のため掛けてくれないか?」


「え? う、うん。わかった」


 みんなの意識がミユの魔法に集中した瞬間――俺は床を思い切り踏みつけた。


「きゃっ!」


 足元の床が崩壊し、みんなは姿勢を保つこともできずに落ちていく。俺だけは飛び上がってそれを回避した。

 ギリギリ魔法は発動したみたいで俺の周りに膜ができる。


「アスト、みんなを頼む」


 下の階に落ちていくみんなをアストに託す。一緒に落ちていくアストは俺に何かビンのようなものを投げて渡す。

 それを受け取って後方の無事な床に着地し、アポカリプスを見ると意外そうな顔をしていた。そして視線が微妙に俺に向いていないことに気付く。


「リアン!?」


 その視線の先を追うと、そこには一緒に落としたはずのリアンがいた。


「えへへ、ごめん。巻き込みたくないからそうしたのはわかったんだけど……私も戦う!」


 どうやらリアンにはバレていたみたいだ。そして、その強い眼差しに俺はリアンと共に戦うことを決めた。



「リアン、これを」


 リアンにアストから受け取ったものを渡す。


「これは?」


「魔力回復薬らしい。それと……」


 リアンに触れ、『複製』と『収納』をリアンにも『複製』する。


「常に『複製』して二つ以上持つようにしていてくれ」


 簡単に使い方を説明して、作戦を告げる。


「わかった」


 ここまでそれをしなかったのは本当にリアンにも避難してもらうつもりだったからだ。

 でも、リアンも戦うのならできることもある。


「いわゆるポーションがぶ飲み作戦だ」


 そんなもの持ってるなら早く出してくれよ、と言いたくなったけど、おそらくこれは相当貴重なものなんだろう。おいそれと『複製』していいものじゃないから存在も隠したかったんだと思う。

 でもそれをわざわざ渡してくれたんなら活用させてもらう。


 折れたのはコピーの剣で代わりはあるとはいえ、『ウォータ』がまともに効いてない相手に普通の剣じゃ効果は薄そうだ。

 気が付けば全ての傷が消えている。


 ならば。


『ライトニング』


 光を維持する魔法でこれまではレーザービームのような使い方をしていた。

 それを柄から棒状に固定する。そう、ビームサーベルだ。これなら……


「そんな光でなにができる」


 アポカリプスはこれの威力を知らないみたいだな。



「さぁ、いくぞ」


 一気に間合いを詰めて左から横薙ぎに斬りかかる。


「ぐっ、『硬化』!」


 胴を狙ったけど、右腕に止められる。そんな魔法もあるのか。だけど……!


 思い切りそのまま振り抜くと、その止めていた右腕を切り落とすことに成功した。


「ぐぁっ!」


 『ウォータ』のときとは違う反応だ。追撃を狙おうとしたところで『ファイア』が広範囲に撒かれ、一旦下がる。


「リアン」


「うん!」


 魔力回復薬を受け取り飲み干す。一瞬体が光ったような感覚のあと、魔力が完全に回復した。


「なるほど、隠してるわけだ」


 これなら俺やリアンの少ない魔力でも遠慮なく使える。

 そして、俺が魔力を回復しているとき、アポカリプスは右腕の回復をしていた。


 だけど――。


「なぜだ、なぜ戻らない! 『ハイヒール』! くそっ!」


 腕も戻せるつもりだったらしい。まぁ、そうじゃなきゃ『硬化』したとはいえ生身で受けたりしないよな。

 でも、回復は上手くいっていない。


 これはアストが言っていた「身体が馴染んでいない」のか、光属性が特殊なのか……

 たぶん後者だな。『ウォータ』で胸を貫いていても平然としてたくらいだ。

 ちなみに胸を撃ったのはアストだ。躊躇なく殺す気で撃てるのはアストだけだった。


 今の俺もそれができていたか……


「シン。大丈夫。大丈夫だよ」


 リアンには俺の心の中が見えてるみたいだ。そんな顔をしてたのかもしれないけど。


「ありがとう」


「んーん。シンがダメだったら私がやるからね!」


 間接的とはいえ親の仇だもんな。でも、リアンからはそんな感情は感じられない。

 単純に俺が情けない、ってことか。ていうか、リアンにそんなことさせるわけにはいかないよな。



 一歩足りなかった覚悟がようやくできた気がする。



 人を殺す……覚悟が。

お読みいただきありがとうございます。


心理描写が多すぎると相手の棒立ち感が出てしまうのがどうにも苦手です。

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