第43話 王城転移前
「昨日のうちに母から聞けるだけ聞いておきました」
翌朝アストが部屋にやってきて告げ、続けて「大したことは話してくれませんでしたが」と首を振って嘆いている。
ドアがノックされたとき俺はたまたま起きてたけど、リアンはまだ眠っている。窓から見える外もまだ少し明るみが出てきたくらいみたいだ。
あのあとすぐに消えたから、エウリュビアは信長と転移をしたのかと思っていたけど、姿を隠しただけで、アストの部屋に付いてきていたらしい。
「それで、何を聞けたんだ?」
「『憑依』についてなんだけど、今の状態は『完全憑依』といってアポカリプスの全てが入っているということらしい」
相手の情報か! これはありがたい。
「この状態だと他の人に『完全憑依』はできないらしいからシン君に『憑依』される心配はないみたいだよ」
「全然大したことなくないじゃないか。それがわかるだけでもかなり違う」
もう乗っ取られる心配はないってことだしな。
「その代わり、能力的には二人分になる。元々目をつけていた人間を国王にしているんだろうし、かなり強くなったと考えていた方がいい」
「だから俺……というか『勇者』に拘っていたんだな。『勇者』は成長が早いみたいだし」
「それだけじゃない。『勇者』にはレベル上限がないらしいんだ」
それもエウリュビアからの情報か。『鑑定』でわかることなんだろうか。
ちょっと待て……それって……
「かなりヤバい状況じゃないか?」
おそらく国王は『勇者』だ。予想だけど、アポカリプスはそれを隠させて王に選んでいるんじゃないか?
ただ、憑依したら戻れないというのが難点で実行に踏み切れていなかったんだとしたら……
「ええ、自分の体ではないから馴染むのにまだかかると思いますが、早めに向かいましょう。王都が血に染まる前に」
だからアストはこんな早朝にやってきたのか。
「そうだな。これ以上無関係な人たちまで巻き込むわけにはいかない」
ただでさえ既に沢山の人があいつのせいで死んでいるんだ。
「それよりも、レベルを上げられると厄介ですからね」
価値観の不一致だな。こういうことを言うからアストは信用できないというか、完全に好きにはなれない。
でもまぁ、やることは一緒だし、言ってることも間違いじゃない。なによりアストがいないと王都に転移もできない。今はそこでどうこう言っても仕方がないな。
「リアン、起きろ」
声を掛けても反応が薄いので、軽く頬を叩いて起こす。
「う、うーん……おはよ。もう朝?」
「リアン、事情が変わった。出る準備をしてくれ」
まだ半分眠っているような反応だけど、まぁ、無理もない。
「あれ……? アストさん?」
「おはようございます、リアンさん。私は外に出ていますので早めに済ませてください」
「俺はリョウたちを起こしてくる。アストもそれならプレベールに伝えておいてくれ」
そこまで言うと、ようやくリアンの目がはっきりと開く。
「私に女性の寝室に一人で行けと?」
「リアンの寝顔見といて何言ってんだ。それで許してやるから行ってこい。プレベールが許すかは知らないけどな」
まぁ、森の中で何度も見られているんだけど、寝室で、というのは気がついたらなんか嫌な気分になった。
アストは「わかりましたよ」と諦めたようにプレベールの部屋へ向かった。
「リョウ! 起きてくれ!」
あまり煩くならないように部屋のドアをノックする。声もかなり抑えている。
「誰よもう……シン?」
出てきたのはミナだった。プレベールが用意した寝間着なんだろうけど……思わず視線を足下まで落としてしまった。
「わ、悪い」
「なによ、あんたにはリアンちゃんがいるでしょうに」
そうは言われても大きさが違いすぎて目が行っちゃうんだ。勘弁してくれ。
「そ、それよりリョウを起こしてくれ。早めに出発することになりそうだ」
顔を上げて目を見て伝える。それでミナも揶揄うのをやめる。
「わかった。なにかあったのね」
「ああ、詳しくはみんな揃ってから話そう」
まだ魔族たちの寝静まった時間、静かな広間に集まり俺とプレベールの『収納』に入っていた食べ物で朝食をとる。
その間に食事が少なくて済むアストが説明してくれた。
「おそらくアポカリプスも動き出すのは一晩休んでからだと思います。こちらが転移してくるのは読んでいるでしょうから騎士が守りを固めていると想定して作戦を決めましょう」
「寝室の場所は?」
「私もくまなく見て回ったわけではないので……」
『地図』
アストが魔法を唱えると、テーブルに王城の見取り図が描かれる。所々空白だ。そこが見ていない場所らしい。
「これは二階です。おそらく、ここかここが寝室です」
その中でも大きめな空白、両端近くの部屋を指す。
「二手に分かれるか」
「そうですね。リョウ君は『転移』は使えるかい?」
「まだ覚えてないな」
同じ『魔導師』だから覚えるんだろうけど、リョウは未習得らしい。
「なら、私が一人で動きましょう。私の方が当たりだった場合はみなさんの到着を待ちます」
アストは隠れられるからな。それがこのメンバーだと一番か。
「どうやって知らせるの?」
ミカが手を挙げて質問する。
「これだ」
アストから貰っていたガラス玉を取り出して見せる。
「これは対になっていて、片方が壊れるともう片方に居場所が伝わる。だから、当たりの方が壊して連絡すればいい」
「なるほど」
「私は『転移』で追いつけますから、みなさんは先に突入してみて当たりだったら壊してください」
アストは一人だしそれくらいの安全策は仕方ないな。さすがに侵入したらバレやすいだろうし。
「とりあえずこれは転移先がすぐ動ける状況だった場合な」
「なんとなくそうはならない気がするよ」
リアンの予想ももっともだ。俺もそうだったらいいな、くらいの感覚だし。でも決めておかないとな。
「俺もそう思う。いきなり騎士だらけ、ってのもありうる。その時はアストだけでアポカリプス探しを頼む」
「わかった。その時は気をつけてね」
その言葉が意外すぎて反応できずに一瞬固まってしまった。
「さっきの補足だけど、『完全憑依』はできなくても軽度の『憑依』で操るくらいはしてくる。それに同時に操れる数は本人の資質による。見た感じかなり多そうだから、連携はしっかりとしないとやられるからね」
なんかアストに心配されると調子が狂うな。
「わかった」
「あと、当然だけど、その時点で突入はバレてるから早めに来てくれると私の生存率も上がるからね」
そういうことか。なんというか、素直……と言っていいのか。
「隠れていて見つかるもんなのか?」
「そりゃあ、君らが突入してきて私の姿が見えなかったら警戒するだろう? そんな状態で私は扉を開けないといけないんだ」
なるほど、納得した。
「だから同じ理由でもし最初に誰もいなくても部屋の前を騎士で固めているようなら君たちと合流させてもらうよ」
「確かにそれで部屋に入るのは自殺行為だな。それにその部屋が当たりとも限らないし……その時はその方がいいだろう」
そんな状況で騎士を殺すことはできても無力化は難しいだろうし。
それから少しの間予想できるだけ話し合った。
まずはその二つの部屋のちょうど中間にあたる広い廊下に転移する。広い場所の方が対応しやすいというアストの判断だ。
逆に騎士がいる可能性は高くなるけどそれもその前提で想定がしやすい。実際話し合いの大半はそこに騎士がいる想定だった。
そして転移前にアストにはミカから『身体強化』を掛けてもらい、城内を駆け回ってもらう。
この『身体強化』、何気にエグい。素のアストには人の腕を捻り切ったり、短剣で首を落としたりする力はないとあの後聞いた。
それこそ騎士並みに身体能力が強化されたらしい。
あとは俺たちだけど、必要なら掛けることにした。ミカの魔力がそれほど高くないらしいのと、リョウはまだ覚えてないからだ。
専門職のミカでも今のレベル40近くでようやく覚えたらしいけど、それも納得の効果だった。
もちろんアストは使えるけど『転移』もそれなりに魔力を消費するみたいだし、場合によっては複数回使ってもらうことになるからなるべく温存してもらう。
「みんな、気をつけるのじゃぞ。必ず全員帰ってくるのじゃ」
この中で唯一残るプレベールが声を掛けてくれる。
「ああ、行ってくる!」
俺がそう返すと、他の全員も首肯で返した。
「それじゃあ行きますよ。ミカさんが『身体強化』を使ったらすぐに『転移』しますからね」
「了解」
「いくよ、『身体強化』!」
ミカの魔法を合図に俺たちは王城二階へと転移した。
お読みいただきありがとうございます。
おそらくあと5話以内に完結すると思います。
長い戦闘はまだ書けないので。




