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第42話 第六天魔王とハイエルフ(母)

キリがよくなかったので長めです。

「あー……えーっと……大丈夫ですか?」


 球体の男に向かって声を掛けると、何故か周りの方が反応した。


「シンが敬語とか……」

「大丈夫? 疲れた?」

「シン、お前どうしたんだ?!」


 ミナ、ミユ、リョウが口々に俺を心配する。失礼な。


「まぁ……気持ちはわかるんだけど……私はなんとなくわかっちゃったしねぇ」


 ミカだけは相手が誰なのかの予想ができているようだ。



「うむ……俺は生きているのか?」


 男がようやく反応を見せる。考えなしに話しかけたけど、会話できるんだな。この人が生きてることとかの原理を考えてもわからないし、そういうことだということにして進めよう。


「動けますか?」


 難しいようなら球の中の方が安全かもしれない。もうモヤは生まれないだろうし、『浄化』してからまた集まってくる気配もない。


「問題なさそうだ」


「では、その球を壊します」


 剣でつつくと簡単に壊れた。モヤのあるときに触れなくて正解だったみたいだ。



「ここは……どこなのだ? 本能寺ではないようだが……」


 影で見えていたときにツノかと思った突起があったけど、それはマゲだった。薄い口髭に痩けた頬で体もかなり細身だ。でも見る感じ痩せているというより筋肉で引き締まった身体に浴衣を纏っただけの姿の男は地面に着くなりゆっくりと視線だけを動かして周りを見る。そして、本来居たであろう場所ではないことを悟る。


 その姿と言葉にリョウたちもようやく男の正体に気付いてハッと息が止まる。

 ミカだけは「やっぱり……」と呟いた。


「ここは日本でもない異世界、と言って通じますか? 信長公」


 そう、球体に囚われていた男は本能寺の変で命を落としたと言われていた織田信長だ。第六天魔王を自称したとも言われている。

 その寝巻きと言って差し支えない姿と瀕死だったというアポカリプスの言葉から、急襲されまさに自刃しようとしたタイミングでの召喚だったんだろう。

 俺の『浄化』で浴衣に付いていたと思われる血は消えてしまっている。そのことが余計に信長を混乱させてしまったみたいだ。


 信長が召喚されたのは約五百年前という話だったけど、地球の年数だと本能寺の変はもう少し後だ……それはおそらく一日の時間の長さのせいだろう。体感だとこの世界の一日は地球より短い。だから数百年単位だと年数に差が出るんだな。


 異世界ファンタジーなどない時代の信長に言葉の意味が伝わるのかと不安になりながら見つめる。


「よくはわからぬ。だが、ここにはお濃もお蘭もいないのだな。それに……お前たちは誰なのだ? 俺を知っているようだが」


 イメージしていた信長とは少し違うけど、冷静に現状を把握しようとしているようだ。


「俺とこっちの四人は貴方がいた時代よりかなり未来の日本の人間です。貴方はここで五百年ほど囚われていたようです」


 俺の敬語に奇異な目を向けていたリョウたちもさすがに今は信長に目が集中している。


「五百年……ふっ……くっく……はっはっはっ!」


 突然信長は顔に手を被せて笑い出した。


「の、信長公?」


「あいや、すまん。あまりにもわけのわからぬことばかりでな。詳しく話すがよい。聞いてやろうぞ」


 オーラが眩しいと思ったのは初めてだ。これが織田信長のカリスマ力か。

 そのとき、既に信長はこの場の誰よりも上に立っていた。


「面白い、その役目、アタシが引き受けようじゃないか」


 信長に答えたのは聞き覚えのない声。俺たちが突入してきた扉の方から聞こえた声に信長とアスト以外がバッと振り返る。


 そこにいたのは、燃えるというより赤ワインのように透き通った紅く長い髪、やや吊り目の大きな紅い瞳に口角の上がった唇、そして180センチはある長身に黒ずんだ感じの肩まわりが緩く胸元の大きく開いたチャイナドレスのようなワンピースを纏った女だった。

 なんていうか、言い方は悪いけど、色気はないのにエロい格好だ。大きく開いた胸元の膨らみ的に。



「誰じゃ!?」


 プレベールが誰何する。振り返った全員が同じ気持ちだった。その人物には全く心当たりがない。

 しかし、反応の薄かった方のアストがすぐに答えを出す。


「お久しぶりです、母上。髪の色を変えても瞳の色を変えないと。隠れる気あるんですか?」


「は、母上ぇ!?」


 俺と同時に叫んだのは誰だったかはわからない。驚きすぎてそれどころじゃなかったからだ。


「元気か? アスト」


 息子のツッコミを全く気にする素振りも見せず軽いノリで手をあげるアスト母。名前はエウリュビア、だっけ?


「元気か? じゃないですよ。今度はどこへ行ってたんです? それにどうしてここが?」


 さすがのアストも呆れている。というか、本当にどうやってここに来たのか。隠し階段の先だというのに。


「まぁ、いいじゃないか、細かいことは。それよりもお前たち、こんなとこでグズグズしてていいのかい?」


「え?」


 急に俺たちに話を振られて焦る。どういう意味だ?


「気付いてないのかい? アポちゃん逃しちまっただろう。追いかけなくていいのか?」


 アポちゃんて……そこで首を落とされて死んだアポカリプスのことか? やっぱり顔見知りなのか。


「ちょっと待ってください母上。さすがに私でも説明してもらわないとわかりませんよ」


「むしろすごいな。知らずにあの子を追い詰めたんだね」


 まるでそこで死んでいるのがアポカリプスじゃないような言い方だ。


「そこで倒れているのはアポカリプスじゃなかったんですか? 操られた別人とか?」


 気になったから聞いてみる。しかし答えはノーだった。


「この死体は紛れもなくアポカリプス本人のものだ。あの子のスキルは本来操るとかいうレベルじゃないんだ。そのスキルは『憑依』。ただし、相性次第で『憑依』した後戻れたり、戻れなかったりする」


「じゃあ、今まで操るだけだったのは戻れなくなるから?」


 なんとなく把握したらしいミカが確認するように問う。


「そう。しかもどういうわけか魔力を持たない者には干渉すらできない。あの子はそれで魔力の強い『勇者』を求めていたみたいだね。そんなことのために教えたんじゃないんだけど」


「母上が教えたのですか?」


 アストも初耳らしく、母親を問い質す。


「ここにある砕けた魔道具もそう。世界の平和が乱れた時の最終手段として、人の悪意を抽出し集めて浄化する為に考えた」


「貴女はアポカリプスが暴走するのを止められたのでは?」


 教えたのはまだいいとしても、悪用するようなら止めるだろう。普通は。それにこの場所も知っていた可能性もある。


「無駄だよシン君。この人は何かに興味を持っているときは全く他のことは見えてないからね。教えたのもたぶんそれぞれ別のタイミングで思いついたのをそれらしく言っただけだろうしね」


「すごいなー! アストはアタシのことよく知ってるなー」


 冷静にアストが自分の母親のことを説明すると、本気で感心して褒める。


「こういう人なんです」


 諦めたように両手を広げてやれやれと溜息を吐く。


「ま、魔族が召喚すると『力の勇者』が現れるってことはアタシも知らなかったし、それはあの子も誤算だったんだろうね。魔法でアタシを超えたかったんだろうし」


 なぜ俺が『力の勇者』だとわかったんだ? それに信長も……? 確かに俺たちは歴史で学ぶ程度には性格を知ってるからそう予想することはできるけど……


「母上は『鑑定』スキルの持ち主なんですよ。だからあらゆるモノの性質を知ることができるし、新たなモノを生み出す知識を得ることができるんだよ」


 答えはまたアストが言ってくれた。


 とりあえずわかったのはアポカリプスの計画は最初から成功するはずがなかった、ってことだな。

 相性の良い魔族の召喚した『魔法の勇者』が欲しかったってことだろうし。それにしては自信満々に俺を待っていたようなことを言っていたな。なにか別の狙いがあったとか?


「で、いいのかい? あの子はおそらくもう戻れないのを承知で『憑依』を使った。なにをするかわかんないよ?」


「本当に人が悪い。母上はもう居場所も目的もわかって言っているでしょう?」


 俺がまた考え込んでいると急かされた。それをアストが嗜める。


「居場所はともかく、人の心の中までは『鑑定』できないよ。それであの子は今、王都にいる。『憑依』したのは国王だろうね。この場にいなくて一番相性がいいのはそれくらいだろう」


 なるほど。国王本人には恨みはないけど、エルフ達、テミス、遠回しだけどリアンの両親も……いろんな人の仇だ。アポカリプスは許したくない。これ以上なにかをする前に止めに行こう。


「リアン、一緒に来てくれるか?」


「もちろん!」


 リアンの目を見てはっきりと伝えると、リアンもしっかりと答えを返してくれる。


「ここでリアンちゃんしか言わないとか……シン?」


 ミナが睨んでくる。


「そうだよぉ。バリアないと困るでしょ?」


 ミユもずいっと前に出る。実は掛けてもらったおかげでイメージできたし自分でできそう、とは言わないでおこう。


「シン君がこんなに人目を気にせずイチャつくとは思わなかったなぁ」


 ミカたちには言われたくない。


「ってことで、俺たちも行くからな?」


 最後にリョウがまとめる。


「でも、プレベールの依頼はもう終わったようなものだろ? 地球に戻ったほうがいいんじゃないか?」


 おそらくもう世界間転移も阻害されていないだろう。


「そうじゃぞ。もうこれ以上危険な目に遭う必要はないのじゃ。シンに付いて行けば無事戻れるとは限らんのじゃぞ?」


 プレベールも俺の意見に賛成みたいだ。本当にプレベールには感謝している。リョウたちを危険に晒さずに済ませてくれていた。


 とはいえ、こんな言い方じゃ帰らないことくらいわかってる。


「悪い、今のは卑怯だな。そう言って引くわけないもんな。俺に力を貸してくれ」


「シン……任せろ!」


 リョウが拳を俺の胸にトンっと当てて答える。


「私なら直接王城に転移もできるし同行させてもらうよ。母上の不始末でもあるしね」


 アストも手を貸してくれるようだ。ありがたい。


「妾も……」


 プレベールはわかっているからそこまで言ってやめる。だから俺もはっきり言おう。


「プレベールはこの城を守る仕事があるだろ? 戻ってきたら森を『浄化』して回るからそれまではここで待っていてくれ」


 まだこの城の周りの森の動物はモンスター化したままだ。ならばまだプレベールは離れるわけにはいかないんだ。


「そうじゃな……無事を祈っておるぞ」


「祈るだけ、か? 俺もこの城で過ごしやすくしておいてくれよ?」


 つまりは幹部たちの説得だ。どうせまだ嫌われたままだろうしな。そこはプレベールになんとかしてもらいたい。


「そうじゃ……うむ……そうじゃな……!」


 プレベールは何度も頷き決心を固めたようだ。元凶が元魔王だったというのを伝えるのは大変なことになるだろう。



「話はまとまったみたいだな。それじゃ、アタシはそいつを預かるぞ。数日でこの世界のことを叩き込んでやる」


 新しい玩具を手に入れた子供のような顔をしている。


「面白そうだ。試してみよう」


 信長もなぜか乗り気だ。もしかしたら二人はかなり相性がいいかもしれない。なんとなくだけどそんな気がする。

 それに信長は俺たちの話を静かにずっと黙って聞いていた。完全に放置していたことを忘れてたけど、怒っているようには見えなかった。

 次の国王に信長……というのもアリか?



「さて、みんな魔力を消耗していますし、出発は明日にしましょう。転移ですぐ着きますから、戦闘になる可能性も十分考慮に入れて準備しておいてください」


 アストの提案に全員が賛成した。


 元凶の元凶ともいえるエウリュビアが行かないのは少し納得がいかないけど、アストが代わりにいるしそれでよしとしよう。どうせ言っても無駄なんだろうし。


 そして、リョウがミカたちの部屋へ行き、リョウの使っていた部屋を俺とリアンで使わせてもらった。

 アストに関しては元々国賓待遇だ。ちゃんと最上位の部屋が用意されていた。


お読みいただきありがとうございます。


前に少し体感時間で触れてますが、正確には一日が21時間という設定です。

これを500年で計算すると、地球の年数は437.5年となります。(本能寺の変は1582年)

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