第41話 旧魔王の計画
「魔族を危機に陥らせれば召喚すると思っていたぞ。五百年前のようにな」
「五百年前じゃと?」
プレベールは召喚自体は何度目かになると言っていたな。魔族が召喚したのもアポカリプス以来というわけじゃなかったらしい。
「順を追って話してやろう」
どうやらアポカリプスは「研究の成果」とやらを話したくて仕方がないらしい。よっぽど自信があるのだろう。アストに腕を押さえられていることを気にも留めていない。
「俺は『勇者』を召喚したあと、そいつを操り子孫を残させた。残念ながらそいつは魔力の弱い『勇者』だったからな」
最初の『勇者』は俺と同じ『力の勇者』だったらしい。
「魔族ではダメだ。なかなか孕まない。仕方なくそいつを人間族に送り込んだんだが、これが失敗だった」
そういえばプレベールも俺としたときそう言っていたな。長寿な分、そういう本能が弱いんだろう。
だけど、人間族に子孫を残させるのが失敗……?
「確かに人間族に魔力の強い子は生まれた。だが、それも、それに召喚させたモノも俺が完全に操ることはできなかった」
完全に実験道具かなにかのような話し方に嫌悪感を覚える。
「お前たちは知らんだろうが、召喚できるのは一回きりだ。俺はもう召喚することはできん。だから魔族が召喚を行う状況を作ってやったのだ。魔族が召喚したモノなら操りやすいんじゃないかとな」
「何が違うんだ?」
「良い質問だ。五百年前に召喚されたモノを捕らえたことでハッキリわかった。魔族と『勇者』では魔力の質が違うのだ。だから『勇者』の子孫では俺の干渉を受け難いモノが召喚されていた、というわけだ」
『勇者』は光属性を使える。それが関係あるのかもな。
「ちなみに、その時召喚されたのがそこにいるそいつだ」
アポカリプスは左手で球体の中の人影を指差す。つまりそこにいるのは五百年前の『勇者』ってことか。
あれは『収納』のように中の時間が経過しない魔道具なんだろうな。普通の人間ならとっくに死んでるはずだし。
「操れるそいつを確保して何をする気なんだ?」
「違う違う。言っただろう? そこの魔族が召喚してくれたことに感謝する、と。つまり、俺が待っていたのはお前だよ」
今度は俺を指差す。
「じゃあ、そいつはなんなんだ? 完成してるとか言ってただろう?」
「ふふふ、お前はもう知っているはずだ。その靄……人の悪意に曝された動物の死を見たときの成長を。その球はそこに悪意を集めるものだ。溢れた悪意は城の周りに良い結果を齎したと思うが?」
まさか!?
「そう、こいつは生贄だ。今はまだ召喚されたときのままで、本来ヒトから出た悪意はヒトには入らぬが、その球が砕けたとき、こいつはこの悪意に曝され、死ぬ。お前たちの世界にいたときは魔王などと呼ばれていたらしいが……所詮ヒト。耐えられるようなものではない。ここへ喚ばれたとき既に瀕死だったが、拾って正解だったよ」
俺の思考を読んだかのように肯定する。
まて……五百年前……瀕死……魔王……?
おいおいおい、こいつはとんでもない奴を生贄にしようとしてないか?
「おっと、お前以外の奴は成長する必要はない。さぁ、仕上げの時だ! こいつらを殺せ!」
俺を操ってるつもりか。どうしよう。ミユのバリアが見事にハマってなんともない。
とりあえずわかったのはこの球体にいるあの人の死を見せつけることで俺のレベルを上げさせて何かに利用しようってことみたいだ。
「ぐっ、俺を操ってどうするつもりだ……?」
ちょっと抵抗している振りで目的まで喋らせてみよう。
「俺の干渉を受けていないだと!? ハイエルフめ、なにかしやがったな!」
あ、バレてた。ミナの視線が痛い。演技力なくて悪かったな!
「人聞きの悪い。私はなにもしてませんよ。よっぽどハイエルフに劣等感があるみたいですねぇ」
腕を掴んでいるのがハイエルフだとすぐにわかったりしたのは拘っていたからか。
「おのれ……俺はエウリュビアを殺して俺が上だと証明するのだ。邪魔はさせん! ――ぐぁっ!」
アポカリプスが自ら動いて抵抗しようとした瞬間、右腕が捻り切れる。そして、アストが姿を見せる。
「やはり母がらみでしたか。道理で仕掛けが壮大なわけです。それだけやっても勝てるとも思えませんが」
俺が今よりレベルアップしても勝てないとかどれだけ強いんだアストのお母さん。
「ぎぎっ、貴様、あのハイエルフの息子か!」
「だいぶ手を焼かせてくれましたが、これで終わりです」
「ち、ちくしょぉおおーー!! これで終わりと思うなよ!!」
アストが首を撥ね、その光景に全員が息を呑んだ。
「終わった……の?」
リアンが恐る恐る尋ねる。
「半分な。あとはその球だ」
なるべくアストの方を見ないようにして答え、球体に視線を送る。
俺は中の人物に心当たりというか、確信があった。可能なら助け出したい。
俺が球を見つめていると、みんなそれを察したみたいだ。
「どうするんだ? シン」
「そうだな……『浄化』できればいいけど……」
人が入っても有り余る大きさだ。俺とリアンが『接続』しても足りるとは思えない。
……そうだ!
「リアン、複数人の魔力を繋げることは出来るか?」
「! うん、できると思う!」
リアンも俺の考えを察してくれたみたいだ。
「リョウ、力を貸してくれ」
「ああ! 任せろ!」
アストには万が一に備えていて欲しいし、こういうときはやっぱり親友の方が頼りやすい。
リョウも力強く答えてくれる。
「それじゃ、リアンも頼む。いくぞ!」
俺とリアンが手を繋ぎ、リアンは反対の空いた手でリョウの背中に触れる。
『浄化』! 『接続』!
球の中の靄が少しずつ薄れていく。俺の魔力はまだ減っていない。リョウの魔力から消費しているらしい。
「ぐっ」
4分の3ほど減らしたところでリョウが膝を突く。
マジか、思ったよりキツい。そう思ったとき――
「もっとわたしらを頼りなよ」「うんうん」「リアンちゃんヨロシク!」
「やれやれ、妾も忘れるでないぞ」
ミカたちにプレベールまでもリアンの背中に触れ、リアンが再び俺に『接続』させる。
「やっ……た!」
リアンが俺にしがみ付きながら安堵の声を上げる。
魔力が尽きた者から座り込んでいき、アスト以外の魔力をギリギリまで使ってなんとか『浄化』することができた。
「ありがとう、みんな」
割と危険な状況だ。すぐにアストに視線を送る。
「うん。完全に回復させるのは無理だけど……『マナアサイン』!」
意図を理解したアストは以前使ってくれた『ハイマナアサイン』の低級版らしい魔法で全員に魔力を少しずつ分け与える。
「あとは……『ハイヒール』!」
球の中の人物には回復魔法を掛けてくれる。
「む……? 俺は……?」
瀕死から回復した球の中の男が目を覚ますが、どうも困惑しているようだ。無理もない。
俺たちは無言で頷き合うと、その男との対話を試みるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ラスボス死亡・・・?




