第40話 突入
今プレベールの案内で地下へと続く螺旋状の隠し階段を下りている。リョウの彼女たちの戻りを待って、一通り状況を伝えたりしたから外は既に暗くなっているはずだ。
はず、というのは応接室から一度も窓のある場所を通らなかったからだ。
隠し階段というだけあって、全く人の手が入っていない。密閉されていたからホコリはなけいど、じめっとしていて明かりもない。そこをアストやリョウの特に魔力量の多い二人の『ファイア』で前後から照らしながら慎重にゆっくりと進んでいく。
先頭はプレベールとアストだ。それにミカたちが続き、その後ろを俺とリアン、最後尾にリョウだ。
「残ってたほうがよかったんじゃない?」
一段一段より慎重に下りるミカたち三人に声を掛ける。
三人はリョウの「行くだろ?」という問いに「当たり前!」と揃って力強く答え、結局一緒に向かうことになった。
ちなみに三人とも俺とリアンの結婚は祝福してくれた。
だけど、やっぱりこの世界に残るという選択肢は選ばなそうだ。
リョウは一夫多妻が認められるこの世界に残るのもアリだと考えていたみたいだけど、三人はさすがに家族や友人と離れているのは相当辛いようで、今はちゃんと帰れるから我慢している、という感じらしい。
「あ、まだわたしたちを足手纏いとか思ってるでしょ」
ミナが振り向いて反発する。
「いや、そういうわけじゃなくてさ」
「ミユ、あんたのアレ、見せてやんなよ」
ミナは俺の話は聞かず、横を向いてミユに何かを促す。
「うん。シン君いくよぉ。『治癒』バリアー!」
ミユはおっとりした口調そのままに魔法を発動する。
ん? 『治癒』はわかるけどバリア?
ミユの発動した魔法は俺の使うそれとは違い、薄い膜のようになって俺を包んだ。
「これは?」
「それはね、状態異常から守るバリアなんだよ。すっごいでしょ!?」
なぜかミユの魔法なのに胸を張ってドヤ顔をキメるミナ。
「でも、『勇者』って元々そういうの効かないらしいぞ?」
タバコの害すら弾く素敵な身体だ。そういえば最近あまり吸ってないな。ニコチン依存性すらなくなってるのかもしれない。
「ちっちっち。わかってないねぇシンは」
ミナは立てた人差し指を逆振り子のように振って俺の言葉を否定する。
「こういうこと。『凶暴化』! 『混乱』! 『鈍化』! どう?」
ミカが立て続けに俺に魔法を撃ってくる。しかし特に何も起こらない。
「プレベールさんに聞いたけど、『勇者』にも精神系の魔法は効くらしいんだよね。……で、効いた?」
相変わらずの調子でミナが説明してくる。なるほど、言いたいことはわかった。
「いや、なんともないね」
それだけじゃない。なんとなく頭の中がクリアになってる気がする。
「でっしょー? さっき、あんたが操られるかもって言ってたけど、これなら大丈夫なんじゃない?」
意外。うん、意外だ。
あの俺の予想を聞いてその対策を考えてくれてたのか。
確かに頭の中が俺一人になったような感覚がある。
もしかして……ナビ、もう一度初めての召喚以前に『勇者』がいたのか教えてくれないか?
(「はい。それより前には『勇者』はいません」)
やはり聞き取れた。前に聞いたときはよくわからない言語になってたのに。
これは期待できるな。良い意味で想定外だ。
「これの効果時間は?」
そういうことなら備えとして組み込もう。
「だいたい20分くらい。重ねて掛けても最後に掛けてから20分だよ。効果が上がるかどうかはわかんないや」
ミユに聞くと色々試したみたいでこれまた予想しなかった重ね掛けのことまで答えてくれた。
「じゃあ、地下室に入る前に念を入れて二回掛けてもらおうかな」
「わかったー」
俺の頼みをユルく受けてくれた。
「お喋りはそこまでじゃ。もうすぐ着くぞ」
プレベールの一言でみんなに緊張が走り、途端に静かになる。それまでは僅かにあった足音すらなくなった。
その言葉通り、それからすぐに螺旋階段を下り切る。ゆっくり下りたから時間はかかったけど、やはり深さとしてはそこまでじゃない。
そして、そこは人二人分程度だった階段の幅よりも広い空間になっていて、正面には横に五人並べるくらいの扉があった。
ここからは予め決めておいた通りに動く。
真っ先に部屋に入ってアポカリプスがいた場合に『転移』を妨害するアストが中央で鍵を使うプレベールの左隣に、逆隣に俺が立つ。
プレベールの後ろにはリョウとミナとミカ。一人だけ予定が変わって俺の隣にミユ。本来そこにいるはずだったリアンはアストの隣だ。視線だけで理解し移動してくれた。
まずはミカが前の俺とアストに『身体強化』のバフ魔法を掛け、合わせてミユも俺に『治癒』バリアを二重に張る。
準備が整い、アストの気配が消えたのを合図にプレベールが鍵を使用する。
この鍵も魔道具になっていて、魔力を込めて差し込むことで解錠するらしい。
その鍵が差された瞬間、俺と見えないアストで扉を開け放ち、一気に突入する。
「とうとう来たか。残念だが――」
そこにいたのは黒いローブを纏った長い白髭の老人。ローブのフードで表情はよく見えないが、その声には焦りはない。そして予想通りいきなり『転移』しようとしたようだが……
「させませんよ」
姿は見えないが、アストがその老人の腕を掴んだようだ。老人の右腕が不自然に持ち上がる。その時、フードが外れ、白髪の頭と皺皺の顔が露わになる。
そこにいるのがわかっていて、声も聞こえるのに姿を認識できない。アストの恐ろしさを改めて実感する。
そして、そうなればもはや『転移』で逃げることはできない。
「ぐっ……なにものだ!?」
『転移』が失敗し、焦りを見せた老人。
「ようやく見つけましたよ、魔王アポカリプス」
やはりその老人がアポカリプスらしい。
アポカリプスは誰何するが、当然アストは答えない。
「俺を知っている!? 貴様、ハイエルフか!」
アポカリプスを知るほどの長寿と認識阻害という情報だけでその答えに辿り着くあたり、油断ならない相手のようだ。
アストが押さえているうちにと、周囲を見回す。例の魔道具がないか確認する為だ。
そこで目にしたのは、確かに魔道具らしきものだったけど、俺の予想を遥かに超えるものだった。
「これは……」
魔道具らしき半透明な大きな球体の中に人影らしいものが見える。半透明なのに人影しか見えないのは、中に靄が充満していたからだ。
「これが何か説明してもらいましょうか。あの靄の溜まった球と中の人らしきものは何です?」
アストが掴む腕をさらに締め上げながら問い質す。
「ほう、アレが見えるか」
「勿体ぶらずに言いなさいよ!」
含みを持たせた言い方をするアポカリプスにミナが叫ぶ。
「ふふふ、良い機会だ。俺の研究の成果を聞かせてやろう」
「時間稼ぎならいらないぞ?」
「もうアレは完成している。あとは最後の仕上げをするだけよ。それには時間は関係ない。ここで仕上げるつもりはなかったがな」
どうやら最悪の一歩手前といったところらしいな。とりあえずあの球体に安易に触れるのはヤバそうだ。ここはアレがなんなのか聞いてから対処したほうがいい気がする。
「どういうことじゃ?」
プレベールも俺の考えに気付き、話を促す。
「お前だろう? そこの『勇者』を召喚したのは。感謝するぞ」
そう切り出し、アポカリプスは計画の全てを語り始めた。
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ラスボス・・・戦?




