第4話 魔王の城を追い出される日が来ました
そういえばナビは暴走の原因はわからないのか?
(「はい。申し訳ありません」)
いや、謝らなくていいよ。そもそもわかってるなら俺は召喚されてないだろうし。
ちなみにナビの知識ってどういうものなんだ?
(「過去も含めた『ナビゲーター』所有者の知識の集合体とでもいいましょうか。その中から事実と照らし合わせて最適解を導くのです」)
なるほど。学習型AIみたいなものか。
いや、事実かどうかの知識の取捨選択が自力でできる分ナビが有能か。
そしてそのナビが知らないってことは暴走は初めて起こったってことか。
(「そうです。過去、森以外の動物を含めても初めてのことになります。ところで、その『ナビ』というのは?」)
ああ、『ナビゲーター』だと長いだろ?
(「かしこまりました。私は『ナビ』ですね」)
おお、そういうところも学習か。過去に略して呼ぶやついなかったんだな。
ちなみに『ナビゲーター』の所有者は今俺と魔王以外にいるのか?
(「いいえ、現在はその二名のみです。歴史上複数人が所有するのはこれが初めてになります」)
『複製』持ちの魔王だから起こったことか。
じゃあ、魔王のナビとは繋がってたりするのか?
(「いいえ、元の知識のみ共有して完全に分岐しております」)
そうか。それでここの状況とか知れたらいいなと思ったけど、そう都合よくいかないか。
それと、もうひとつ聞きたい。
俺たちは地球に帰れるのか?
(「はい。帰還手段は存在します。ですが、現在それを行っても失敗する可能性が高いです」)
やっぱりな。それって、暴走の原因が理由だったりする?
(「おそらく、としか言えません。現在転移系に何かしらの阻害が掛かっていると思われます」)
どういうこと?
(「召喚するのは元々一人のはずでした。その通りであれば魔王プレベールがあそこまで消耗することはなかったと思われます」)
もしかしてリョウたちが俺に巻き込まれた感じなのか?
そうならここでなるべく外に出ないようにしてほしいな。まぁ、呼ばれた理由的に無理だろうけど。
朝からナビと色々確認していると、プレベールがやってきた。いつもの食事は持ってきていない。
ということは……遂に、か……。
「シン、すまぬ。もう抑えきれぬようだ」
「やっぱりそうか。これ以上居てリョウたちの扱いが悪くなっても嫌だしな」
「安心せよ。それだけは妾が許さぬ。約束しよう!」
「頼む」
俺が今頼れるのはプレベールだけだ。
「では、付いてくるのじゃ」
プレベールに連れられ入り口へと辿り着いた。途中誰一人出会すこともなく……。
「見送りはプレベールとリョウたちだけか。嫌われたもんだな」
「なんだよ。俺たちじゃ不満か?」
ああ、強がりだ。こんなリョウは久しぶりに見る。
前に見たのはいつだっけか。
「いや、十分だよ。来てくれてありがとう」
「ちょっ、何お礼なんて言ってんの!」
「そうだよ、縁起でもない」
「シン君、死んじゃダメだからね」
ミナ・ミユ・ミカが柄にもないことを言ってくれる。やっぱりここの状況は聞いてるんだな。
「死ぬわけないでしょ。ちゃんと戻ってくるよ。地球に帰らないとな」
「おう。一緒に帰るぞ」
リョウと拳を突き合わせてニッと笑う。
「じゃあ、行ってくる」
重そうな両開きの扉が片方だけ開き、俺が出るとすぐに閉まった。動かしてるのも魔族か。
(「扉から離れて下さい!」)
えっ?
扉に振り返り見つめているとナビが無機質ながらも焦った声で告げ、それに従い後方に倒れながら飛ぶと、立っていた場所に岩が落ちてくる。
あぶねっ!
「チッ外したか」
「どうせこの先で死ぬ。捨ておけ」
そんな会話が聞こえてきたけど、見上げた時にはその姿はなかった。
ビックリしたぁ。ナビがいなかったら今ので死んでたぞ。助かった。
(「いえ。ですが今のは魔法でしたので察知できました。あれがただの岩であれば私にも探知できませんのでご注意ください」)
おお……死なないって言った直後に死ぬとかシャレにならねぇぞ。
(「しばらくはモンスターの気配もありませんのでそのままお進みください」)
ナビに従い、朽ちた町を抜けて森に入る。
それじゃあ、魔族が『勇者』を嫌ってる理由を教えてくれるかな?
(「結論だけを言えば、『勇者』に攻められたからです」)
まぁ、そんなとこだろうな。
その攻めてきた理由はわかるのか?
(「森の動物が魔力を持つ魔族を襲わない、というのは聞かれたと思います。では魔族以外はどうでしょう」)
もしかして、人間族は魔力を持たず、襲われる?
(「その通りです。それでその動物と共存する種族が――」)
なるほど。魔族が動物を使役してると思われたってことか。
(「はい。ですが、本来なら人間族に現れる『勇者』では太刀打ちできない動物もいる森をその『勇者』は抜けてきました」)
それって、もしかして……。
(「ええ。召喚された『勇者』でした」)
だから俺があんなに嫌われてたわけか。
いや、ちょっと待て! それ誰が召喚したんだ? 人間族は魔力を持たないんだろ?
(「その問いには推測が必要になりますがよろしいでしょうか?」)
ああそうか、ナビは「事実を基にした最適解を伝える」んだったな。構わないよ。
(「まず、召喚の歴史は浅く、約千年前、最初の召喚者は魔族だったと思われます。これは当時の私が知り得た情報からの推測ですが、可能性としては一番高いです」)
まぁ、他に魔力を持つのがどういう種族か知らないけど、その仮定で進めてくれ。
(「その後、その時召喚された者は召喚者から離れ人間族の中に入っています。また、その者は強い魔力を有しており、その子孫にその魔力を受け継いだ者が現れるようになりました」)
なるほど、魔族を襲った『勇者』はその子孫から召喚されたんだな?
(「そうです。自然な流れというか、強い魔力を持つ人間は「人間を使う」側になっているのでそういう手段に出たのでしょう」)
それでその『勇者』はどうなったんだ?
(「聞くのはお勧めしません」)
その答えでわかったよ……。プレベールに……殺されたんだな……。
(「……はい」)
そうか……。『勇者』に攻められたと予想した時に気付くべきだったな……。プレベールたちが生き残ってるってことはそういうことじゃないか。
そのときプレベールは召喚された『勇者』だと知っていたのか?
(「……」)
そっか。知っていて尚召喚に頼ったんだな。
(「あちらの私が提案したとき、本当に悩んでおりました。ですが、貴方に信じてもらえたことを大変喜んでもおりました」)
そうか……どんな思いで俺を抱いて抱かれたんだろうな……。
(「それは戻った時にご本人に確認しましょう」)
そうだな。ありがとうナビ。
それに……あの城にいるうちに聞かなくてよかった。
よし、今後のことを考えよう。
(「まずは森を出れるだけの力をつけましょう。そして森の周囲の町を回るのが良いでしょう」)
わかった。と言っても、俺、戦えるかな?
運動は得意だけど昔野球やってたくらいしかまともな経験はないぞ。
(「貴方は『勇者』ですので成長は早いはずです。まずは弱いモンスターに誘導しますのでそこからやってみましょう」)
任せた!
気合いを入れて森をナビに従って進むと、ウサギのモンスターと遭遇した。
お読みいただきありがとうございます。
次回、初戦闘です。