第38話 親友を待つ『魔導師』
今回も◇以降で視点が変わります。
アストが今日中と言ったわけが夜になってわかった。
「大丈夫。今度は私が手を繋いでおくからね」
そう言ってリアンは後ろから抱きしめてくれる。
それは野営をしているときだった。
火を囲んで食事を済ませて落ち着いたとき、急に涙が出て止まらなくなった。
「あれ……? なんで……?」
「シン君は身近な……というわけでもなかったかもしれないけど、心を許した人の死は初めてなんだろう?」
確かに……両親は元気だったし、地球でも経験はない。長く生きているとそういうこともわかるんだろうか。
リアンに包まれて少しずつ落ち着いてきた。
「ありがとうリアン」
「私もそうだったからわかるんだ」
リアンも大事な人を立て続けに失ったんだもんな。今でも眠っていて繋いだ手を強く握ってくることがある。
そんなリアンの優しさが身に染みる。
「今夜は完全に落ち着くまでゆっくりするといいよ。本格的に進むのは明日からで十分だから」
アストも気遣ってくれる。今まで会った時に見せていたような軽薄な態度はない。
その夜は今までと違う意味でリアンと手を繋いで眠った。おかげで俺も心穏やかに眠ることができた。
そして、リアンが感じていた安心感を俺も知ることができた。
翌日から魔王城を目指して進む。俺は二人のように森の中で気配を消すことはできないから、初めてこの森に出たときのようにナビに任せてモンスターの少ないルートを選んで行った。
◇◇◇◇◇
シンたちが魔王城を目指し始めて数日後、場所は魔王城西側外壁。そこには補修・補強作業を行う魔族が数人とそれを外向きに囲んで護衛する男女四人がいた。
護衛の男女はシンと共に召喚されたリョウとその彼女たち、ミナ・ミユ・ミカだ。
彼らは魔王プレベールがシンと交わした約束により、未だに森の奥へは入っていなかった。
ただし、なにもしていなかったわけではない。
せっかく召喚した戦力をすぐに失うわけにはいかないこと、外壁の損傷が大きいことを理由にプレベールは外壁の補修と同時に護衛により彼らに経験を積ませることを提案し、ほかの魔族たちも彼らが外に出た後の守りの不安からそれを受け入れた。
実際、城そのものはプレベールの結界に守られているものの、外壁地上部分は幾度となくモンスターの襲撃に遭い、かなり損傷していた。
リョウたちは一面あたり数ヶ月がかりとなったその作業の護衛で近くに現れたモンスターと戦い、少しずつこの世界に馴染んでいった。
その途中、リョウはレベルアップにより覚えた魔法から自分が魔族たちの言っていた『魔道士』とは違うことに気付いていたが、それを彼女たち以外に話すことはなかった。
そこでの待遇は悪くなかったが、やはり親友を追い出した魔族たちを心から信用することができなかったからだ。それは親友が信じたプレベールでも同じことだった。
それでも、プレベールには一定の感謝はしていた。
ちゃんとシンとの約束を守り、自分たちに無理はさせず、出来る限りシンが戻るまでの時間を稼いでくれようとしているのが伝わってきたからだ。
そして、それはつまりプレベールはシンが戻ってくると信じている。ならば自分も負けていられない。リョウはそう思い、再会の時には今度こそ自分も親友の力になれるよう、真剣に魔族の護衛を果たしていた。
その結果、リョウたちはプレベールすら凌ぐ力を得ていたが、そのことは自分たちだけにしまっておいた。
それは単に経験では敵わないということがわかっていたからで、万が一の場合に隙を突く為になるべく警戒されないようにしたかったからだ。
「モンスター、来たよ!」
西向きに立ち、自分の正面に猪モンスターの姿を確認したミカが声を上げる。
「よっしゃ、いつも通りいくぞー」
リョウがそれに答える。
『防壁』!
まずは『赤魔術師』のミカの魔法で透明な壁が現れて猪モンスターの突進を止める。
余談だが、外壁の破損の原因のほとんどがこのモンスターの突進によるものだ。
非力な魔族にはこれを止める手段がほとんどなく、ミカの使った『防壁』すら使える者がいないのが現状だった。
そういう意味では、彼らはシンに巻き込まれた形だったとはいえ、魔族には必要な力を持っていたと言える。
それ故に、魔族からはプレベールの召喚は彼らを喚ぶものだったと信じられていた。
「次はわたしね!」
『ウォータ』!
『黒魔術師』のミナのシンたちと同じウォータージェットが猪の頭を貫く。
そう、リョウたちもこの原理に気付いていた。そして、基本的に戦闘はこの二人で行い、万が一の場合に残った『魔道士』リョウと『白魔術師』ミユで回復を担当している、と思わせていた。
実際にはリョウがミナへの『魔力ブースト』によるバフやミカと同時に『防壁』を掛けていたり、あまりにすることがないミユは独自に『治癒』を応用した耐性バリアの展開ができるようになっていたりする。
リョウが下級魔法で参加してもいいのだが、以前見られていないときに試したところ、ミナの魔法と明らかに威力が違ったのだ。それ以降、リョウが攻撃に参加するのは出来る限り避けるようにしていた。
幸い、それが必要になるモンスターとは出会うことなくこれまで護衛をこなすことができていた。
そして――。
「あ、あれ!」
再び自分の正面に影を見つけてミカが指をさして叫ぶ。
その声にほかの三人もミカの指の先へ視線を送る。
「あれは……シン君?」
最初にその姿を捉えたのはミユだ。
「え? 女連れ?」
意外そうな反応をみせるのはミナ。
「なんだっていい! シンが無事だったんだ! おーい!」
遂に再会することができた親友に手を振って叫ぶリョウ。
こちらに気付いたシンも向こうから手を振って駆け始める。
リョウたちも駆けつけようとして、作業中の魔族の男に呼び止められる。
「おーい、勝手に離れんでくれ。俺たちは戦えないんだ」
作業をしているのは非戦闘員だ。とはいえそんな遠くへ離れるわけではないのだが。
はじめは「こんな女子供に守られて情けない」と思っていたミナも結局一度もそれを声に出したことはなかった。彼らを護衛するという仕事があるからこそ自分たちは危険な目に遭わずに済んでいるとも言えるからだ。
それに、最初の頃はモンスターが現れる度に手を止めていた彼らが今では全く動じずに作業を続けている。その姿を見て、この世界では女だとか子供だとかよりも天職によって強さも役割も異なることを実感していた。当然、彼らから向けられる信頼への感謝も……。
「リョウ、ここは私たちだけで大丈夫。行ってきて」
だから彼女は向かって来ている恋人の親友との再会はリョウに任せて、自分は自分の役割に専念することにした。
「「うん」」
ミユとミカもそれに頷いてリョウを促す。
「悪いな、みんな。行ってくる!」
その場を彼女たちに任せてリョウは駆け出す。待ちわびた親友との再会の為に。
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