第36話 凶刃
最後だけ視点が異なります。
「それで、シンはこのあとどうするのじゃ?」
まずは南西端へ行くことだな。そこに魔道具があるようなら破壊。それからどっちを優先するか、だよな。
テミス王女のクーデターか魔王城か。
アストとはペリプル村で合流する予定だったけど、先生もいるしな……。一緒にこの先まで行ってもらって一度会って相談するのがいいか。テミスと会ってくれるかもわからないしな。
「とりあえず用事を済ませようと思う。それが終わったらもう一度ここに来る。それでいいか?」
「わかった。待っておるぞ」
「僕たちはここで待たせてもらおうかな」
何も言ってないから先生とソウは残ろうとする。二人にも王女にも説明が必要になるよな。
「いや、先生たちにも付いてきてほしい」
「何をする気なのじゃ?」
やっぱり気になるよな。そりゃそうだろう。
「ああこれからの用事に関係あるわけじゃないよ。その後にアストと合流しようと思って。本当は先生はペリプル村にいてそこで、っていうはずだったんだけど、今一緒にいるしね。テミス王女のことも話そうと思うけどいいよな?」
あ、これあのガラス玉の説明も必要か?
「それはいいけど、どうやって連絡をとるつもり?」
おっと、先生から聞いてくるか。
「こっちの位置を知らせる魔道具があるんだ。これも秘密で頼む」
「わかった。しかし……私のことを信用してくれるかの……?」
弱気になる姿は初めて見せたな。人間族として負い目を感じているらしい。そんな性格には見えなかったんだけど、ハイエルフという存在はそれほどまで影響力があるのか。
逆に言えばアストが味方についたとなれば王位に就けるチャンスが出てくるな。
「そこは俺たちの説得次第だな。先生、ソウどうかな?」
まずは二人がテミスを信用してくれないと始まらない。ソウ的には同胞の仇は王になるとは言え、テミスも同じ人間族だ。
「ワタシは最悪ここで暴れるつもりで来たんだけどね。あんたらの話を聞いて考えは変わったよ。シンが推すってんならワタシはシンを信じることにするよ」
おお……めちゃくちゃ嬉しいこと言ってくれるな。って、暴れる気だったのか。話が変な方向にいかなくてよかった。
「うん、僕も彼女が王位に就くのは賛成かな。実は少しだけ知ってたしね」
そうか、先生はこの街にも詳しかったもんな。テミス王女のことも知ってたんだな。
二人とも異存はなさそうでよかった。
「そういうわけだ。ちゃんと説得できるようにお祈りでもしててくれ」
「そうじゃな。ここで吉報を待つとしよう」
付いてくるとか言い出しそうだったけど、案外弁えてるんだな。思ったよりあっさりだったけど、予定通り主導権はこちらにあると言えるな。アストが加われば尚よし、だ。
「それじゃ、また今度な」
「待て。今夜くらいは泊まっていくがよい。食事も用意させよう」
そのまま宿に戻るつもりだったけど、呼び止められてしまった。せっかくだし、好意に甘えようか。
「わかった。世話になろう」
「なら、僕は宿に話をつけてこよう。明日出発でいいんだよね?」
「そのつもり。よろしく言っておいてくれ」
土地勘のある先生に任せて俺たちは部屋に案内された。
俺とリアンは同室にしてもらった。
「あー緊張したぁー」
ベッドに横になって思いっきり手足を伸ばすリアン。
ずっと静かにしてたもんな。人間族の王都で育ったリアンには相当気を遣う状況だったみたいだ。
「お疲れ様」
隣に腰掛け、頭を撫でる。
ってか、このベッドも凄いな。柔らかいだけじゃなくて適度な硬さ。たぶんリアンをこのまま放置したら寝てしまうだろう。
「シンは凄いよね。王女様とあんな風に話せるなんて」
まぁ、日本じゃ皇族と話すなんてあり得なかったし、正直距離感がわからないというか、偉い人というのはわかってても実感がなかったんだよな。歳も近そうだし。
バイトはしたことある……っていうか今もだったんだけど……クビだろうなぁ。いわゆる「アットホームな職場」ってやつで居心地よかったんだけど。あ、テミスに対する言葉遣いもそれのせいかも。
「そうでもない。この世界に生まれてたら遜ってたと思うよ」
「いっそのことシンが王様になってもいいんじゃない? って思ったよ」
「さすがにそれこそ器じゃないよ」
急にそんなこと言われても困る。生徒会長っていう上に立つ役職はやったけど、あれはやりたいと思ったからだ。知ってる学校のことだったから役に立ちたいと思えた。
だけどここはよく知らない世界でそこまでの責任は負えない。俺がやるのはリョウたちが地球に帰れる環境を整えること。それが済めばリアンと住みやすいように……あれ?
それって王様になったほうが早いような……いやいや、絶対王政をそもそもやめさせたいんだ。上に逆らえない社会だと秩序は保たれるだろうけど……もう少し政治も勉強しておけばよかったかな?
うん、やっぱり無理だ。テミス王女に任せよう。
先生が宿から戻ると食事を用意された。この世界に来て最高の料理のフルコースだった。流石王族。
美味い肉は『浄化』したもので経験してたけど、それ以外の食べ物でもそれ並みのものができるんだな。しかも『浄化』抜きで。
そして部屋に戻る前、テミスから「部屋を汚すなよ?」と釘を刺された。しないから。
そもそもそう言うなら一緒に風呂に入れるな。
そう、食事の前に風呂に、と案内されたんだけど、まさかの混浴だったんだ。お互いに見たことはあったとはいえ、リアンなんか顔が真っ赤だった。俺? 反応したモノを誤魔化すのが大変だったよ。ソウとは別だったのがせめてもの救いだ。
翌朝、俺たちは朝食を頂いたあと街を出て南西に向かった。
◆◆◆◆◆
シンたちが街を出たあと。
「本当に私が王に……父上の目を覚まさせてやるのじゃ」
屋敷に残ったテミスが呟く。部屋にはテミスと騎士団長しかいない。
「それまで私を守ってくれよ、団長。シンたちとまた会うのが楽しみじゃ」
シンがテミスを気に入ったように、テミスも本当にシンを気に入っていた。
「王女殿下、ご心配には及びません」
兜で表情はわからないが淡々と答える団長。
「ふふ、団長さえいれば私の安全は約束されておるからの」
テミスは同じように団長を信頼している。それもそのはず、テミスが王都からこの都に住むようになってからずっとテミスを守ってきたのだ。
「いいえ。貴女はもう先のことなど考えなくてよいのです」
「な、何を言っておるのだ?」
団長の言葉の意味を理解できず困惑するテミス。
そんなテミスと正面から向き合う団長。その見慣れない雰囲気にテミスは一歩後ずさる。
「すみません。貴女にあのお方を脅かされるわけにはいかないのです」
「な……なに……を……ごふっ」
盛大に血を吹き出すテミス。その腹部には団長の剣が突き刺さっていた……。
「さて……全員撤収だ。王都へ帰還する」
団長がテミスの腹から剣を抜きそう告げると、執事長ほか、屋敷の者ほとんどが部屋に集まる。いない者はテミス同様既に殺されていた。
「ハイエルフか……やっかいなことになりそうだ……うぐっあああああ!」
団長がハイエルフについて呟いた瞬間苦しみだす。
「まさか……!」
執事長がハッとして『鑑定』する。呟いた言葉は聞こえていないようだ。
「ぐっ、シンとかいうあの『勇者』。本当に抜け目ない」
シンはアストのことは秘密に、ということに『誓約』を掛けていた。これにより、辛うじてハイエルフの存在を他の者に知られずに済んだ。
だが、シンの切り札となるはずだったテミス王女は悲願を叶えることなくその生を終えることになった。
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