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第35話 『魔導師』と『魔道士』

「その歴代の王のこと聞かせてくれないか?」


 なにかヒントが見えたような気がするけど、ふわっとしすぎてわからない。


「そうじゃな……。ハッキリ言ってしまえば愚政じゃ。それを少なくともひとつ、どの王もおこなっておる」


 なんだ? なにかが引っかかる。


「それって具体的には?」


「『勇者』を管理すると言い出したのも王じゃ。そしてその王は王族に『勇者』の血を入れたと言われておる」


「血を?」


「子に孕ませただの『勇者』を孕ませただの伝わっておる。さすがに古くての、詳しくはわからん」


 確か最初に召喚された『勇者』は人間族の国に入ったんだよな。それを受け継いだ子孫が王族に? いや、そもそも『勇者』は遺伝するのか? 魔力持ちは稀に生まれるって聞いたけど。


(「私が確認している『勇者』で王族に入った者には召喚された者とその血縁の者以外にもいます」)


 つまり単純に『勇者』が必要ってことか?

 そうだ。初めて召喚が行われる以前には『勇者』っていたのか?


(「◯◯×◯%÷#」)


 え? なんだって?


(「◯%÷#」)


 ダメだ。わからん。なんか嫌な予感しかしないな。


「ちなみに、王ってどうやって決まるんだ?」


「基本的には先代が指名する。今回の私しようとしているようにクーデターを起こして成り代わることもあったようじゃ」


 考えろ。もうちょっとでなにかわかりそうなんだ。ナビがバグったのも絶対なにか関係がある! なにか見落としてることはないか?


「うーん……その指名がそもそもおかしいっていう記録とかないか? もっと別のふさわしい者がいた、とか」


「さすがに過去の人物像まではわからぬ。じゃが、今代においては間違いなくこの都のおさ――父上の兄じゃな――の方が王にふさわしいと私は思う」


 そこまで言い切れる程か。だけど、それなら王に選ばれるのは資質だけじゃないってことだよな。確信するにはちょっと弱いけど。


 それとひとつ確認しておきたい。


「『勇者』っていつからいるのか知っているか?」


「ん? 確か書物に登場するのは――――じゃ」


 肝心なところが聞こえない。テミスの口の動きも日本語じゃないからわからない。


 だけど、わかったことがある。念の為確認だ。


「リアン、今テミス王女がいつからって言ったか聞こえたか?」


「う、うん。――――だって」


 やっぱり。リアンには聞こえていて、俺にはリアンが言った言葉でも聞こえない。つまりナビのもバグったんじゃなくて、おかしいのは俺だ。

 たぶんそれを俺が口にしても日本語が出てしまう気がする。


 繋がってきたな。おそらく二人が言っているのは「約千年前」で、ナビの答えはそれ以前にはいない、ということだろう。


 召喚した魔王は『勇者』になにかをした。いや、召喚そのものになにか相手に干渉するようなものが組み込まれていた、と考えるのが妥当か。それで以降の召喚でも同じ状態で召喚される。

 おそらく召喚そのものが「地球から」召喚するだけでなく、『勇者』を召喚するものなはずだ。『勇者』に変えてしまうのならリョウたちも『勇者』にならないとおかしいからな。


 俺もときどき思考がおかしくなるのは、『()()()()()何かしらの干渉を受けている、と予想する。


 特に最初の『勇者』はモロに干渉を受けてたんじゃないか? それこそ操り人形のように。そして王族に取り込まれる為に人間族の国に入った。


 アストが言うには特に召喚する理由らしき事は起こっていないらしいからな。召喚した目的がそれだったんじゃないか?


 そして、『勇者』の血を引く者の中で最も干渉を受けやすい者を王に指名し、操る。


 操られた王は愚政を行う。するとどうなる?


 反発が起こる。


 つまり、モヤの原因だ。


 確実に操れる者を確保しつつ、定期的に愚政を行なっていつでも爆発させられる世界情勢を作っておいて、例の結界の魔道具が完成したところで畳み掛ける。テミスの言い方だと今の王の愚政はひとつじゃなさそうだしな。それで今の魔の森の完成だ。



 と、予想を並べて繋げてみた。我ながら穴だらけだとは思う。だけど、アストならこの穴も埋められるかもしれない。


 それにもし俺も何かしらの干渉を受けてしまうとなると……魔王アポカリプスの前では俺もアストも無力かもしれない。


 ん? いや待て。アストは本当に『勇者』か?

 その予想でいくと千年以上生きてるアストが『勇者』であるはずがない。ああもう、二人の言葉が聞こえないのがもどかしい。


 この際だ、聞いてみよう。


「先生、アストって『勇者』なのか?」


「え? 僕は『()()()』って聞いてるよ」


 は? 全然違う……って言うか、ちょっと待て。


「『()()()』って下級魔法しか使えないんじゃないのか?」


 『転移』とか使ってたぞ? さすがにアレが下級じゃないのはわかる。


「いやいや、『()()()』は光属性以外のあらゆる魔法を使える天職だよ?」


「あー、シンたち。良いか?」


「え? なんだ?」


 テミスが急に割り込んできた。


「『まどうし』と『まどうし』。お主にはどう聞こえる?」


「ん? 同じだろ?」


「なるほどね」


「うむ」


 いや、二人で納得されても困る。


「わかっておらぬようじゃな。私の口をよく見ろ」


 そう言って口を指差してゆっくりと言葉を紡ぐ。誘導されるままその唇を注視する。


「『魔導師』と『魔道士』じゃ」


 !?


「同じに聞こえるけど口の動きは全然違う。つまり……」


「そう、それぞれ別の天職じゃ」


 もしかしてリョウが言った『魔導師』が『魔道士』に、俺の『魔道士』は『魔導師』に翻訳されてたのか?


 同音異義語の誤翻訳とか……勘弁してくれ……。


「なぁ、先生、アストって信用して大丈夫なのか?」


 不安だ。


「それは僕が保証する。安心していいよ。長く生きすぎてだいぶ捻くれてるけどね」


 ああ、先生も苦労したんだな。表情でわかる。

 まぁ、確かに『勇者』だと肯定はしてないし、光属性魔法を使ったわけじゃないな。俺の早とちりといえばそれまでか。揶揄からかわれてるみたいでシャクだけど。


 先生がこう言ってくれるんだから千年分の知識はアテにさせてもらおう。


「のう、シン。アストとは何者じゃ?」


「ハイエルフだよ。エルフの里に向かった時に知り合ったんだ」


「なに!? 実在したのか……」


 意外だな。てっきり存在くらいは知ってるものかと。


「あ! これは秘密にしておいてくれ。騎士団長さんも頼む」


「わかった。団長、よいな?」


「はっ!」


 危ない危ない。普通に信用して話してた。別の騎士たちは外に出てもらっていてよかった。

 アスト……実は近くにいます、なんてことないよな?



 それにリョウが『魔導師』だとしたら……実はかなりの戦力になるんじゃ……いや、できればリョウたちはこれ以上巻き込みたくないな。召喚されたこと自体おそらく俺に巻き込まれたんだし。



 離れてからかなりの時間が経ってしまった親友を思い、改めて申し訳ない気持ちが湧き上がるのだった。


お読みいただきありがとうございます。


ようやく第1話の伏線回収です。

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