第34話 唐突に断罪される側近
俺の後ろにいるソウに気付いたテミスの顔が曇る。だが、口を開いたのは俺たちでもテミスでもなかった。
「バカな! 来ていたのは獣人だろう!?」
テミスの玉座の隣に立つ中年の男だった。
(シン君、許可が出るまで喋ったらダメだからね)
言い返そうとした俺に先生がそっと小声で教えてくれる。
「大方スキルで化けているのだろう!? おい、早くこいつらを『鑑定』しろ!」
その男が一緒に入室した執事長に叫ぶが、「次から次へとうるさいやつだな」と思ったのは俺だけじゃなかった。
「うるさいのう。『鑑定』ならとうに済んでおる。何も言わぬのがその姿が本来の姿であるという答えじゃろ?」
テミスが問いかけると、「はい」と一言頭を下げて答える執事長。
「さて、シンよ。どうやったのか聞かせて貰おうか?」
これは喋っていいってことだよな?
「その前にエルフに証言させたら里を出てはいけないという掟などないと認めてもらえますよね?」
「はて、そのような約束――ぎゃぁぁああ!!」
いきなり『誓約』を無視しようとしたな。全身に激痛が走っているようだ。
「お、王女殿下!」
一段下から騎士姿の男が焦った声を上げる。
「はぁっ、はぁっ、シン……貴様私に何をした?」
キッと睨みつけながら問いただす。
「ただ約束を交わしただけですよ」
スキルを使ったということを除けば本当だ。
「お前…………そうか」
どうやら俺の口の動きに気付いたみたいだな。
「貴様、王女殿下に無礼な! 騎士ども! 捕らえてしまえ!」
隣の男がまた叫ぶ。しかし騎士は動かない。
「うるさいと言ったであろう? 私の騎士を何故お前が動かすのじゃ?」
かなり怒気の篭った声を放ちながら隣を睨みつける。
「う……いや……」
必要以上に挙動不審になり視線を泳がせる男。
「知っておるぞ? お前が勝手に騎士を動かし獣人を脅しておるのをな」
「そ、そんなことは……」
「バカめ。前回の視察で獣人たちは全て話してくれたぞ? だいぶ私腹を肥やしたようだの?」
なんだなんだ? ちょっと予定にない展開なんですけど!?
「も、申し訳ありません!」
おいおい、土下座とか認めるようなもんだろ……。
「団長、この部屋は汚すな」
「は!」
一段下にいた騎士が団長だったのか。それもそうか。
男は団長に外に連れ出されていった。似た光景を前にも見たな。もしかしてあのときの騎士があの男の手駒だったのか……?
「すまぬな。シンたちを利用させてもらった。ああいう奴は私といるとなかなか問い詰めるきっかけをくれぬのでな」
「もしかして……」
「バッチリ『鑑定』に出ておったぞ。抜け目のない奴め」
『誓約』を掛けていたのはバレていたのか。それにしても苦痛が来るのをわかっていてそれを無視しようとするとは。肝の据わった王女様だ。
「ああ、邪魔者はいなくなった。楽にしてよいぞ。話をしようじゃないか、異世界の『勇者』よ」
「話が早くて助かるよ、テミス王女」
「くくく、やはりお前は面白い。エルフを連れて来なければ私の下に付けようと思っていたのだがな」
おっそろしいこと言うな。さすがにそれで喜ぶ性癖は持ってないぞ。
「残念ながら俺の方が上手だったみたいだな」
「仕方あるまい。お前の望みは掟のことだけかの?」
意外とあっさり認めたな。まぁ、『誓約』のこともあるしな。
「だけ、というか、エルフの尊厳の回復まで頼みたいんだけど」
テミスには変な駆け引きよりも直球勝負のほうが良さそうな気がする。
「なるほど? それはそこにいるハーフエルフも含めて、じゃな? うーむ……」
これだけで奴隷になったハーフエルフの解放のことまで思い至っているようだな。本当に話が早くて助かる。
とはいえ、難しいのは百も承知。こちらも出せるカードは出そう。
「必要なら俺の"力"も貸そう」
「お前にそれだけの力があるのか?」
突然背後から声が掛かる。振り向くと騎士団長が戻ってきていた。ていうか、鎧に返り血付いてるんですけど。せめて拭いてこいよ。
「血が付いてますよ」
瞬時に団長のそばに移動し、胸元に残った血を拭き取る。軽いデモンストレーションだな。
「なっ」
団長は驚いてくれたみたいだけど、テミスは違った。
「なるほどなるほど。シンよ、私は王になれるか?」
「なってくれなきゃ困るな。器じゃないとかいうなよ?」
俺にとっても王女は切り札だ。最低でも今の王に近付けなければ意味がない。
「むぅ……なぜそこまで私を推す?」
「テミス王女しか王族を知らないからな。というと失礼だな。王女を気に入った、って理由じゃダメかな?」
「ほ、ほほう」
わざとらしく顔に手を当て喜ぶ。
「あ、女としてじゃないぞ? 嫁はリアンがいるからな」
「ふぇっ?」
ずっと黙っていたのに名前を呼ばれて焦るリアン。大丈夫、そのままでいいから。リアンの肩に手を置くことでそれを伝える。
「なんじゃ……」
「いじけるなよ。本気じゃないくせに」
嬉しがっているのは本音っぽいけど。
「ふん。お前を下に置きたかったというのは本当じゃがの。そうなっていたなら好きにさせてもらうはずじゃったのに」
「そりゃ危なかったな。それより、テミス王女はエルフの里が滅んでることは知ってたんだよな? 誰の指示かはわかるのか?」
そろそろ本題に戻ろう。
「うむ、それでお前は手ぶらで戻ってくるはずだったのじゃがの。誰がという証拠はない。ない……が、おそらく父上――現国王じゃろうな」
やはりか。
「なぜそう予想したのか聞いてもいいものか?」
「正直私にも奇行としか思えぬ。じゃが、父上……いや歴代の王となった者にはそういうところがあったのじゃ」
歴代の王? つまりずっと昔から……例の魔王と何か関係が……?
自分では答えは出せそうにないので、更にテミスの話を聞くことにしたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
急に短編を書きたくなって昨夜投稿しております。(https://ncode.syosetu.com/n6670gn/)よかったら読んでみてください。
またこちらに集中します。




