第32話 また出発
今回途中から場面移動と共に視点が変わります。
◆以降は三人称視点になっています。
「しん~こころこぉ~?」
べろんべろんに酔っ払って眠っていたリアンを宿屋に連れて帰ってきたところで目を覚ました。
「宿屋だよ、リアン」
「やろやかぁ~しゅるぅ?」
「しないよ」
全く。この子は。
「ええ~なんれぇ~? わらしらちふうふらよぉ~?」
「リアンは"はじめて"はちゃんと覚えていたいんだろ? 今したら忘れちゃうぞ?」
「しょっかぁ~。しんはおぼえてくれてたんらね~」
「さ、俺も寝るからな」
「しん~、て、て」
「はいはい。ホラ」
リアンの隣に横になって手を差し出すと、抱きつくように両手で掴んできた。
「ねーねー、ちゅーして。ちゅー」
「キスだけだぞ?」
唇を重ねる。俺の理性が飛ばないように軽くだけだ。
「ありがとぉ~。おやしゅみぃ」
「おやすみ、リアン」
リアンは満足したみたいですぐにまた眠った。
イチがいるとはいえ、これまでの旅で話し相手がいるのといないのとでは大違いだっただろう。ここまでリアンがいてくれたおかげで孤独を感じずに済んだ。そして結婚までしてくれた。
この今目の前にある寝顔にどれだけ癒されたことか。
空いてる手でリアンの頭、そして頬を撫でる。
「ありがとうな、リアン」
小さく呟いて俺も眠りに就いた。
「それじゃ、シャーリー、店は頼んだよ」
「はいっ!」
数日後、俺たちはソウと先生を連れ立ってペリプル村を出た。
数日空いたのはソウと先生の仕事の引き継ぎを待ったからだ。
先生は元々狐獣人のポーという子に将来を見据えて教えていたらしく、割とすんなり済んだみたいだけど、ソウから引き継ぐシャーリーが大変だったみたいだ。
なにしろソウは俺と同じく『収納』持ちで、それを活かした飲食の提供をしていた為、勝手がまるで違ったからだ。
それでも、シャーリーは俺たちが一度村から離れてからずっと手伝っていたみたいで、同じ量は無理でもそれなりにこなせるようになっていた。
元々この村の住人は多少待たせたくらいで文句を言ったりしない。そこはソウも一安心といった感じだった。
そして、ソウは出発の何日か前に住人たちに正体を明かした。村を経つ理由を説明するときに自ら切り出したんだ。でも、住人たちはそんなソウをあっさりと受け入れた。やはり長い年月を一緒に過ごして築いてきた信頼はそのくらいじゃ揺るがなかった。
リアンが来たときにエルフの掟はただの噂だということになっていたことも良いほうに働いたみたいだった。
それでソウも心置きなく村を発つことができた。
ちなみに、リアンとのはじめての夜は……ご想像にお任せする。
――というのは冗談として、毎晩ソウの酒場でシャーリーの訓練と称してどんちゃん騒ぎになり、やめておけばいいのにリアンは潰れるまで飲んでいた。
なにが言いたいかというと、つまり"まだ"だ。
正直言うと、そろそろしたい。まぁ、これでしばらくお預けなのは確定してるんだけど。
今回俺たちは村に立ち寄ることなくまっすぐに人間族の街を目指している。街道を避けることで俺たちが向かっていることの情報が少しでも伝わらないようにするためだ。
王女の狙いがほぼわかっている現状、待ち構えられるのは危険だと判断したのと、移動の期間を少しでも短くするためだ。
移動はイチには悪いと思いつつ、ソウと先生を乗せて運んでもらっている。俺とリアンはもう旅慣れしてるけど、二人はそうじゃないから、そうするのが移動が速く、一日の移動距離も伸びる。
イチのおかげで特に苦労もなく進んでいくことができた。
◆◆◆◆◆
シンたちが再びペリプル村を発って約二ヶ月後、王女テミスの住まう屋敷にて。
「テミス様、シンと名乗る男が拝謁を希望しておりますが、如何致しましょう?」
「そんなものいちいち確認するんじゃない! 訳のわからん者と王女殿下がお会いになるはずがなかろう!」
屋敷の執事が伺いを立てると側近の男が声を荒げて追い返そうとする。
「そ、それが王家の紋章印入りの短剣をお持ちなのです」
「なんだと! 少し待て。王女殿下、如何なさいますか?」
無碍にできない相手と分かり、態度を改める側近。
「うむ。来たか、シン! 連れはおるのか?」
王女テミスは直接執事に問う。
「はい。ハーフエルフの少女が一人と獣人の男女が一組来ております」
「フフフ、ハハハハハ! やはりな! 許しを請いに来たか!」
思い通りに事が進んでいると判断したテミスは笑いを堪えられない。
「お会いになるので?」
「うむ。その獣人、万が一のこともある。武器は取り上げておけ。シンとハーフエルフの方はそのままで構わぬ」
テミスはその獣人は実力者を助っ人に呼んだものと判断する。そして素手の獣人ならばもし暴れても自身の騎士達で対処できる。
更に言うと、シンが反抗するとは全く考えてもいなかった。シンの正体は『勇者』か魔族とアタリはつけているものの、実力が騎士以上ということは完全に可能性から排除していた。それは『勇者』を"管理"する国の体制による思い込みのせいでもあった。
また、前回会ったときにシンが武力行使に出る気配がなかったというのもある。
「かしこまりました。待合室に通しておきます」
そう言って執事は退室した。
「騎士団長をここに。それから団員を数名入り口に立たせておけ。絶対に逃すなと伝えておくのじゃ」
「はっ! すぐに。おい聞いたな。行け!」
指示を受けてそれを室内にいた女中に振る。
「かしこまりました」
メイドは深々と礼をして退室する。そのゆっくりした動作に焦れる側近の男とは対照的に「うむ」と、しっかりと頷くテミス。
さすがにその状況で怒鳴るほど側近も馬鹿ではなかった。
「さぁ、いよいよじゃ。私がこの街の王となり、いずれは……ククク」
つり目の中身を北に向けほくそ笑むテミス。どうやら野望は跡継ぎよりも先にあるらしい。
(そうなれば俺も王都に戻れる日が……)
隣で笑みを噛み殺す側近だったが、テミスに気付かれていないと思っているのは本人だけであった……。
お読みいただきありがとうございます。
次回はシン視点での謁見です。




