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第3話 便利なスキル頂きました

 俺がふうっと煙を吐き出すと物欲しそうにこちらを見つめる裸の魔王プレベール。


「の、のう、もう一本貰えぬか?」


「いいけど、もう残り一箱しかないんだ。これからはそうそう吸えないぞ?」


 まぁ、それは俺もだけど。


「ならばその開いていない方をくれ」


 は?


「あ。あー、言葉足らずじゃな。ちょっと手に取るだけで良い」


「ビックリさせないでくれよ……」


 そう言って新品の箱を渡す。何をする気だ?


「シンにスキルの力を見せてやろう」


 魔王がタバコを手に何かを念じると、ポトリと箱が落ちる。

 魔王が反応しないので俺がその箱を拾って渡そうとして気付いた。


 魔王の手にはまだ()()()()()()()()()()()()


「もしかして増やしたのか?」


「そうじゃ。これが妾のスキルの一つ、『複製』じゃ。手に持てるものをある程度増やすことができる」


 ある程度ってことはできないものもあるんだな。


「便利だな。これなら無限にタバコを――あ、賞味期限あるから無理か」


「そういうものはこうじゃ」


 魔王がタバコを掲げると、何かに吸い込まれるように消える。


「え?」


「これは『収納』スキルじゃ。この中は時間が止まっておるらしい。大元をこうして入れておけば今の状態のものをいくらでも『複製』できるというわけじゃ」


「なるほど、それならここの食料問題も解決だな」


 常に新鮮な食べ物を『複製』できるもんな。


「いや、『複製』のことを知っておるのは妾とお主だけじゃ。いくらでも悪用できてしまうスキルでのう。安易に公開できんのじゃ」


「なんでそんな秘密を俺に?」


 理屈はわかるけど、俺に教える必要あったか?


「シンには必要じゃからの。『ナビゲーター』もそう言っておる」


「『ナビゲーター』?」


「うむ、説明は本人に任せるとしよう」


 他に誰かいるのかと見渡す俺の頬に触れる。


(「はじめまして、私が『ナビゲーター』です」)


 唐突に無機質な女の声が頭に響く。


「な、なんだ?」


(「魔王プレベールにより私が『複製』されたのです」)


 驚いた。まさかスキルまで『複製』できるとは。


「わかったかの? ほれタバコを返そう。『複製』してみるのじゃ」


 『収納』から取り出されたオリジナルのタバコを受け取る。

 というか、『複製』も『複製』できるのかよ。


(「私の他に『複製』と『収納』もあります。使い方は手で触れてスキル名を唱えて下さい。声に出す必要はありません」)


 『ナビゲーター』の説明に従い、手の中のタバコに集中して『複製』と心の中で唱える。


 ポトリと落ちたコピーのタバコを魔王が拾う。

 スキルには制限とかないのかな? 何か消耗したような気配もない。


(「ええ、でなければ私がこうやって話すこともできないでしょう?」)


 そう言われればそうだな。


「妾はこちらを頂いておくのじゃ」


 魔王は拾ったそれをさらに増やして俺のコピーした方を『収納』に仕舞い、新たなコピーを開封しようとするが、開け方がわからないようなので開けてやる。


 そして一本取り出し火をつける。


「ふぅー。質も落ちておらぬな。さて、シンならばもう気付いているかもしれぬが、お主らを召喚したのは『ナビゲーター』の指示じゃ」


 コピーの味を確認すると、懺悔するように話し始めた。


「これはなんだ? 神の意思か何かか?」


(「いいえ。私は所有者への最適解をお伝えするだけのスキルです」)


 魔王への問いには『ナビゲーター』自身が答えた。


「その言い方だと、他人への影響は考慮しないんだな」


「すまぬ。妾達にはもうそれ以外前に進む手はなかった」


 なるほどな。確かに魔王の結界があれば現状維持はできるんだろうけど、それでは根本的な解決はできない。


 そして、今の魔族では現状を打破できるほどの成長が見込めないことも『ナビゲーター』によって知ってしまったのだろう。


 とはいえ俺もど素人だからな。モンスターとの戦闘なんてできないぞ。


(「それは私がフォローします。その為に『複製』されましたので」)


 そういうことか。


「なら、この『ナビゲーター』をリョウたちにも『複製』してやってくれないか?」


「そうしたいのはやまやまなのじゃが……」


 ん? 歯切れが悪いな。


(「魔族は魔王の『ナビゲーター』に導かれているのです。今後この城に残る彼らが所有するのはオススメできません」)


 そういうことか。リョウたちがいない誰かと会話するところを見られたらすぐにバレそうだ。

 それにバレたときに『複製』もバレてしまうしな。


 ならこの城で『ナビゲーター』を持つのは魔王だけであったほうがリョウたちも安全ということにもなる。



 オリジナルのタバコで『収納』を試しつつ、もう一本最初の吸いかけの箱から取り出す。


「そのまま吸ってくれ」


 魔王の吸うタバコの火種に自分の咥えたタバコの先端を付ける。


「ふぅー。あんたが俺達にいろいろと配慮してくれてるってことはわかった。俺は魔王を信じてるよ」


「プレベール、と呼んでくれぬか?」


 少し照れながら言うプレベールは可愛かった。年上にこう言うと失礼かもしれないけど。


「ああ。プレベール、ありがとう」




「シンには数日後には離れてもらうことになる。他の連中がどこまで我慢できるかじゃが……今のシンを森に出すと言えばあやつらも納得するじゃろう」


「聞いた感じ『ナビゲーター』がいなければすぐ死んじゃうだろうしな」


「うむ。なんとか生き延びてくれ。我らは魔法を使う故、たいした武具はないがそれ以外はなんとかしよう。食料は一つずつあれば良かろう?」


「そうだな、『複製』でなんとかなるしな」


「ふ、シンは強いな」


「なんでだろうな。『勇者』になったからかも」


 自分でも不思議だ。現状の受け入れ具合は昨日までの俺じゃない感じがする。

 適当に言ったけど、『勇者』になったっていうのも関係あるかもしれないな。


「ん? そういえばプレベールの『ナビゲーター』は召喚されるのが俺――というか『勇者』だって知ってたのか?」


「いや、そこまではわからなかったようじゃ。現状を打破できる者が召喚される、とだけじゃな」


「それは他の魔族は知っているんだよな?」


「そうじゃ。じゃから『勇者』であっても受け入れて欲しかったのじゃが……」


 この言い方……やはり『勇者』はプレベールにとっても何か因縁のある相手なんだろうな。

 『ナビゲーター』ならわかるのか?


(「はい」)


 なら一人になった後で聞かせて貰おうか。


(「かしこまりました」)



「リョウたちには会えないのか?」


 あと気掛かりがあるというならそれだ。


「うむ、それなのじゃが……おそらくここを離れる時が最初で最後となるじゃろう」


「最後にはしないさ。原因を突き止めて戻ってくるつもりだからな」


「そうじゃな。シンなら――やってくれると妾も信じる。頼んだのじゃ」


 プレベールはそう言って服を着ると牢を出て行った。




 翌日もまた食事を持ってきたプレベールと話をし、行為を致した。

 そのとき『収納』で持ってきてくれた布団のおかげでその日はようやくぐっすりと眠ることができた。


 それからプレベールは食事と共に旅に必要になるものを持ってきてくれ、俺は『収納』に仕舞い、着々と準備を進めていった。



 そして召喚されて5日後、遂に俺が城を離れる時がやってきた。


お読みいただきありがとうございます。


実はシンは見ただけで魔法が使えてそれでタバコに火をつける・・・つもりだったんですが、雰囲気でシガーキスに変えました。


その辺の魔法に関しては次回に。

次回は旅立ちと『勇者』についての話。

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