第27話 ハイエルフと出会った
「これは……?」
「なんだ……石碑?」
(「おそらく魔道具だと思います」)
怪物が消えた場所に残っていたのはなにか紋様の描かれた石碑だった。
魔道具って魔族にしか作れないんじゃ……? それにどういう効果があるんだ?
(「おそらくエルフの思念を集めて増幅するものだと予想します。そのような魔法は聞いたことがありませんが」)
魔法じゃない? なら誰かのスキルで作られた? さすがに今は答えは出ないか。
「これでエルフの「隠れたい」って思念を集めて里全体を隠してたのかもな」
ナビから得た答えをリアンにも伝える。
「じゃあ、これがあったからあの化け物が……」
「たぶんな」
これがエルフの死に際の恨みの念を集めた、と考えるのが妥当なとこだろう。なぜ俺たちが来たタイミングで生まれたのかはわからないけど。
「だったら……シン……壊して」
「いいのか?」
「ええ、私もお嬢さんの意見に賛成です」
!?
突然の背後からの声に二人ともガバッと振り向く。
「誰だ!?」
「シン……この人……ハイエルフだよ!」
振り向いた先にいたのは長い黒髪に紅い眼をした長身の男だった。
(「あの紅い眼がハイエルフの証です」)
「ハイエルフ? それってエルフの上位種みたいな?」
「そうですよ。異世界の『勇者』くん」
「なぜわかる?」
「そうだねぇ。まず、ハイエルフを知らない者はたぶんこの世界にはいないよ」
なるほど。今のやりとりだけでバレたのか。
「なら『勇者』と判断した理由は? もしかしてさっきの戦いを見てたのか?」
まだ味方かどうかもわからないから警戒は解けない。
「ええ。二人とも魔力を使い果たしているんでしょう? 『ハイマナアサイン』」
彼が魔法を発動すると俺とリアンの魔力が回復する。
「便利な魔法があるんだな。助かる」
今張ってる気が緩んだらヤバかった。
「まぁ、私の魔力を渡しただけだからその分私が消耗するんだけどね。それでも君らくらいを回復するのはなんてことないよ」
ってことは魔力200以上はあるな。
「あ、あの、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
やっぱり上位種というだけあって立場も上になるんだな。こんな緊張してるリアンは初めてかもしれない。
「それで、わざわざ気配を殺して俺たちに近付いた理由は?」
姿を見せたということは何か用件があるのか、もしくは俺たちを消す気なのかだ。
「順を追って話そうか。まず、ここに来たのは里が滅ぼされたと聞いたから。そしてあのモンスターが見えて、駆けつけたら君たちが戦っていたんだ。正直に言うと君たちが倒せると思っていなかった」
「なるほど、隙をついて倒そうとしたわけだ」
「結論から言うと実際は君にしか倒せなかったみたいだけどね。千年以上生きてる私もあんなモンスターは初めて見た」
「「千年!?」」
俺とリアンの声が揃う。さすがにリアンにも想像以上だったみたいだ。
「まぁ、そこは置いておこうか。気配を消していた理由は単に普段からそうしてるからなんだ。見つかりたくない相手がいてね。といっても私もそいつを探しているんだけど」
「なら俺たちに姿を見せたのは意味があるんだよな?」
「ええ。その前に、ソレ、壊しちゃいましょう。また変なのが生まれても面倒ですし。私もいつからあるのか知らないくらいですが、里がなくなってしまったのならもう必要ないでしょう」
まぁ、彼からは悪意も感じないし、壊しておいた方がいいというのは俺たちも同意見だった。
「あ、そのまま切ったら剣が折れますよ」
「だろうな。『闘気剣』っと」
さくっと石碑を真っ二つにする。
「では、少し離れましょう。お嬢さんもここで話し込むのは気分が良くないでしょう」
「貴方も、ですよね?」
リアンがそう返すと、彼は神妙な顔付きで深く頷いた。
その姿を見たときからこの人は信用していいんじゃないかと思い始めた。
エルフの里跡から離れ、日が暮れ始めたところで野営を始める。相変わらず周囲に何もない草原だ。
「それじゃあ、何から話そうか。ああ、自己紹介がまだだったね。私はアストライオス。現存する二人のハイエルフの内の一人。もう一人は……いや、まず先に君たちのことを聞こう」
「ん? あ、ああ。俺はシンだ」
話が続くと思ったからちょっと調子が狂った。
「私はリアンです」
「よろしく、シン君、リアンさん。そのままだと長いからアスト、と呼んでください」
「ああ、よろしく」
「はいっ」
俺、リアンと順に握手を交わす。
「さっき言いかけたもう一人のハイエルフはエウリュビア……私の母だ。人々が知っているハイエルフは大体彼女のことだと思っていい。現存するとは言ったけど、居場所はわからないんだ。私と同じように聞きつけて来ないかと少し期待していたんだけど……」
「つまり探しているというのはその母親のことか」
「そうなんだけど、そうじゃない」
「どういうことですか?」
リアンが食い付く。まぁ、俺も気になる。
「母は思いついたらすぐ実行するタチでね。気が付いたらそこからいなくなるんだ。だからちゃんと生きてるかどうかっていう意味で探している」
「確かにそれなら気配を消す必要はないな」
「うん。だから、私が本当の意味で探しているのは……もしかしたら君にも関係があるかもしれないけど……最初に異世界からの召喚を行った魔王だ」
なんだって!? 思わず立ち上がってしまった。
「ふぅ……すまない。なぜそいつをアストさんが探しているんだ?」
深呼吸して座り直す。
「はは、アストでいいよ。これは私と母くらいしか……いや、あの母はわかっていないかもね。話を戻そう。あの召喚からこの世界は変わってしまった。いや、あの魔王に変えられてしまった、と言った方が正しいか」
「どういうことだ?」
「例えば……リアンさんはどこに行っても疎まれるだろう?」
「は、はい……」
「昔はそんなことなかったんだ。ハーフエルフはもっと沢山いたし、それこそエルフは世界中あちこちにいた。それが急に、そしてだんだんと人間全体がエルフは里を出ないものだと決めつけるようになった。おかげで本当にエルフは里から出なくなっていったんだ」
「それがその最初の召喚のタイミングなのか。そもそもなぜ召喚をしたんだ? 俺は森の異常の解決っていう理由で喚ばれたらしいけど」
「ないんだよ」
「「えっ?」」
「当時、召喚が必要なほどのことが何もないんだ」
わけがわからない。プレベールでも魔力が枯渇するほど消耗する召喚を理由もなく? そんなはずはないだろう。
「心当たりは?」
「それがさっぱり。だけど、世界がこんなになったのを見る限り、召喚した人間に何かをしたんだとは思うよ。ただ、召喚した本人はその直後に姿をくらませたから……」
「生きているかもわからない……いや、生きているんだろうな。世界をおかしくしただけで終わり、っていうのはしっくりこないし」
「私もそう思う。それにおそらくだけど、今も何か世界に干渉を続けているんだと思っている。なのにどこにも見つからなくてね」
「手駒を使っている可能性は?」
「それも考えた。私の能力で王族に近付いてみたこともあるけど、指示を受けているような感じではなかったよ。もし接触せずに指示を出せるのだとしたらお手上げだね」
「そうか……俺たちも王族に近付こうとしてたんだけど、エルフを連れて来いってことになって里を探してたんだ」
「先に言っておくけど、私は一緒には行けないよ」
無理だろうと思ったけど、やっぱりか。まぁ、人に気付かれずに動きたいんだろうからな。
結局、その魔王の情報はそれ以上詳しくはわからないようだった。
俺とリアンはモンスターが現れる前に決めていた海岸線から回っていくルートを辿ることにして、翌朝アストと別れた。
お読みいただきありがとうございます。
癖なんだ。気配殺して動くの。




