第25話 エルフの里へ
「あんたら、誰の指示でエルフの里に手を出した?」
確信を持って問い詰める。
「言えぬ」
年老いた猿の獣人が答えた。さすがにもう行動を起こしたこと自体は認めたようだ。
「なぜ?」
「言えぬ」
となると――。
「王族か」
「…………」
老人の眉がピクリと反応する。アタリか。
「なるほど。里の現状は?」
「……なにも」
「えっ?」
俺と老人のやりとりを黙って見ていたリアンが反応する。
「なにも残っておらぬ。せいぜい燃えかすくらいじゃろう」
「そんな――!」
老人の言葉に絶句するリアン。口を両手で押さえて蹲ってしまう。
「そこまでの仕打ち……もしかして命令したのは王本人か!?」
俺の予想にリアンを含めた全員の視線が集中する。
「ゲン爺、こいつは逃すわけにはいかない」
「そうじゃな、あれに気付いてしまっては我々も危ない」
中年の豹獣人が進言すると、老人も同意する。そして、全員が臨戦態勢に入る。
「ちょ、ちょっと待て! あんたらが好き好んでエルフを襲ったわけじゃないことはわかった。俺もこのことは他言しない!」
彼らは自分たちの身の安全の為にエルフを襲った。そしてまた自分たちの為に俺を攻撃しようとしている。
我が身がかわいいのは俺だって同じだ。その選択に理解はできる。
だけど、刃を向けられるならこのまま黙ってやられるつもりはない。
俺の言葉にも止まる気配がない。仕方なくこちらも剣を抜こうとしたところでリアンが膝立ちのまま俺の腕を掴む。
「ダメ、ダメだよシン。悪いのは――」
「わかってる。動きを止めるだけだ」
なんとなく予想できた。なんでここの住人から靄が出ているのか。それは、罪悪感じゃないか? そして恨みとかと共通するのは負の感情ってことだ。
ならば、この獣人たちより人間族をなんとかするしかない。なんとか生き残りのエルフを見つけてあの王女に合わせる。それが当面の目標だな。
「動きを止めるだと!? この人数相手で勝てるわけないだろうが!」
耳のいい兎獣人の男が一足飛びで殴りかかってくる。くそ、なんで男なんだよ。可愛くない。いや、それはどうでもいい。
腕をリアンに掴まれたままなので蹴りでカウンターを入れる。
「ぐ……はぁっ!」
綺麗に腹を捉えた。兎は悶絶して動けなくなる。
「こ、こいつ! みんなでかかれ!」
集団の中の誰かの号令で一気に押し寄せてくる。
「リアンは下がってろ。ここは俺一人でいい」
「わ、わかった。気をつけてね」
「大丈夫、すぐ終わる」
そう言って一歩前に出る。
「そ、そんな……強すぎる……」
死屍累々……いや、一人も殺してないけど、俺の前に立っていた男たちは全員地面に伏した。
そして、一番手加減した老人だけが辛うじて声を出せるようだ。それにしてもこの老人、老いているとは思えない動きだった。
「もう誰の指示かなんて聞かないし、この村ではまだ何も聞いていない、よな?」
老人に話しかけつつ、終わったのを確認して戻ってきたリアンに振る。
「うん、シンが勝手に想像したこと言ってただけだよね」
「信じて……よいのか?」
「誰一人殺してないのがその証、っていうのも変かな? そっちが手を出さなきゃなにもしなかったんだ。これぐらい勘弁してくれよ?」
「そうじゃな……お主は出された拳を払っただけ、じゃ」
「それで、ひとつだけ確認しておきたい。火事が起きたのはどこだ?」
「! ……ここから東に行ったところじゃ。そこはずっと平原じゃと言われとった。燃えるものなどなかったはずなのじゃが……」
老人はそこで言葉を止めた。言えるのはそこまでということらしい。
「なるほど。あとは勝手に見に行くよ」
「お主、名前は?」
「シンだ」
「シンか。すまなかった」
「まぁ、この惨状じゃおあいことは言えないかもしれないけど、お互いこれで終わりにしよう」
「うむ……」
ある意味これが彼らへの罰になったのか、靄は止まっていた。出てしまった靄はまた流れていってしまうだろうけど、初めて『浄化』なしで止められた。
「よし、リアン行こう」
「東……だね」
リアンには見たくないものを見せることになるかもしれない。リアンもそれがわかっているようで、覚悟を決めた顔で頷く。
「何日かかるかは言われなかったな……」
「そうだね。近くはないと思ったけど……」
ひと月近く歩いてようやくその場所に着いた。確かに森があっただろう痕跡といくつか僅かに家の形を残した焼け跡がある。……当然ながら遺体と思われるものも。
「出来る限り埋葬してやろう」
「うん……」
見つかった遺体は20ほど。その全てを一つの大きな穴を掘って埋葬した。リアンから「家族が別々になると可哀想だから」と言われて個別に埋葬するのはやめた。
周囲には木が全く残っていないので『収納』から一本取り出し手前に立て、リアンと並んで手を合わせた。
「これじゃ逃げた人がいるかわかんないね……」
「そうだな……こっち側は集落とかないのか?」
村という程の規模のものはないと聞いている。だけど、どこかに人はいるらしい。
「ごめん、全然知らないの。見た感じこの辺りは平原みたいだし……」
「見渡せる範囲に人が住んでいるような場所は見当たらないな。端の海岸線をぐるっと回ってみようか。何もなかったら一旦ペリプル村に戻る、でどうかな」
「うん、いいよ」
そう言ってそこから離れようとしたとき、背後に嫌な気配を感じた。
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次回は生まれたモノ です。




