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第24話 モンスター化の原因

 どうやらリアンはその事実に対するあまりのショックに記憶を一部改竄かいざんしてしまっていたようだ。

 ただこれは不思議なことじゃない。人間は想定キャパシティを大幅に超える恐怖や嫌悪に対して自分の都合の良いように思い込んでしまう性質がある。

 記憶の改竄はそれの極端な例として地球では知られていた。


「お父さんは仕事中の事故で死んでしまったって言われたの……。でも! お父さんの胸には剣が刺さった跡がはっきり残ってた! それに仕事には騎士が付いてたって私もお母さんも知ってたの!」


 リアンは俺の手を強く握りしめながら思い出した記憶を吐き出した。


 俺はその握られた手よりも自分の胸の方が痛かった。


 空いた手で胸を押さえると、そこにリアンの手が重なる。


「ありがとう、シン」


 気丈に礼を言うリアンのその手を引き寄せ抱きしめると、せきを切ったように泣き出した。


「ごめん……ね、シン。うう……私……やっぱり人間が憎いよぉ!!」


 リアンが叫んだ瞬間、おびただしい量のモヤが溢れ出てくる。


「っ! リアン!」


 『浄化』することも忘れてリアンを抱きしめる。


「落ち着け! 今は俺がいるから!」


「うう……シン……!」


 溢れた靄が俺の影へと入っていく。


「これは……まさか!」


 咄嗟にリアンを抱いたまま飛び退くと、影からイチが飛び出してくる。


「バォン!」


「おいっ! イチ! 俺がわからないのか!?」


「バァウ!!」


 真っ直ぐ突っ込んでくるイチを辛うじて躱す。そして、通り過ぎたイチはそのまま影の中に消える。


「まさかまたモンスター化するなんて!」


 まだリアンからは靄が出続けている。これではイチを『浄化』してもまたモンスター化してしまうかもしれない。


「先にリアンからだ! 『浄化』!」


 一旦それでリアンの周りの靄は消えるが、すぐにリアンからまた出始める。これじゃキリがない!


「リアン! おい! しっかりしろ!」


「嫌だ! もういなくなっちゃ嫌だよぉ!」


 一種の錯乱状態か!? 腕の中で暴れるリアンをなんとか落ち着かせないと! どうすればいい!?


(「下! 来ます!」)


 イチも影から飛び出して奇襲をかけてくる。それをナビの警告でなんとか躱す。


「大丈夫だ! 俺はずっと一緒にいる!」


 とにかくリアンを正気に戻さないと!


「うわあぁぁぁあああん!」


「リアン!」


 咄嗟にリアンに口付けをする。


「むぐっ! んんんんん!」


 バタつかせていた手足が止まったところで口を離す。


「どうだ!?」


「ありがとう……もう大丈夫……だよ」


 顔を赤くしたリアンから答えが返ってくる。


「よし、まずは『浄化』!」


 リアンから完全に靄が消える。


(「魔力残量あと僅かです!」)


「しまった! 消費の大きい『浄化』を連発したからか! これじゃイチに使う分が足りない……!」


「シン、私のスキルを使うよ! イチを元に戻してあげて!」


「リアンのスキル!? うわっと!」


 確認しようとしたところでまたイチが飛び出す。


「大丈夫、信じて! 私がスキルを使ったらイチに『浄化』を!」


「わかった! 頼む!」


 イチは今度はまた正面から突っ込むつもりみたいだ。ここはリアンを信じよう!


「いくよ! 『接続リンク』!」


「戻ってこい、イチ! 『浄化』っ!」


「うう……っ」


 リアンのスキルに合わせて『浄化』を放つと、イチも以前の姿に戻るが、リアンも呻き声を上げる。



「はあっ! 危なかった……」


「ごめん、私のせいで」


「気にするな! それより……」


「大丈夫、思ったより『浄化』の消費が多かっただけだから」


 リアンのスキルは俺とリンクすることで、リアンの魔力で俺が魔法を使えた、ってことなんだろう。俺でも二回が限度だから、リアンだと一回でもギリギリだったみたいだ。


 正直焦った。リアンのスキルがなければ俺はイチを殺さなければならなくなるところだった。


「リアンのおかげでイチも戻せたよ」


「クゥン」


「あはは、イチ、くすぐったいよ」


「イチも「ありがとう」ってさ」


「ううん、こっちこそごめんねイチ。戻れてよかったよ」



 なんとか無事に落ち着けた。




 はずがなかった。



 俺もリアンも魔力枯渇寸前なのだ。



「リアン……」「シン……」


 ほっとして緊張が解けてしまった瞬間、お互いに()()


 思わずまた口を合わせて、その唇、舌を貪りたくなる衝動に駆られた。


「イ、イチ……!」


 辛うじて残った理性でイチを呼び、そちらに飛びつく。


「あっ……むぅ……」


 残念そうな顔をするリアン。悪いけど、絶対にこの衝動でリアンに手を出したくない。


「悪い……な」


「じゃあ、せめて私も……」


 そう言ってリアンもイチに抱きついた。そして二人ともそのまま眠りに落ちた。




「おはよう、リアン」


「んんっ、おはようシン……!」


 見つめあって昨夜のことを思い出すと、リアンはさっと顔を背けた。


「こっち向いて」


 その顔を掴んで向き直させると、そのままキスする。


「んっ」


「あのときの勢いだけっていうのもなんか嫌だからな」


「ありがとっ。嬉しい……」


 魔力枯渇の衝動さえなければそれ以上暴走することはない。


「それじゃ、昨日の村に戻ろう」


「うんっ」


 だいぶスッキリした顔をしてる。昨日のアレを見る限り相当溜め込んでたみたいだな。そこに記憶が戻って止められなくなったんだろう。


「でも、なんであの村を見ただけで思い出したんだろう」


「リアンには靄は見えないのにな」


「うーん、とにかく行くしかないよね。あの時も言ったけど、嫌な予感はまだしてる。気を付けた方がいいかも」


「わかった。あれだけじゃなさそうだな」


 リアンの忠告を再確認して昨日の村に向かった。




「やっぱり凄い靄だな。リアンのも凄かったけど、アレの何倍もある」


「そんなに出てた? なんかちょっと恥ずかしい……」


 そんな会話をしつつ村に足を踏み入れると、いきなり住人らしい男の獣人が立ち塞がった。犬獣人とは似てるけど、少し違う。狼かな?



「おい、ハーフエルフがなにしに来やがった! 俺達はお前に用はないぞ!」


 いつものパターンみたいだけど、違和感があるな……そうだ、いつもこれを言われるのは俺だ。


「エルフとなにかあったのか?」


「な、なにもねぇよ! 俺達はなにもしてねぇ!」


 わかりやすいな。本来は素直な人なのかもしれない。


「もしかしてエルフの里の場所を知ってたり?」


「し、し、し、知らねえ! 俺はなにも知らねえ!」


 狼獣人が明らかに動揺しながら叫んでいると、ぞろぞろと住人が集まってくる。そして、リアンを見てほぼ全員が同じように動揺する。

 慌てふためく者、叫び出す者、ざわつきでは足りない喧騒と言えるような状況になってしまった。


 やっぱりここの住人から靄が出てるな。それも一人一人が昨夜のリアン並みだ。念のためイチを置いてきて正解だったかも。


 昨日確認したとき、村の靄は魔王城がある方角に流れていた。だけど、リアンの靄はすぐ近くのイチに直接向かった。

 だから、イチには村に近付かないよう言い聞かせてある。もしこの村の靄がイチに向いてしまったら……その可能性は高いと判断した。


 昨夜のことで靄がモンスター化の原因であることはほぼ間違いない。けど、その靄の流れていく法則とかそもそもなぜ靄が出るのかはわからない。ただ、近くの動物へ向かってしまう、というのはあり得そうだ。


 それにしても、彼らの靄はなんで出てるんだ? 怯えているようには見えても、エルフを恨んでるとか憎いとかいう風には見えない。



「だから俺は反対だったんだ!」


「見ろ! やっぱり復讐しに来たんじゃないか!」


「だったらどうしたんだ!? みんな揃ってあいつらの奴隷になってればよかったってのか!?」


 色々な声が飛び交っているけど、だいたいこの3つの意見がループしてるみたいだな。まとめると、誰かに脅迫されてなにか復讐されるようなことをした、かな。


 ってことは……こいつらまさか!?


お読みいただきありがとうございます。


闇落ちは私には難易度が高かった・・・。


次回はエルフの里跡地へ。

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