第22話 それぞれの思惑
今回のみ視点が三人称になっております。
◇◇◇◇◇
シンたちがペリプル村を出てから二つ目のテミス王女と出会った村に着いたころ――ペリプル村ではソウが診療所の先生のもとを訪れていた。
「先生、今いいかい?」
「やあ、ソウ。暇だから薬草採りにでも行こうとしていたところさ。店はいいのかい?」
「ああ、シャーリーが片付けをやってくれてるよ。よく働いてくれる」
「それはよかったね。怪我をしたわけでもなさそうだし、僕になにか用かな?」
「用、といえば用さね。ちょっと懺悔を聞いてもらいに来たのさ」
ソウは思い詰めた表情で簡単に世間話を済ませて本題に入った。
「シン君のことかな?」
「よくわかったね。その通りさ。ワタシはなにも知らず前に進もうとするあの子の気持ちを利用したのさ」
ソウの懺悔は続く。
「あの子に「なにかいい旅の理由はないか」と聞かれて、「エルフの里を探している」というのがいいんじゃないかと答えた。それで釣れると思ってね」
「それは…………」
先生もその言葉の意味を知っているらしい。
「リアンからは詳しく聞いてないけど、おそらくあの子もその被害者だ。初めて会ったときから、あの子は男物の――おそらくシンの服を着ていたのがその証さね」
「エルフ狩り……口にするのも嫌になるよ」
「ああ。だけどワタシはなにもできなかった。多くの同胞、家族すらも失ったというのに」
「君はずっと姿を変えて隠れることで生きてこれたんだ。それに、あの時点でなにかをできたわけじゃないだろう? だったらバレずに生きていられることに感謝しておけばいい」
ソウは実はエルフだった。掟破りと揶揄されることに耐えかねて姿を偽りこの村で暮らしていた。そうしてこれたのはエルフであっても受け入れてくれた熊獣人の夫と先生の支えのおかげであった。
そして、リアンの父が殺された理由、それはエルフ狩りと言われる一部の人間族による行動の結果だった。
所在不明と言われていたエルフの里を人間族が見つけてしまったのが発端となり、里は焼かれ、ほとんどのエルフの命が失われた。
生き残っているのはソウのように姿を隠しているエルフが数名に、リアンとそれ以外の奴隷となったハーフエルフがいるのみである。
里への襲撃と壊滅を元々里と行っていた連絡手段で知った直後にやってきたのがハーフエルフを連れたシンだった。
あの時点ではもちろん、現時点までもあのエルフ狩りが誰が何のために指示したのかわからなかった。リアンの言う「領主の指示」も間違いではないのだが、それは根源ではない。
そもそも、身近にエルフがいなかった者はエルフ狩りのことすら知らず、全く情報が出てこない。
そこで、ソウはシンを囮にした。当然シンの強さを目の当たりにしたことで大丈夫だという信頼もあったが、敢えて意図を伝えなかったことがソウの葛藤を生み、この懺悔に至ったのだった。
「ワタシは自分でできなかった復讐をなにも言わずにシンに投げたんだよ。シンはワタシを強いと言ってくれたけど、全くそんなことはない。平然とシンを送り出してのうのうとここで日常を送ろうとしてる卑怯なやつなのさ」
全てを吐き出したソウの息が落ち着くのを待って先生が口を開く。
「ソウ、君はシン君を信じたんだろう? なら、彼はここに戻ってくるよ。そのとき、君ができることをやればいい。それがたとえ自分がエルフだと晒すようなことでもね」
「もちろんだ。この村のみんなに蔑まされようと、それがシンに必要ならもう逃げないよ」
「シン君だけじゃなくこの村も信じてみてくれないかい? もちろん僕も後押しはするよ」
「ああ、ありがとう。先生」
「とはいえ、たまに人間族もやってくる。その時が来るまではいつも通り過ごすんだ。余計なことをすればシン君にも村にも迷惑がかかるかもしれない」
「わかった。聞いてくれてありがとう。おかげで覚悟が決まったよ」
やってきたときとは別人のような顔つきになってソウは酒場に戻っていった。
◆◆◆◆◆
「テミス様も相変わらずですね」
「だ、団長! どういうことですか!? それにあのような者に紋章入りの短剣を渡すなど!」
シンが去った後の宿屋の一階の酒場で、騎士団の団長と呼ばれた男が薄ら笑いを浮かべながら口を開くと、下っ端の騎士が状況を理解できずに叫ぶ。
「そうか、お前は知らぬのか。エルフの里などもう存在せぬ。シンはいつかそれを知り愕然とするだろう。まさか私の下に連れてくるエルフがもういないなどと思いもしないだろうからな」
その指示を出したのはテミス王女ではないのだが、市井の者では知らないエルフの里の壊滅についても把握している。
「な、なるほど……?」
「これでもわからぬのか? 仕方ない。エルフを連れて来れぬシンはただ王家の短剣を持った盗人よ。あれほどの男を好きにできる、そう考えただけで興奮するだろう?」
呆れて溜息をついたかと思うと、今度は恍惚の表情で身を震わせながら説明するテミス王女。シンのように取り入ろうとする者の扱いにも長けていたようだ。
「あ、あの男にそれほどの価値が……?」
「もうよい。団長、こやつはいらぬ。やかましいばかりでなにも役に立たぬ」
一から十まで説明が必要な部下は不要と断じる。こういうところは実はシンと似ている。テミス王女もシンとのやり取り自体は本当に楽しんでいた。
「はっ!」
「そ、そんな……!」
団長に引き摺られ外に出される下っ端。その後彼の姿を見た者はいない。
「くくく、一年後かはたまたもっと先か……シンさえ手に入れれば……楽しみができた。おい、私をそれまで死なせてくれるなよ?」
「はっ! 必ずお守り致します!」
テミス王女もまた、その知識からシンが魔族か『勇者』であるとアタリをつけていた。どちらにせよ自分のものにできれば跡継ぎ争いの切り札になると確信し、その時を待つのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ちょっとソウがぶれててすいません。
隠そうとしてるうちに性格が若干変わってしまってました。




