第21話 王女様との再会(初対面)
「久しぶりにベッドで休めるのは嬉しいけど、断ってもよかったんだよ?」
リアンの意見ももっともだ。
一階が酒場になっているこの宿屋の今いる部屋を借りるのに相場の10倍、銀貨10枚を払った。ビール一杯銅貨10枚=五百円とするなら五万円相当というとんでもない額だ。
それでいて部屋にあるのはシングルベッドひとつ。更にチェックアウトまで部屋を出ないという条件をのんだ。つまり酒場も利用できない。
まぁ、食事はどうとでもなるし、風呂も元々ないから同じだけど、トイレが外にしかないのがリアンにはちょっとかわいそうだった。
それでも留まることで何かしら変化があればと泊まることを選んだ。
着いたのは昼過ぎだったけど、着いてすぐに風呂に入った。
「まぁ、出て行けって言われてもおかしくないし、寝ておこう」
「うん……そうだね……って、シン! ダメだよ床で寝るなんて!」
「いや、さすがにこのベッドじゃ狭いだろ?」
「手……繋いでくれないの?」
「わかったよ」
寂しそうな顔に負けてリアンの隣で横になる。
「えへへ、ぎゅー!」
「お、おいおい」
手を出そうとしたら抱きつかれた。
「たまにはこうやって寝ちゃダメ?」
まぁ、お互いストレスも溜まってるしな……
「ああ、たまにならね。俺もリアンに癒されよう」
「ふぇっ!?」
抱き返すとその行動が意外だったらしく変な声を上げる。
「おやすみ、リアン」
「お、おやすみシン」
「おい、部屋が空いてないっていうのはどういうことだ!」
「前に来た時は奥の一人部屋は使わないと言っていただろう!?」
暗くなった部屋の中に響いてきた怒鳴り声で俺とリアンは目を覚ました。
「なんだ?」
「男の人の声?」
「モメてるみたいだな。念のため追い出されてもいいようにしとこうか」
「うん」
身支度を済ませると、タイミングを測ったかのようにドアがノックされた。
「どうぞ」
返事をするとギギッとドアが開く。そこに宿屋の主人の犬獣人が立っていた。
どうでもいいけど、前の村もペリプル村も犬獣人が宿の主人だったな。なにか繋がりとかあるんだろうか。
「悪いが、あんたら出て行ってくれないか?」
やっぱり予想通りみたいだ。
「理由を聞いても?」
「テミス王女様がここを使う。だから部屋を綺麗にしなきゃならねぇ」
(「シン、あの時の王女様だよ」)
リアンがこっそり教えてくれる。魔族じゃないと言っている手前、知らないと面倒になるところだった。
どうやら襲撃されて逃げていたらしい王女様が戻ってきたようだ。
「それなら出るしかないか。料金を少しでも返してくれたりは……しないんだな?」
「入れてやっただけでもありがたいと思え」
「リアン、行こう」
「う、うん」
俺たちを無視して部屋の掃除を始める主人に呆れつつ、リアンと一階の酒場に下りていく。
「き、貴様は!」
「ん?」
酒場には人はおらず宿泊のカウンターに騎士が三人いて、その内の一人が俺の顔を見て叫ぶ。どうやらあの時の騎士らしい。
「おい、どうした?」
「あの二人、先行していた際に待ち伏せていたんです! あのマフラー、間違いありません!」
あの時も今もソウのアドバイスに従ってマフラーで口元を隠している。それが印象に残っていたようだ。
「おいおい、人聞きの悪いこと言わないでくれ。あの時も偶然そこにいただけなんだ」
「と、言っているが?」
お、この人は少しは話ができそうか?
「ハーフエルフ連れの言うことなど、信じてはいけません!」
「だからあんたはハーフエルフになにかされたのか、って言ってるだろう」
「ふむ、確かにハーフエルフになにかされたことはないが、信用できるということにはならんな」
あれ、これダメなやつか?
「お前たちは何故旅をしておる?」
「テミス様!? いけません!」
騎士達は突然の背後からの声に焦る。
「お前を見て逃げ出したようなやつになぜ怯えねばならぬ? さぁ、答えよ」
これがテミス王女か。俺と同い年くらいの見た目なのに喋り方は年寄りくさいな。なんとなく正直に話してもダメな気がする。ここは設定通りいこう。
「エルフの里を探しています。この子を里に帰す為に」
「掟破りが里に帰ったところでどうする!?」
ああもう、いちいち割り込むなよ。めんどくさいなぁ。
「お前に発言を許してはおらぬ……が、まぁよい。その男の言う通りだ」
「も、申し訳ありません……」
王女様も同じだったみたいだ。なんか気は合いそうだな。
「そもそもエルフに里を出てはいけないという掟がないのです。誰かエルフから聞いた者はいますか?」
せっかくの対話のチャンスだ、とことんいってみよう。
「なるほど。確かに私の知る限りおらぬな。しかし、それは掟がないという証拠にはなるまい?」
「あるという証拠にもなりませんよね?」
「火のないところに煙は立たぬとも言うぞ?」
「それは放火かもしれませんよ?」
「ふふっ。ふふふふふ……面白い。だが、私は自分の目と耳で確認せねば考えは覆さぬ」
「それはつまり掟の存在自体がそうなのでは?」
「そうだな。故にこの件は保留としよう。お前、名はなんと言う?」
「シン、と申します」
「シン、か。覚えておく。お前が私の前にエルフを連れて来たならばお前の話を信じてやろう。掟がなければ出て来れるはずだからな」
「わかりました。必ず」
「ふふふ、全く臆せぬか。やはり面白い。ではこれを」
「テミス様! それは!!」
テミス王女が腰から短剣を取り出すと、騎士が静止しようとするが、王女は無視して差し出してきて、それを受け取る。柄と鞘で王家の紋章が割印になっている。
「お前に預ける。これを見せれば私の元へ来れるだろう。お前達もよいな? 戦う相手を間違えるでないぞ」
「「は、はいっ!」」
「絶対にエルフの里を見つけてみせます」
「それでは足りぬがな。まぁ、期待している」
「では、いずれまた」
「む? このような時間から出て行くというのか?」
「ええ、彼らが怒鳴ったおかげでせっかくの宿を追い出されまして」
ちょっとした意趣返し……くらいいいよな?
「なるほどのぅ」
テミス王女が悪い笑みを見せる。が、すぐに元に戻る。
「いや、すまぬな。とは言え、私も立場上泊まってやらねばならぬ。金でどうなるわけでもないが、路銀の足しにしてくれ」
そう言って金貨を10枚渡された。残っても仕方ないし、貰えるものだけ貰って退散しよう。
「シン!」
受け取って背を向けると呼び止められる。
「ん?」
「また会おう」
「ああ!」
俺の返事にテミス王女は満足げに頷いてるけど、後ろの騎士達の目が怖い。
だって、今のはそういう流れだっただろ?
「シン、行こっ」
その視線に居たたまれなくなったリアンに手を引かれ、村を後にした。
まさか表向きの理由のつもりだったエルフの里の捜索を本格的にやることになるなんてな。
でも、もしうまくいってテミス王女を味方につけられたら……なんて考えが甘すぎだったと俺はまだ知らなかった――。
お読みいただきありがとうございます。
省いてますが王女たちが追いついたのは馬車だからです。
シンたちが歩くペースが速いといってもさすがに馬車にはかなり劣ります。




