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第20話 ストレスの溜まる旅の始まり

「お前、魔族か!? それにハーフエルフ連れてるやつなんて泊められるわけないだろ!」


「俺は魔族じゃない。それにハーフエルフの何がダメなんだ?」


「ダメなものはダメだ。出てってくれ!」


 話も聞いてもらえず宿屋を追い出されてしまった。




「取りつく島もなかったね」


「ああ。仕方ない、この村はスルーしよう」


 ペリプル村を出て西に向かって二十日ほど歩いたところの海岸近くにある漁村は"外れ"だったみたいだ。


 というか、本当に旅人っていないんだな。たまに荷馬車は見かけたけど、人を運ぶ馬車とか歩いてる人は皆無だった。


「ええと、獣人の村は南の方にあるんだっけ?」


 予め決めていた通り、無理をせず次へ向かおう。

 歩きとはいえ森のような危険はほぼないし、大きめのテントも貰ったから隠れて風呂に入ろうと思えば入れるしね。

 何気にこの風呂はいいストレス解消になる。今夜もまた湯に浸かろう。わかってても結構イラッときたからな。


「そうそう。その村から西に行くと人間族の街だね。といっても、そこまでも結構かかるけど」



 リアンは結構かかるというけど、この大陸はいうほど大きくない。

 確かに歩くペースも一度の移動で歩き続けられる時間も元の俺から比べ物にならないほどだけど、それを考慮しても、大陸の中央の魔王城から海岸までが近い。

 そもそも大陸というより島と言った方がしっくりくる。サイズ的に九州とか北海道くらいかもしれない。


 1日は体感で20時間くらいはあるし、重力も地球と変わらない。地球人が召喚されても生きていられる環境ではあるけど、なんていうか、世界が狭い。


 ペリプル村を出るときにソウに聞いてみたけど、ここ以外、つまり外海に出た、という話は全くないらしい。

 ナビですら知らないというんだからもしかしたら本当に人の住む陸地はここしかないのかもしれない。


 まぁ、異世界のここを地球の常識で考えても仕方のないことだけど。



「さて、ちょっと休憩しようか」


 しばらく進んで腰掛けるのにちょうどいい岩を見つけて止まる。


「ごめんね、私と一緒じゃなきゃあの村にも泊まれたかもしれないのに」


「そうか? 普通に俺も魔族と勘違いされそうだったけどな」


「でも、それはなんか大丈夫そうだったでしょ?」


「んー、ならリアンがいれば相手が良い人かどうか見分けられる――っていうのもなんか違うか。まぁ、気にするな」


「えー……」


「だいたい予想はしてただろ?」


「そうだけど、実際目の当たりにすると、ね」


「森に来る前もそうだったんじゃないのか?」


「うん、だけど、獣人は差別しないって聞いてたし、もしかしたらって思ったんだよ」


「そういえばそう言ってた割にめっちゃ差別してるな」


 魔族への反応も良いとは思えない。何十年も接触がなかったから古いイメージと妄想で固まってるんだろう。

 だから獣人の差別しない中に魔族が含まれていない。


 エルフもたぶん同じだ。


 リアンにも今夜は風呂に入ってスッキリしてもらおう。




「それにしてもモンスターがいないっていうのは平和でいいな」


 初めて魔王城から外に出てからずっと危険な森の中だったからな。

 安全に移動できるだけでも平和に思える。


「実は危ない獣はいたんだけどね」


「そうなのか? あ、魔力持ちは襲われにくいんだったな」


「私も初めて実感してるよ」


 俺は気付かなかったけど、リアンには察知できていた獣がいたらしい。

 やっぱり魔の森以外はモンスター化していないようだ。


「俺たちは大丈夫でも襲われてる人がいるなら助けていこうか。それで俺たちの印象がよくなるかもしれないし」


「そうだね。わかった。まぁ、滅多に人に会わないけど」


 そう言って笑い合ったとき、目的地の方から馬車が走ってくるのが見えた。



「おい、リアン、あれ!」


「ん? 馬車? あ、あれは!」


「知ってるのか?」


「王家の紋章だよ! でも、様子が変!」


 こんなところに!? それに確かに王族が乗ってる割には飛ばしてるな。


「なにかあったのかも」



 立ち上がって様子を見ていると、俺たちに気付いた御者をしている騎士が馬を止める。


「ちっ、やはりさっきの奴隷どもは陽動か! 後ろから撃たれてはかなわん、排除する!」


 なんだなんだ? 問答無用で剣を抜きやがったぞ。


「ちょっと待ってくれ! 俺たちはたまたまここを通ってるだけだ。敵対する気はない」


「ハーフエルフを連れてるようなやつの言葉など信じられるか!」


「あんたはハーフエルフが何かするところを見たことがあるのか?」


「そんなもの見ずとも皆知っている!」


 ダメだ。話にならない。少しだけど黒い靄も見える。


「リアン、行こう」


「えっ? えっ?」


 困惑するリアンの手を引いてその場から走って離れる。

 さすがに『浄化』をして『勇者』だとバレるのもよろしくないからな。


 騎士の方も俺の行動が意外だったようで呆気にとられた顔で見送っていた。

 さすがに鎧を着たままじゃ追いつかないし、馬車には王族がいるだろうから離れられないだろう。



「リアン、街道から離れるぞ」


「う、うん」


 さっき奴隷がどうとか言っていた。襲撃されたんだとしたら他の騎士が対応しててあとから来てる可能性が高い。王家の護衛が御者の騎士一人なんてことはないはずだ。



「ふうっ、さすがに追ってこないよな」


「王女様置いて離れないだろうしね」


「リアン、馬車の中見えたのか?」


「見えた、っていうか、見られてたよ。気付かなかった?」


 騎士に集中してて全然気が付かなかったな。

 それにしても王女様、か。助けてお近付きになる、ってテンプレ逃しちゃったな。まぁ、この世界の住人じゃ信用してくれたかわからないけど。



「なんで王女様がこんなところにいたんだろうな」


「たぶん視察だと思う。()()対等な関係だしね」


 「一応」にトゲがあるな。仕方ないとは言えリアンの人間族嫌いも相当だ。どこかでまたシャーリーみたいな信頼できる人間族に出会えるといいんだけど。


「やっぱり跡継ぎ争いかな?」


「そうかも」


 南西側の街はトップの継承権が王族ほとんどにある状態だからその争いが酷いらしい。


 うーん、やっぱり助けられたら王家に取り入るチャンスだったかもしれない。

 王家がハーフエルフを認めてくれたら、それこそ世界が変わることになる。もしかしたら戻ってくるかもしれないし、その時はまた話をしてみよう。



「あの騎士、強そうだったね」


 リアンにはそう見えたのか。


「そうか? 「お前はいいから先に行け」って逃された下っ端かと思ったんだけど」


「あー、だから街道避けたんだ」


「強い騎士がゾロゾロ来てたら面倒になりそうだと思ったからな」


 人目があるところだったら接触するのも考えたかもしれないけど、話が通じるかわからない集団相手だとな。


「確かにね。どうするの? 一旦戻る?」


 おそらくあの馬車は俺たちが追い出された村に向かっただろう。


「いや、あの村に行っても余計に話が拗れそうだ。このまま進もう」


 どうせ「やはり狙ってきたな!」とか言われる。


「そうだね。うん、わかった」




 それからひと月くらい歩いて次の村に着いた。


お読みいただきありがとうございます。


ここからこんな扱いが増えます。

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