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第2話 童貞には危険な世界のようです

 俺は牢の中の硬いベッドの上で眠ることもできずにゴロゴロと何度も寝返りを打っていた。


「っていうか、腹減ったぁ。さすがに放置しすぎじゃないの?」



「すまぬな、誰もお主に近寄りたがらぬのでな」



 独り言を呟いたつもりが、予想もしない返事の声がして思わず飛び起きると、そこには魔王プレベール自ら食事を持ってきていた。


「おおお、メシ!」


「お主の友人達に出した物と同じ物じゃ。安心して食うがよい。まぁ、『勇者』であるお主には毒を盛っても無意味じゃろうがな」


 その言葉の真意はわからないけど、そもそももう魔王は信じると決めた。

 なので食欲の赴くまま、出された食事を詰め込む。


「話は食べ終わってからちゃんとする。ゆっくり食え」


 魔王の気遣いに照れながらも、落ち着きを取り戻して完食する。


「あー、そうだ。タバコを吸ってもいいかな? 聞く相手も居なくてさ、ずっと我慢してたんだ」


 喫煙者にしかわからない感覚だけど、食後の一服は至福なのだ。


「たばことはなんじゃ?」


「趣向品、かな? ほら、コレ」


 ポケットからタバコと携帯灰皿を取り出して見せる。


「それをどうするのじゃ?」


「こうやって火をつけて……はぁー生き返る」


 ふぅっと窓に向けて煙を吐き出し、一瞬魔王の存在を忘れる。


「ほう。妾にも貰えぬか?」


 吸わせて大丈夫かな?


「一応肺には害だし、依存性もあるぞ?」


「ふっ、この『魔王』そういったモノの影響は受けぬ。『勇者』であるお主もそうじゃぞ?」


 さっきのはそういうことか。俺、毒効かないんだな。余計にタバコ増えそうな気がするけど、タバコ……売ってないよなぁ。


「そういうことならどうぞ。あと、火」


 そう言って、タバコを一本とライターを差し出す。


「火は不要じゃ」『ファイア』


 魔王はライターを拒否し、指先に炎を灯す。


「うおっ! それが魔法か」


 初めて見る魔法に少し感動してしまった。


「そうじゃ。ここに住むのは『魔力を使う』種族、通称魔族じゃからの。まぁ、ここまで小さくコントロールできるのは妾と他数名じゃな」


 ここで見た人たちは皆、魔族という種族らしい。


 魔族というと、ゲームやラノベなんかの絵での邪悪っぽいイメージだけど、どう見ても普通の人と変わらない。


「さて、話の前に名前を教えてくれぬか?」


「ああ、そういえば名乗りもさせてもらってないな。俺は真一。一緒に来たあいつらからはシンって呼ばれてる」


 フルネームを名乗る必要もないだろうと思って名前だけ伝える。


「ふむ、ならばここディストピアではシンと名乗るのが良いじゃろう」


「何か理由がありそうだけど、とりあえずわかった」


 まずは話を聞いてからだ。


「では、まずシン達を喚んだ理由じゃな。その窓から外を見てみろ。夜じゃが今宵は満月じゃからそれなりに見えるじゃろ」


 言われた通りに、外を見る。思っていたより高い。


「視界一面森だな」


「ならば手前はどうじゃ?」


「町……の跡か?」


 月明かり程度の光の中でもわかった。

 元々町だったものが破壊されてそのまま放置され朽ちている。


「その通り。アレが町だったのは50年以上昔のことじゃ」


「そのままってことは、破壊したやつはまだいるってことか?」


「正確には違うが脅威が残っている、というのは当たりじゃ。少し長くなるが聞いてほしい」


 真剣な表情を崩さない魔王に頷いて返す。


「その50年以上昔、お主が見た森に住んでいたのはただの動物じゃった。動物達は魔力を持つ相手は襲わない。故に妾たちとは共存関係にあった」


 そのとき既になんとなく察しはついたけど、そのまま聞く。


「あるとき、突然その動物の一部に異変が起こった」


「なにがあったんだ?」


「妾たちは暴走、と呼んでおる。そしてその暴走した動物はモンスターと呼称された。モンスターは魔力を持つ魔族も構わず襲ってきたのじゃ」


「それでこんなことに?」


「いや、始めは倒してしまうことで事なきを得ていた。じゃが、モンスターは増えた。抑えきれぬほどにな」


「それでここに逃げ込んだ、ってことか?」


 そして町は放置された、と。


「そうじゃ。城壁を強化し、ヒトの住む場所を増やすために城を高くしていった」


 なるほど、だからかなり見渡せるくらい高かったのか。


「どうりで。随分高いと思った。でも、それだと鳥みたいな飛ぶモンスターも襲ってくるんじゃないか?」


「シンは本当に頭が良いの。ならばそれを妾の結界魔法で守っておる、と言えばお主らを喚んだ理由もわかるじゃろ?」


「あんたはそれで動けず、あんたほどの戦力がいないから俺たちを喚んだ、か。そもそも結界を張り続けるって可能なのか?」


「動けない、というより、動かなければ魔力は回復するのじゃ。眠ったりして体が休まればより、の。体力も魔力も似たようなものなのじゃ。そして才能にもよるが鍛えれば鍛えるほどどちらも伸びる」


 なるほど、結界を張り続ける魔力よりも回復のほうが早い、と。でも――


「それで俺たちを召喚するほど魔力を使って平気なのか? 寝ないと回復追いつかないんじゃないのか?」


「ふふ、その勘の良さ、無くすでないぞ。妾は話もじゃが、それを補う為にもここに来たのじゃ」


 そう言って服に手を掛ける魔王プレベール。


「な、なにをする気だ?」


 予想外の行動に焦る。何しろ俺はリョウのせいで(というのは言いがかりなのだが)未だ童貞だ。


「なんじゃ、お主やはり『初めてチェリー』か? それは不要なモノじゃ。妾が喰ろうてやろう。なに、妾も久しぶりじゃが快楽の海に連れて行ってやろうぞ」


「ま、待て、まだ話を聞き終わってないぞ。魔族以外にヒトはいないのか?」


 辛うじて捻り出した質問で魔王を止める。


「もちろんおる。人間族にエルフ、獣人と森の外の世界には色々と、な。じゃが、それは事が終わってから話してやろう。なにしろもう限界での」


 気になる事はあったけど、最後の一言が本心だと悟り、身を任せた。




 なんだこれ。リョウのやつはこんなコトをあの3人といつもしてるのか?


「ふふふ、良いぞ、良い。シンの精は心地よい」


 そう言って腹をさする魔王。


「ああ、俺も最高だった・・・」


「こんなことで、と思うかもしれぬがの。魔力が戻ってきておるのを感じるぞ。助かったのじゃ」


「そんなに危なかったのか?」


 魔王の安堵の息を感じ、冷静さが戻る。賢者モードかもしれないが。


「すまぬな、妾も少し飢えてしまっておった。じゃが、魔族は長寿でそうそう孕まぬ。安心せよ」


「あ、そうか。今したのはそういうコトだもんな。というか長寿って、あんた……あっ」


 思わず失礼なことを聞きそうになり口を押さえる。


「構わぬ。そうじゃな、シンは20かそこらじゃろ? お主の10倍は生きておるぞ」


「そんなにか。見た目は俺と変わらないくらい歳の美人なのにな」


 何も考えずに思っていたことを口にしてしまう。


「嬉しいことを言ってくれるな、シンよ」


「ちなみに長寿なのはこの世界のヒトみんなか?」


「お主……。まあ良い。人間族以外はそうじゃ」


 ってことは、人間族の数は多そうだな。

 というか、何を呆れた顔をしてるんだ?


「さっきも思ったけど、魔族は『魔力を使う』種族なんだろ? じゃあ――」


「お主の想像しておる通りじゃよ」


 俺の言葉を遮るように肯定する魔王。


 俺の想像、それは『人間を使う』種族が人間族、ということだ。


 「人間族には階級があり、下の者は上の者に逆らうことは許されない。そしてあらゆる手を使って下に置こうとしてくるのじゃ」


「もしかして――」


 今俺の童貞を奪ったのは……


「シンと話すのは楽でよいな。女に耐性がないとあっという間に籠絡されるじゃろうな。経験のない男というのはそれだけでそういう女共の良いカモじゃ」


「なるほど、怖いな」


「じゃからシンにはここを離れる前に自信をつけてほしい。食事は妾しか持って来ぬからの。また相手をしてやろう。妾もお主とならむしろしたいと思うくらいじゃ」


 まぁ、正直俺もこの魔王とまたできるというのは嬉しい。


「やっぱり俺はここを離れることになるんだな。それで、何をすればいい?」


「動物の暴走を止めてほしい、というのは急ぎ過ぎじゃが、まずは原因を突き止めてほしいのじゃ」


 原因か……見当もつかないな。


「やるしか、ないんだな?」


 たぶんだけど、解決しないと元の地球にも戻れないんだろうという予感がある。


「すまぬ。離れるその時までに可能な限りの情報は伝えよう」


「ありがとう。どうなるかわからないけどな」


 そう言って頭を下げる魔王に感謝を伝える。どうも俺はこの人を放っておけないらしい。

 まずはここで手に入る情報を得ておこう。


 そして、いざという時にちゃんと考えて行動できるようにしておかないと危険だとわかった。


 何故か昂ってきた気持ちを落ち着かせる為に再びタバコに火をつけるのだった。

お読みいただきありがとうございます。


ちなみに魔王はヒロインではありません。が、昇格してくる可能性もなきにしもあらず。


次回はスキルに関する話です。


まだ評価も何もないと思いますがよければ次も読めるようにブックマークを。

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