第18話 置いていく理由と異世界の親友
「ねぇ、シンはなんであの人を連れて行くって言わなかったの?」
昨日と同じ部屋に泊まることになり、部屋に入るとリアンが問いかけてきた。
まぁ、俺の目的の為には仲間は多い方が良かったかもしれない。
「この村の為に居た方がいいと思ったから、なんだけど、まさかソウの旦那さんが殺されてるとは思わなかったな」
「私もだいたい知ってたけど、さすがにあれはビックリした」
やっぱり人間族の国じゃ『鮮血姫』は有名なんだな。いろんな意味で。
「やり合って自分の意思じゃないのはわかったから、せめて誰かを守る立場のほうがいいんじゃないかと思ったんだけどね」
「なるほどね。もしあの人が付いてきても……私、負けないよ?」
「なんの勝負だよ」
形式上は俺が貰ったことになったけど、それでどうこうするつもりもないし、むしろ貰ったのはこの村だと思っている。
「ほら、あの人、大きかったし?」
胸を寄せるんじゃない。
まぁ、確かにミナ並みにデカかったけど。
「はぁ、だから俺がデカいほうがいいって言ったか?」
「う……言ってないけど!」
「そもそも胸の大きさで連れて行くかどうか決めたりしないからな?」
「そうだけど……」
ん? 気になる反応だな。ちゃんと話しとこうか。
「どうしたんだ?」
「だって……シンが一緒にいてくれたのはあの森に私が一人だと危ないから、だよね?」
あー、そういうことか。
「今はそれだけじゃないからな?」
「ほんとに?」
「ああ。もうリアンをどこかに置いていく気はないよ」
「えへへへへ」
「なんだよ、気持ち悪いなぁ」
なんていうか、人に見せちゃいけない顔してる。
「嬉しいんですー! もうっ!」
「リアンはいいのか? さっき表向きの旅の目的はエルフの里を探すことって言ったけど、もし本当に見つけたらそこに残ってもいいんだぞ?」
「ううん、シンと一緒がいい」
「なら、もう余計な心配はしなくていい」
「ありがと」
「よし。それじゃ、少し休んでソウの酒場に行こう」
『ヒール』でそれなりに魔力を消費してるだろうしな。
俺も一度『浄化』を使ってるし、回復したら向かおう。
軽く昼寝をして、酒場に行くと、ソウが店の前にテーブルを運んでいるところだった。
「おや? 準備はまだだよ」
ソウが俺たちに気付く。
「ああ、なにか手伝おうと思ってな」
「主役がなに言ってんだい。――と言いたいところだけど、ちょうど人手が欲しかったんだ。手伝ってくれるかい?」
「もちろん。テーブルを運んでくればいいのか?」
「すまないね。裏の倉庫にあるやつを全部出してくれ。それでも足りないだろうけど、ないよりマシだろう」
村中から集まるんだろうな。
そして住民はその為に仕事を片付けてようとしてるんだろう。視界に入る獣人はみんな忙しなく働いている。
確かにみんな手伝う余裕はなさそうだ。
「わかった。ソウは料理に集中してくれ。肉が足りないならまだあるから言ってくれ」
食べやすそうなやつは『複製』もしてあるからな。
「そうかい? ならその分の埋め合わせはあとで必ずするよ」
気にしなくていい、って言っても聞かないんだろうな。
「わかった。んじゃ、中で出すよ。リアンは先に倉庫に向かっててくれ」
「うん」
追加の肉を渡してリアンと合流する。
「あれ? 思ったより軽い?」
「リアンもそれなりにレベル上がったからな」
「へぇ、なんかこう成長したって実感するのは嬉しい」
そんな会話をしながらテーブルを運んでいく。
立食用の腰の高さくらいのテーブルが全部で10個、店の前に並ぶ。
「全部出したぞ」
「ありがとね。それじゃ、コレを真ん中に置いといてくれ」
ソウに報告すると、結界装置に似た魔道具をほいっと投げて渡される。
「これは?」
「灯りの魔道具さね。使えるのはワタシくらいだがね」
「灯り? 光属性か?」
「ああ、昔の『勇者』特製の魔道具さ」
作らされたのかな、と思うとちょっと重く感じてくる。
「買ったんだよ」
俺が何か聞く前にその答えを教えてくれた。
「さ、二人は中で寛いでくれ。何か飲むかい?」
「じゃあ、麦酒!」
「やめとけ。せめて宴が始まるまでは潰れるな」
「そういやそうだったね。悪いね嬢ちゃん、シンの言う通りだ。水にしときな」
「むー、わかったよぉ」
「シンはどうする?」
「リアンを止めた俺が酒を飲むわけにもいかないし、ミルクでももらおうか」
「はいよ」
ソウが料理をしながら俺たちの話し相手をしていると、そこにシャーリーがやってきた。後ろには先生も付き添ってるみたいだ。
「あの……! ソウ……さん!」
「なんだい? 宴はまだだよ!」
「――っ!」
ソウが強めに返すと、一瞬たじろぐシャーリー。
「いえ、その…………すみませんでした! 謝って許されることじゃないのは重々承知しているんですが――」
「いいんだよ」
謝罪を重ねようとしたシャーリーに割り込む。
「えっ?」
「あの一騎討ちでアンタが命令だからって喜んで相手を殺すような子じゃないってわかったんだ。だから今の言葉だけで十分だよ」
「でっ、でも……!」
「その代わり、これからはこの村をしっかりと守ってもらうからね」
「はっ、はいっ!」
「いい返事だ。ほら、宴はまだだ。戻って今度はコウちゃんも連れてきな」
「わかりました。すみませ――いえ、ありがとうございます」
そう言ってシャーリーは先生と共に戻っていった。
「これでいいんだろう?」
「なんか……悪いな」
「さっきも言っただろう? あの子はあれで許すって決めてたんだ。そこはあんたが気にすることじゃない」
「じゃあ、どういうこと?」
リアンはソウの言葉の意図がわからないようだ。
「あの子は本当はシンに付いていきたいんだと思うよ。でも、それじゃああの子は変わらない。それこそ奴隷のようにシンに付いていくだろう」
「そんな仲間は俺は求めてないんだ」
「あ……」
「呆れるくらいシンは優しい奴だよ」
「受け入れてくれたソウもな。ここで働かせる気だろ?」
「はぁ、お見通しってワケかい」
「そっか、あの人にはそれが一番いいんだね」
「まぁ、当然最初は気まずいだろうけどな。ソウなら任せられると思ったんだ」
「ふっ、買いかぶりすぎだよ」
「なんか……いいなぁ」
「なにがだ?」
「二人! なんか親友みたいなんだもん(ちょっと妬けちゃうかも)」
ん? 最後はちょっと聞き取れなかったな。
「そうさねぇ。こういうのも悪くないと思うよ」
そうか。それは嬉しいな。
「俺もだ」
「私はどういうポジション?」
「嬢ちゃんは娘みたいなもんだね」
「えっ!? 誰との? もしかしてシン!?」
「「それはない」」
俺とソウの声が揃う。
「「ふっ、はははは!」」
ソウと顔を見合わせると、お互いに吹き出した。
「あっ、もー! また私だけ除け者にして!」
「はははっ」
「えへへ」
「あんたたちも十分お似合いだよ」
「えへ、そう?」
あ、めちゃくちゃ嬉しそう。
「まぁ、一緒になるにはまだ問題が山積みだけどな」
「シンはそうだろうね。でも、その気があるならしてやっていいとも思う」
「ま、そのアドバイスはありがたく受け取っておくよ」
「私はいくらでも待ちますから」
「そこはもうあんたたちの問題だから自由にするといいさ。それじゃあ、人も増えてきたみたいだしそろそろ宴を始めるとするかね」
ソウに言われて外を見ると、いつの間にか結構な人数が集まって来ていた。
お読みいただきありがとうございます。
宴はほぼカットです。