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第17話 『鮮血姫』は仇だった

「シャーリーさんがシンのものになったってそういうことだったんだね」


 話を聞き終えてリアンが納得する。


「それじゃあ、わたしのご主人様は貴方ということですね」


「いやいや、もう奴隷じゃないんだし、主従とかそういうのは一旦忘れようか」


 この子もだいぶ奴隷根性が染みついちゃってるな。

 まぁ、この子っていう歳じゃなさそうだけど。俺と同じくらいだろうか。


「でも……」


「そもそもなんで奴隷なのに騎士、いや逆か? なんてことになったんだ?」


 気になってたので聞いてみる。自分の意思で騎士になったのかどうか、そこが重要だ。


「わたしは孤児院で育ちました」


「孤児院ってあっちじゃかなり下の方だろう!?」


 シャーリーが話し始めるとソウがいきなり食い付く。


「はい。ですので、わたしが騎士になることで孤児院の扱いを良くしようと騎士試験を受けたんです」


「なるほど。『鮮血姫せんけつき』なんて呼ばれるくらいだ。その才能はあったんだな」


「わたしの天職は『剣士』。スキルを覚えない代わりにステータスの伸びが良く、剣の扱いに長けた天職です。それを知った時からずっと訓練してましたので、試験を通ることができました。ですが……」


「そこでなにかされたのか?」


「わたしが無知だったんです。貴族様から騎士叙任の儀式だと呼びつけられたそこで……わたしは貴族様の奴隷となりました」


 思ったより酷かったな……。

 今後についてまずは本人の意思を確認してみよう。


「なら、奴隷でなくなったし戻りたいか?」


「いや、シン君それは無理だよ。彼女のことはここにも聞こえるくらいだ。向こうで彼女が奴隷だったことを知らない人はいないだろう」


「そうです。ですのでわたしが戻って何かしようとしてもだれも話も聞いてくれないでしょう」


 先生が割り込んでそう言うとシャーリーも認める。



「まぁ、そうだろうねぇ。シンはどうするんだい? その子を連れていくのかい?」


 それもアリかもしれないし、ソウもそうして欲しいんだろう。でも俺の考えは……


「いや、シャーリーにはここに残ってもらおうと思う」


「えっ? それは…………」


 シャーリーの顔色が一気に悪くなる。

 ソウも表情が強張っている。

 これは俺の予想通りかな?


「シャーリーの『鮮血姫』の由来はやっぱり……」


「獣人を殺したからさ。それも一人や二人じゃなく、ね」


 そうだろうな。他に相手が思いつかない。

 そして、それを言うソウの顔が少しキツくなる。


「だからこそ、だよ。もうソウにもわかってるでしょ?」


「ああ理屈はね」


 声に少し怒気が篭っている。


「シン君の言いたいことはわかった。君はどうしたい?」


「罪滅ぼしと思うならそれでもいい。シャーリーにはここを守る騎士になってほしいと俺は思ってる」


 先生の言葉に付け加える。


「すみません、少し……時間をくれませんか?」


「そうだろうね。先生、悪いけど今夜はここに泊めてやってもいいかい?」


「ソウはもっと感情的になるかと思ったよ。わかった。ソウが言うなら僕は構わないよ」


「すまないね。ワタシも宴の準備でもして一度頭をカラにしてくるよ」


 そう言ってソウは出ていった。



「あの……あの人とわたしに何か……?」


「君が『鮮血姫』と呼ばれるようになった一件……あのときソウの旦那さんがそこにいたんだ」


 えっ!?


「――!? そんな……!」


「君は確かに仇だった。だけど、その君が奴隷で逆らえなかったということを知ってしまってソウも困惑しているんだ」


 さすがにそれは予想してなかった。だからあの一騎討ちの立会人に名乗り出たのか。

 それで俺との一騎討ちを間近で見ていたソウはシャーリーが命令に抵抗しようとしていたことを知ってしまった。


 これはちょっとソウに悪いことをしてしまったな。


「俺、ちょっとソウのところに行ってくるよ。リアンは悪いけど昨日の宿に行っててくれ」


「わかった。シンは知らなかったんだからあんまり気にしちゃダメだよ?」


「お見通しか。ありがとうリアン」


 おかげで少し気が楽になった。


「さ、怪我は治ったかもしれないけど、君達はベッドで大人しくしててね」


「はーい」


「はい……」


 先生に言われてコウは病室に戻っていき、シャーリーも別の病室に案内されて行った。





「ソウ、いるかい?」


「ん? なんだシンか」


 酒場に入ると、ソウはもう料理に取り掛かっていた。


「さっきは無神経な提案してすまなかった」


「あー、先生が喋ったのかい? 気にすんな。だいたいワタシん中じゃもう結論は出てんだ。あんたじゃなくてあの子が一言ごめんって言えたらもう流そうってね」


「ソウは強いな」


 靄が出なかったからなんとなくそこまで恨んでないんじゃないかとは思ったけど、そう考えれるのは凄いと思う。


「あー強いさ。じゃなきゃ一人でここを続けようなんて思わなかったさ」


「じゃあ、詫びついでにコイツも受け取って調理してくれないか?」


 『収納』からまた肉を取り出す。


「お、景気付けにいいね。助かるよ」




「ソウはさ、俺のことどう思う?」


 カウンターに腰掛け、聞いてみる。


「なんだい? さすがに惚れたりしないよ」


「そんなんじゃなくて!」


「冗談さね。……異世界人、だろ?」


「やっぱりわかるんだな」


 そう言ってタバコを取り出し火をつける。


「まぁ、勘さ。だけど、それも言う相手は選ぶんだよ。むしろ言わない方がいい」


「あんまり言うつもりはないんだけどね。どういうところでバレるんだ?」


「まず、口元。隠しておいた方がいい」


 あ、そうか。向こうにも俺の口は日本語に動いて見えるんだよな。


「あとは旅の理由さね。ちゃんと何か答えられるようにしときな。行商人はいても旅人はそうそういないんだ。特にその姿のやつはね」


「そうか、人間族はほとんど出ないし、魔族がそもそも出てこれないなんて知らないもんな」


「魔族が出てこれない? あんたは魔国から来たのかい?」


「魔国、っていうのは初めて聞いたな。もう魔王城以外の街は朽ちていた。魔族はその城に閉じ籠っているんだ」


「最近魔族を見ないとは思ったけど、そんなことになってたんだね」


「そういや、そんなに旅人がいないのになんで宿はあるんだ?」


「獣人にはいるんだよ。だからシンみたいなヒトが旅してると目立つのさ」


「なら、なにかいい理由はないかな?」


「そうさね、エルフの里を探してる、っていうのがいいかもね」


「ああ、掟とかの噂はあるのに場所は知られてないんだっけ?」


「そう、森にあるっていうのは間違いないみたいだけどね。まぁ、どこの森だか。魔の森じゃないことは確かだよ」


「なら、それで行こうかな」


 リアンと一緒ならそれで通じる、かな?


「さ、まだ準備には時間がかかる。また夜においで。とりあえず昼にはこれ食べな。お嬢ちゃんの分もある」


 わざわざ俺とリアンの分の弁当を作ってくれていたのか。

 俺はタバコを携帯灰皿に放り込むと、弁当を受け取ってリアンの元へ帰った。


お読みいただきありがとうございます。


ハーレムは前に書いたので今作はハーレムにはしません。

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