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第16話 『勇者』は結構バレやすいらしい

「にいちゃんスゲェな! あの『鮮血姫せんけつき』をあっさり倒しちまうなんてな!」


 貴族が去るとそこにいた獣人たちがワッと沸き集まって来る。

 頭をくしゃくしゃに撫でられたり服を引っ張られたりそれはもう酷い目に遭った。

 まぁ、喜んでくれてるのはわかったから嫌な気はしなかったけど。



「ハイハイ、今夜はウチで騒いでいいから今はそれくらいで解放してやんな」


 しばらくもみくちゃにされていると、ソウが助け舟を出してくれた。

 髪も服もボロボロだ。みんな相当な力だった。


 それでもあの女騎士の方が強いと思う。

 あっさり躱したけど、あの横薙ぎは特に凄かった。

 レベル上げてない俺だったら真っ二つだったな。



「それで、そいつを貰ってどうする気だい?」


 ソウだけが残って女騎士シャーリーの処遇を聞いてくる。


「まぁ、まずは診療所に連れて行こう」


「急に起きたらどうするんだい?!」


 まぁ、そこだよな。仕方ない。


「イチ。出てきてくれ」


 俺が呼ぶと影からイチが出てくる。


「うおっ!」


 ソウのリアクションが完全にオッサンだ。


「心配しなくていい。俺の相棒、シャドウウルフのイチだ」


「ウォン!」


「お、お、おう」


 なんとか無理矢理納得したみたいだ。


「イチ、悪いけどこの人運んでくれないか?」


「ウォゥ……」


 露骨に嫌な顔するな。まぁ、危ないこと頼もうとしてるから仕方ないんだけど。


「大丈夫、起きても何もできないように武器は俺が持っていくからさ」


「ヴウ……」


「あんた、そうじゃないよ。この子はあんた以外が乗るのが嫌なんだとさ」


 やっぱり獣人は動物の声で気持ちがわかるんだろうか。


「そっか、ごめんな。ちょっとだけ、我慢してくれないか?」


「ォン」


 これはオッケー、か?


 女騎士を抱え上げると、乗せやすいように屈んでくれた。


「!! あんた、コレ……」


「ああ、賭けに勝ったみたいだ」


 結論だけ言うと、隷属の首輪が消えていた。


「あんたもなかなかさかしいね」


「そうか?」


「あいつはこの子を契約変更せずに置いて行った。つまりそう言うことだろ?」


 ああ、やっぱりちゃんと手順踏まないと奴隷の主人って変わらないんだな。

 スキルを使ったのは保険だったけど、その前の賭けに勝ててよかった。


 あ、賭けっていうのは『浄化』で奴隷を解放できるかわからなかったことだ。


 ただ帰すだけなら、あの貴族は自分の奴隷の『鮮血姫』がこの村に残っていると考えて次の行動をしようとするだろう。


 だけど、この村にいるのは解放された『鮮血姫』。もう貴族の言いなりにはならない。


 そして保険に掛けた『誓約』。

 ナビによると、この『誓約』に反する行為をしようとすると全身に激痛が走るらしい。


 ちなみに、どこかの漫画で見たように『誓約』による自身の強化もできるらしい。今のところ必要性を感じないからやる予定はないけど。


「もう大丈夫だと思うけど、その辺の詳しい話は診療所でしようか」





「うわっ! シン、ボロボロ! 大丈夫?」


 診療所に着くと、もみくちゃにされた俺を見てリアンが真っ先に心配してくれた。


「ああ、これはここの住人にやられただけだ。俺自身はなんともないよ」


「あー、みんな遠慮ってものを知らないからねぇ」


 俺の答えに先生も呆れている。


「リアンがここにいるってことはコウの治療は終わってるんだな?」


「うん、おかげさまでこの通り」


 コウが先生の影からヒョコッと姿を見せてくるりと回る。

 こうして改めてみると、16歳くらいに見えたリアンと同じくらいに見えるんだけど、それでも村一番の強さがあるんだよな。


「さて、新たな怪我人がいるんでベッドを借りますね」


 怪我人というか気絶してるだけなんだけど。


「え? あ、ああ、どうぞ」


 入り口の外にイチがいるのに気付いた先生がちょっと焦ったみたいだけど、女騎士を受け入れてくれた。


「悪い、リアンとソウで鎧とか外してくれるか?」


「わかった」


 リアンは素直に取り掛かろうとするが、


「おや、あんたのモノになったんだから気にしないのかと思ったよ」


「え!?」


 うん、その言い方はリアンも誤解するからやめてほしい。


「本人にはその自覚はないんだぞ」


 あ、ダメだ。俺も否定できてない。


「イチはまた影に入っててくれ」


 誤魔化すようにまたイチを隠した。





「じゃ、リアン頼む」


「はい」


 二人が女騎士の装備を取り外し終わったところでリアンが『ヒール』をかける。


「う、うーん・・・」


「気が付いたか?」


「はっ! ここは……あっ、あなたは!」


「ここは診療所。あの貴族はもう帰ったよ」


「えっ、えっ? あの、わたし・・・」


「首輪はもうないだろ?」


 ソウがフォローを入れてくれると、ハッとして首に触れる。


「ホントだ……もう取れないって思ったのに……」


「そこだよ。シン、あんたどうやったんだい?」


「なになに? どういうこと?」


 何も聞いていないコウがキョロキョロと俺やシャーリー、ソウと忙しなく視線を移して問う。


 リアンと先生も何も言わないけど、同じことを聞きたいようだ。


「この女騎士シャーリーには隷属の首輪が着けられてたんだ」


 そう答えてリアンに視線を送ると、リアンは俺が何をしたのか察してコクンと頷いた。先生もコウも信用できるってことだろう。


「『浄化』で解放できないか試したんだ」


 俺がそう答えると、ソウは息を飲み、先生は右手で口を押さえた。やはり二人はそれだけでわかったらしい。


「えっ? 『浄化』って……」


 シャーリーは目を見開く。彼女も知っていたようだ。


「なに? どうしたのみんな?!」


 コウだけがこの場で唯一状況がわかっていない。


「俺は『勇者』なんだ」


「やっぱりかい」


「ソウはあんまり驚いてないよな。最初から予想してたのか?」


「まぁね。魔力持ちが"外"にいるとしたら魔族か『勇者』さ」


「そうだったのか」


「だから、あんまり魔力持ちだなんて言うもんじゃないよ」


「そうだね。この村じゃなきゃ追い出されてるとこだよ」


 おお、それは本当に運が良かったな。ナビのおかげだ。


(「いえ、本当に幸運でした。さすがに現在の民意はわかりません」)


 そうなのか。まぁ、先代のナビ持ちなんて数百年前とかだしな。

 プレベールが持っている間は魔王城からほとんど動いてないんだろうし。



「まぁとりあえずその話は置いといて、一騎討ちの前後から話をしようか」



 リアンたちにもわかるように俺とソウでここまでの大まかな流れを説明していった。


お読みいただきありがとうございます。


次回こそ女騎士のこれからについての話です。

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