第1話 召喚されたと思ったら投獄されてた
「魔王様、こやつを生かしておいては危険ですぞ!」
「いきなり呼び出したのは妾じゃ! 無礼なことを言うでない!」
「ですが! こんなやつと一緒など耐えられませぬ!」
「はぁ、わかった。せめてこやつの処遇は妾に一任してくれ。ひとまずは牢に入れるのじゃ。それならばよかろう? 決して殺してはならぬ。よいな?」
日常の終わりは突然だった。
「おーい、シン置いてくぞ?」
そう声を掛けて来るのは幼馴染の量平。幼稚園からまさかの大学までずっと一緒だ。
金髪イケメンモテモテでいつも3人の彼女を侍らせている。え? おかしいだろって? 俺もそう思う。
ただ、モテモテではあるけど、この3人が変わることはない。こいつは3人に一途なんだ。
「ああ、悪ぃリョウ。って、いつものメンバー勢揃いか」
俺は真一。大学4年で22歳。髪も染めてないし、身嗜みにも気を遣ってるつもりだし、顔も平均よりはいいんじゃないかと思ってるんだけど、リョウといるせいで誰も寄ってこない。
いや、来るんだけど、向かう先が俺じゃない。
そして、リョウが待ってたはずなんだけど、いつの間にかリョウの彼女たちもいた。
「いつものってなによー」
彼女は美奈。リョウの彼女の一人。ちょっと攻撃的だけど、リョウと同じ金髪ロングで一番美人だし、胸もデカい。
「私達はリョウちゃんと一緒にいたいだけなんだよ?」
こっちは美優。フワフワ黒髪に眼鏡をかけてるお嬢様風でおっとりしてて割と俺にも優しい。
「まーまー、シン君も文句を言ってるわけじゃないんだから」
最後に美夏。茶髪のショートカットでさっぱりしてて、このメンバーの潤滑油的、いやオカン的ポジションだ。
「それにしても生徒会長様がタバコとはねぇ」
「うっさいなぁ、お前ら見てるとストレス溜まるんだよ! ていうか、俺が生徒会長やってたのは高校時代だ。いつまでそのネタ引っ張るんだ?」
リョウと昼メシを食った後の一服を終えた後の一幕だったんだけど、これが最後の日常になるなんて思いもしなかった。
そのまま話しながら歩いていると、突然俺たちの足下に魔法陣のようなものが浮かび上がった。
「うわっ! なんだこれ!?」
「わかんねぇけど、ミナ・ミユ・ミカ! 俺から離れるなよ!」
「「「うんっ!」」」
彼女たちがリョウにしがみ付くと、俺たちは光に包まれた。
「やった! 成功しましたぞ!」
「おお、五人も! 流石は魔王様だ!」
なんだ? 誰の声だ?
気が付くと、俺たちは知らない場所に居た。石造りの部屋の中?
「静かにするのじゃ」
若々しい声なのに年寄りくさい喋り方の女がそう言うと、騒がしかった部屋が静まり返った。
よくわからないまま、その声の主を見上げた。
「ここは……? 玉座の間?」
その声の主は段差を登った先に居た。
そして、それを見て真っ先に思い浮かんだのはゲームで見たことのある王様が鎮座していそうな部屋だった。
「あー……言葉はわかるかの? 急に喚び出してしまって本当に申し訳ない。妾がこの城の主、魔王プレベールじゃ。まずは話をさせてほしい」
口の動きは明らかに違うけど、不思議なことにちゃんと日本語に聞こえる。
「え? なに? どういうこと?」
ミナは動揺して理解が全く追いついていない。
「俺にもわかんねぇって」
「夢……じゃないよね?」
ミユがそう言うと、全員が自然に輪になって隣の頬を抓る。
「いってぇー、シンそんなマジにやんなよ」
あれ? 割と軽く抓ったつもりだったんだけどな。
それより俺の頬も痛い。やっぱり夢じゃないみたいだ。
「夢じゃねぇことはわかったけど、アレ日本語を喋ってるんじゃないよな? シン、お前こういうの詳しいだろ?」
「俺にわかるわけないだろ。詳しいって言ってもな、ラノベの話だぞ」
以前から流行ってる異世界転生だとか転移とかのラノベを俺は好んで読んでいたけど、さすがにこれは現実なのか俺にもわからない。
「参考にはなるかもしれないし、シン君の知ってること教えて?」
ミカも俺の知識でいいから納得したい、そんな感じだ。
「とりあえずちゃんとした場所っぽくて、第一声が謝罪だったからあの魔王って人は信用してみよう」
ラノベじゃ地下の狭い部屋でいきなり「いらっしゃませ」だと召喚側が悪いヤツなフラグってパターンが多かったけど、そうじゃなかった。
だから周りの奴らはともかく、魔王プレベールの話を聞いてみよう、と四人に提案した。
そして、魔王の方に向き直ると、魔王はこちらの話がまとまるのを待ってくれていた。
こういった態度にも俺の魔王への信用度は上がっていた。
「まず、この世界はディストピアという。お主らの地球とは別の世界じゃ」
「は? ディストピア!?」
「どうしたんだ? シン」
「いや、ディストピアって言ったらほら、アレだ」
「ユートピア――楽園とか理想郷――の逆っていうか」
ミカが上手く言葉が出てこない俺のフォローを入れてくれた。
「それってダメなやつじゃん!?」
「だから驚いたんだよ」
ミユ以外が口々に俺の反応から連鎖してパニクる。
「それもですけど、なぜ地球を知っているのですか?」
ディストピアっていう単語に俺は思いっきり反応してしまっていたけど、ミユの言う通りそれも気になる。
「簡単なことじゃ。『地球からの召喚』の儀式を行ったからじゃ。そして、その儀式が行われたのはこのディストピアでは初めてではない」
過去にも同じように喚び出された地球人がいたということか。
目の前のプレベールと名乗った魔王は俺たちがパニックを起こしている理由がわからないのか、ミユの質問にだけ答えた。
「お主らを喚んだ理由を話す前にここが地球ではないという証明をしよう。『ステータスオープン』と唱えるのじゃ。これは声に出さなくともよい」
本当にラノベそのままだな。
「ステータスオープン」
俺が先駆けて唱えると、みんなも続いた。
すると、目の前にゲームのようなウィンドウが現れる。レベルにステータス、スキルそして――天職。
HPやMPはないんだな。まぁ、生身だし、死ぬようなことをされたら死ぬってことなんだろう。
「見えたかの?」
ハッとして見渡したけど、みんな視線が目の前のそれらしい空中に集中している。ウィンドウは自分のものしか見えないみたいだ。
「この天職っていうのは?」
それが一番気になった。俺のウィンドウには予想外の単語が書いてあったからだ。だから聞いてみた。
「これからの成長でなにができるようになるか、そう言う指針だと思えばよい」
「じゃあ、この黒魔術師っていうのは? わたしあんまり黒好きじゃないんだけど」
ミナは相変わらずマイペースだな。そういう黒じゃないのはわかる。
「黒は攻撃魔法じゃな。其方はそういう魔法を覚えていくということじゃ」
なるほど、ミナらしい。
「私の白魔術師は回復系ということでしょうか?」
ミユはゲームも多少嗜んでるからか飲み込みが早い。
「そうじゃ」
「私は赤魔術師なんだけど、赤ってなにかな?」
「支援系?」
「ほう、お主よくわかったの」
まぁ、俺もゲーム知識だけどな。ミユもミカも性格通りっぽい。
そして、リョウは――
「俺は魔導師だな」
「「魔道士か……」」「惜しいな」
リョウが天職を告げると、周りの連中が肩を落としている。
「魔道士はそちらの3人の魔法を低級ならば全て使えるようになるのじゃ」
「なんだ、魔導師って微妙だな」
俺も気付かなかったけど、実は話が噛み合っていない。そのことを知るのはずっと先のことだった。
「そんなことはないのじゃ、攻撃、支援、回復が満遍なく揃っておる。これで残ったお主が盾となり得る前衛なら――」
「ああ、俺は勇者、だな」
「さっすがシン!」
「シン君、それっぽいよね」
「まぁ、確かに。認めるわ」
「うんうん」
リョウたちが俺を称え始めるが――
「『勇者』だと!?」
「何故『勇者』が召喚されるのだ!?」
周りが騒ぎ出した。
ん? なんだこれ。
俺にはその騒ぐ連中に黒い霧のような靄が見える。
「え、なんでキレてんの?」
ミナには――いや、俺以外の四人には見えていないようだ。
そして、俺は話の続きを聞くことなく牢に入れられることになった。
だけど、そのときの魔王プレベールの本当に申し訳なさそうな顔を見て、魔王を信じることに決め、みんなにも口で「大丈夫」と伝えた。
「みんなは魔王の話をよく聞いて判断してくれ」
そう言い残して俺は月明かりの差す牢へと入れられるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
週4,5ペースで更新できればと思っています。
よろしくお願いします。
次回は世界の現状の話です。
※一部召喚時の反応を追加しました。